Rarara Rururu 

シンジは、ぼんやりと道路沿いのちょっとした公園で夕日を眺めていた。 場所的に人通りも少なく、まして公園で一休みする人などはいないような場所だったので シンジお気に入りの場所だ。 ふと、聞こえてきた足音にシンジは視線をやった。 「あ、惣流さん」 「げ、碇・・だったっけ。」 「・・・」 いきなり『げ』とか言われてちょっとショックだったりするシンジ。 しかし言葉に割にはアスカの表情は険悪ではない。 二人とも言葉なくいると、 夕焼けに、あたりが一刻一刻オレンジに変わっていくのが分かる。 「こんなところで何してんの?」 シンジは学校の制服のまま、しかもかばんを持っていると言うことは まだ家に帰っていないということだ。 とかいうアスカも同じ状態、唯こちらは帰宅しようと歩いていたのだから当然だが。 「えーっと・・物思う夕暮れ?」 シンジはちょっと照れてはいるがまじめな顔をしている。 「疑問形にされたって分からないわよ」 「じゃあ、刹那の美を感じる会・・・とか?」 「とか、じゃないわよ、とかじゃ。  ったく何いってんだかよくわからないけど。  ・・・・とりあえず綺麗ね」 アスカの視線の先にはオレンジ色の太陽と それに照らされて燃えるような、輝いているような色のくも。 今日は空気が一段とオレンジ色に感じられる。 「惣流さん、昼間はごめん・・」 「こんな景色の前でそんな野暮なこといわなくても良いのに。」 ちょっと自分でもきざな事言ったかなとアスカは思った。 でも、自分の心は確かにそう言っていた。 「そうかも・・でも心に引っかかっててさ  こんな景色の前だから言っておきたかったのかも。」 「ふーん。良いわよ別に気にしてないし。」 「よかった・・。」 太陽は、いよいよ夕焼けの盛りとなり、光るオレンジの宝石となっている。 呼吸をすれば、オレンジ色の空気が肺をその色に染めんがばかりだ。 「実はもうひとつ,あるんだけど」 シンジは前を向いたままアスカに言う。 アスカはしばらく沈黙してから言った。 「良いじゃない・・・全部忘れてしまえば。」 「ははは・・、惣流さんの口からそんな言葉を聞くとは・・・」 そう言ってシンジはちょっと笑顔を浮かべる。 「・・・あんたも結構言うわね。」 こちらも半分苦笑しながら返す。 でもシンジには、 アスカの言葉がアスカ自身に向けて発せられているような気がした。 「隣いいでしょ?」 「え?」 「隣に座っていいかって聞いてるのよ。  わざわざ離れたところに座るって言うのも変でしょうが。  立ってるのも疲れたしー。」 そういってシンジの隣に腰掛けた。 確かにベンチはいくつかあるし、付き合ってもいないのに・・と言う発想もあるけど、 話してるのにわざわざ離れて座っていたらそれこそ逆に何かあるのかと疑いたくなる物だ。 大きくないベンチではアスカとの距離は近い。シンジは少し緊張していた。 アスカが座るにあたってちょっとは移動したけど、 その後あからさまに離れるって言うのもなんだかみっともない気がして動くに動けない。 だから、近い。まるで・・やっぱり恋人みたいだ。傍から見たら。 刹那の美を感じる会、とかいって置きながら、 隣に学校のアイドル的存在が座ったくらいですでにその精神は動揺して意識は全く違うところに飛んでいた。 そんな一人で脳内パニックを起こしていたシンジだが、 ふと、なにか隣に違和感を感じた。 見てみるとなんとアスカはこっくりこっくり舟をこいでいた。 同時にさっきまでの馬鹿みたいな緊張は嘘のように消えた。 その安らかな寝顔は太陽の光とあいなって なんとも言えない美しさを作り出していた。 女性の美しさは、芸術になり得る・・・。シンジはそう思った。 「きれー・・・」 見とれていると思わず声が漏れる。 空を見ていたシンジだったが、 「これは、・・・これでまた・・・」 良いものを見れたと、内心大喜びしていた。 あまりの美しさに、見とれているのもなんだか照れくさいほどだ。 シンジはまた夕焼けに目をやった。 太陽はオレンジから最後の赤へと変わり始めている。 「!」 一瞬シンジの体が硬直する。 何かがシンジの肩に触れた。 そして、その可能性となりうるのはーーそしてそれが事実ーー アスカがシンジに寄りかかっていた。 肩の上にちょこんとその頭を乗せて。 何にもしてないのに、シンジの心臓は激しく動悸した。 チラッとめをやれば間近にあるアスカの顔。 朱色の唇に、まつげに、柔らかそうなほっぺた。 (こ、困ったな・・) シンジは正直に困った。 起こすのは、かわいそうで出来ない。 シンジ自身寝ることが好きだし、 邪魔されると怒るし(アスカだったら・・尚更だと思う) とくに、こう言ううたたねと言うのは本当に疲れた時にするもの・・・ シンジの視線の先にあったアスカの顔が少しゆがんだ。 (そういえば、まだ聞いてなかったな) シンジの心に引っかかっていたことを思い出した。 なぜアスカがあんなにも突然怒り出したかと言う事だ。 感情の起伏が大きいと言うのは何か問題があることが多い。 どうやら疲れていることは間違いないし、 悪い夢を見てるということは、なにか心配事でもあるのだろうか? それに気づいてしまって尚且つそれを無視すると言うことはシンジには出来なかった。 2,3秒顔をしかめた後、 またアスカは安らかな寝顔に戻った。 太陽は、もうその頭の部分だけを地平線上にわずかに出すだけとなった。 (あー多分僕の後ろにはそろそろ空の青い色が戻ってきているんだろうなぁ) シンジの最も好きな瞬間。 即ち夕焼けの最後の部分から夜にかけて オレンジのそらと、段々と色を増していく青いそらの融合。 このグラデーションが、夕焼けの最後が、はかなくて好き・・と言うか魅力的なのだ。 (でも、ま、いっか) 自分の肩によりかかり、 その後ろに広がっているであろうグラデーションを見ることを制限しているアスカの寝顔であったが、 それはめったに見れるものではないし、とても魅力的であることには違いなかったのだから。 「カァーカァーかぁー」 ん? あたりを見まわすと、もう太陽など姿も見えず 空も青と言うよりかは夜の闇へと変わり始めていた。 シンジは気づいた、自分も寝てたんだと。 (そういえば、惣流さんは・・) ・・・まだ寝ている。 でもそろそろ起こさないとまずい。 多分7時も迫ろうかという時間だろう。 「惣流さん、惣流さん。」 軽く呼びかける。 起きる気配はない。 「惣流・アスカ・ラングレーさーん、起きてくださーい、夜ですよ」 それでも起きない。 軽く肩を揺さぶっても起きない。 「コラ、アスカ起きなさい!」 ためしにちょっと遊んでみた。 「マ、ママ?」 ビクッと体が震えたと思ったら突然身を起こしてシンジを見る 「ア、アスカ?『ママ!』」 最後の方の呼びかけはシンジの口の中に消えた。アスカに抱きつかれて。 アスカは寝ぼけている。間違いなく。 シンジはそう思った。 抱きつかれても意外と冷静な自分のほうに驚いていたりもした。 「すいません惣流さん・・・僕は碇シンジです。」 ・・・ 「わかりますか?碇シンジで・・す」 抱きついていたシンジから離れ、じっとそのの顔を見つめる。 そしてやおらあたりを見まわして、どこだか気づいたのか目に生気が戻る。 そして未だ自分が腕をかけているシンジの顔を見る。 「なっ!・・・」 ぱっとその手を離す。 「何してんのよ!」 「座ってただけ・・」 それ以上の言葉が続かないアスカ。 そして今度は何をしていたかを思い出そうとしているのか 頭に手をやり考え込んでしまった。 「ねぇ、私寝ちゃったのよね?」 「うん・・・僕の隣で。寄りかかりながら」 「・・・わ、悪かったわね」 「いいよ、別に。良いものも見せてもらったし」 言った後すぐにシンジ後悔した。 「アンタ何を見たの!」 「え・・いや」 「ま、まさかエッチなことしたんじゃないでしょうね!!」 「ち、違うよ! ただ、寝顔がきれいだったなぁ・・って・・。」 カァーとアスカの顔が赤くなるのが暗くなってきたにもかかわらず分かった。 エッチ・・とかいうあらぬ誤解を受けてたシンジも同様であるが。 「そ、それでさっきのは何?」 思考を再起動させたアスカがシンジに聞く。 「え?」 「何で私が・・その・・」 ちょっと口篭もるアスカ。 「ああ! えーと、僕も寝ちゃっててさ。  気づいたらもうあたりも暗くなってきたから起こそうと思って声をかけたんだけど。」 アスカがまた何かを思い出そうとしている。 「それで?」 「ふざけておかあさんみたいな口調で言ったら・・」 「・・・私なんか変なこと言った?」 何かアスカの記憶に残っていたのだろう。 だが、シンジには言って良いものかどうか分からなかった。 「その・・別に全然気にしなくて言いと思うんだけど」 「なに、なんて言ったの!?」 シンジは一瞬沈黙するが、言わないわけにもいかない。 「その・・ママ・・って」 それを聞いた瞬間に、いきり立っていたアスカからがくりと力が抜け またベンチに深く沈んだ。シンジに問い詰めた時のまま正座してシンジの方を向いていたが。 「それで私があんたに抱きついたって訳。」 「そう。」 しばらくの沈黙。 「ごめん・・声かけても起きなかったから、  ふざけて アスカ起きなさい って言ってみただけなんだ。  ・・・なんかつらいことがあったんなら、僕で良ければ話聞くけど。」 ぐす・・。アスカが鼻をすすり上げる音が聞こえた。 泣いている。 「ごめん・・・」  段々と嗚咽を大きくしていくアスカ。 (強気ともっぱらのうわさだったのにこんなに泣いてるなんて・・。  つまり、真実は見えるところにはないってことかぁ。) すっかり日も暮れ、電灯に光がともっている。 あたりには虫の音とアスカのすすり泣く声だけが響いていた。 どれだけの時間が経っただろうか、大きな声を上げて一気に決壊はしなかったものの 長い間しくしくと泣き続けていたアスカも段々と落ちついていった。 ベンチの上でお互いに向き合って正座していると言うおかしな格好だった。 その距離は、近くもなく、遠くもなく・・。 「悪いわね、変なことに付き合わせちゃって。」 鼻をすすり上げて、手で涙をぬぐいながらアスカは言った。 「え、いや、・・大丈夫?」 「まあね、ちょっと寂しかっただけ。  あの夕焼けもなんだか哀愁を誘ったしね」 そういって、涙でぐしゃぐしゃになった顔でちょっとだけ照れくさそうに笑う。 そして、それは一つの魔法をかけた。 コトリ・・・心臓がひとつ動き、   それは、ある『ひとつの恋』の始まり・・・。
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