おっすシンジ。」
「おーーす。今日はえろう早いやんけ」

いつもの二人がシンジに声を掛ける。

「おっす、えらく早いってのはひどいよ。
 まだ新学期早々じゃないか。」

シンジは、実は時間際の魔術師と異名を取るほどのギリギリ男。
毎朝のように朝のチャイムとのデットヒートを繰り広げるのが常だ。
例外なのが、このように新学期でまだ緊張感があったり、
何かイベントがあるときだ。きちんと時間どおりにくる。現金なもので。

「おっす!」

「?」
「?」
「?」

いやに高くて明るい声が掛けられた。
まだこのクラスでそんなに仲が良くなった友達などいないはずだが・・
そう思いながら、3人が視線を向けた先にはなんと惣流・アスカ・ラングレーが!

「れ? あいさつしてんのに返してくんないの?
 わざわざ3バカトリオ共通語の『おっす』を使ってあげたのに」

3人ともぽかんと驚きの表情をしたままだ。


「お、おはよう」
「おはようさん・・一体どんな風の吹き回しや?」
「おおお、おはようございます惣流さん!今日はまたうつく『ボカッ』・・」

「べっつにー、なんとなくよ。」

そう言うと本当に何もなかったようにすたすたと自分の席に向かっていってしまった。

「なんやったんや?」
「シンジなんかあったのか?」

意外とケンスケ鋭くシンジの表情を見破る。

「え?」

「あ¨〜〜!さては昨日なんかあっただろう」

「昨日って・・雑巾ぶつけて」

「ノンノンノン、そんな事じゃないよ〜シンジ君!」
迫り狂うめがね。

「親友に隠し事かね〜!?ゴルァ!」
いつになく厳しい追及。
だが、それもまた圧倒的な存在感をもつ声にさえぎられた。

「・・おっす」

その声には、ボリュームは大きくはないが有無を言わさぬ圧倒感があった。

聞きなれぬ声に3人が振り向くと、そこにいたのは綾波レイ。
これこそもっとも奇跡に近い、奇跡。それは・・唯の奇跡だけど。

この奇跡を周りの生徒も見逃しはしなかった。

『あの』綾波レイが、男子生徒に挨拶をしている?
謎に包まれた美少女。口を開く事はなく、まして表情を変えることもない少女!
すべてが謎に包まれて去年1年を終えた綾波レイ・・・・
それが、それが、彼女から喋りかけている!?

   ・・・しかも、よりによってクラスでもっとも馬鹿そうな3人組に・・。

この事実は、このクラスが本当に尋常でない事を物語っていた。
つまり、この綾波レイの口を割らせられる(悪い意味ではなく)人物がいるということだ!

さすがにびっくりした3人は今度は再起動に時間がかかる。
そして、まさに『とどめ』を刺さんばかりの一言。

「碇君、初日に見つめあったあの熱いまなざしは偽りなの・・・?」

『ぼん』

ああ、確かにシンジの頭からそう言う音が聞こえたよ
後日、相田ケンスケは証言する。

「え、。。ええ?・・・あ、ああ う・・。!・・?」

もはやシンジの口は別の生き物と相成り、人類に理解不能な音の振動を出すことはできなかった。
目もまさにしどろもど・・白黒させている。

クラスは、蜂の巣をつついたような騒ぎとなった・・。と言うか、そんなレベルじゃない。
大体誰が言っても驚くようなすんごいセリフを、こともあろうか綾波レイが・・?
ふとお弁当をあけたら、時限爆弾あと2秒!?見たいな感じの驚きがクラス中を駆け巡った。

だが、その驚きは無音のうちに行われた。
誰もが声に出してないのはこれからの展開を逃すまいとする本能か。
ある意味表情だけが驚きを語ると言うのは恐怖だったけど。

ちなみにこのニュースは、相田ケンスケの尽力によリ設立された
第三東京市内の綾波ファンクラブを激震させることは間違いないだろう。

注:綾波ファンクラブとは、このレベルの高い第一中学校全体を総括したファンクラブ
  『L・O・V・E 一中美女 ファンクラブ』の中の一部である。
  これは相田ケンスケが写真販売網を広げる為、そして世の男子の為に発足したものである。
  かわいい生徒だけでなく、先生のレベルも高いことが守備範囲を広くして会員数はうなぎ上りだ。
  当然非公認で、アンダーグラウンドも良いところではあるのだが・・・。

長くなったが、話に戻ろう。
とにもかくにもシンジの脳に多大なダメージを与えた綾波レイの爆弾発言。
言ったレイは涼しい顔をしてシンジを見つめていた。
言われたシンジは傍目にも可哀想なぐらい混乱していのだが・・。

「あ、綾波大胆やな・・・」

「イヤーンな感じー(T。T)」

レイは、声をかけられたほうに視線をやる。
そこには特に感情と言うのはいつもどおり感じられなかったが。

ーーちなみにその間にシンジは混乱状態を超え、遂に魂の解脱へと達した。ーー

「しかし、あっぱれや!
 こないな度胸、熱い心がある奴とは知らんかった!」

なぜかトウジが感動の涙を流しながらレイの肩をたたいていた。
レイは、それに対し困惑の表情を見せていた。
それはそれでまた回りの好奇の目を集める事になるのだが。

「男が女に人前で愛を語るなんつーのは言語道断じゃが
 女子(おなご)がこのように勇気を持って人前で告白するっちゅーのはなかなか出来るもんやないで
 まさに身を張った愛っちゅうわけや!」

トウジが熱く、しかし訳のわからない解説を続ける。

「これほどまでの愛にこたえられんちゅー男は、男やない!
 シンジ、分かったったれや!」

「え。。。え?」

えらい方向に話が進んだものだ。
どんな誤解があったか知らないが、
トウジがそれをさらにダイアモンドの共有結合が如く解くのを難しくしてくれた。
シンジは、このわけの分からないのを友達、いや、親友にまでしてしまったことを、
これほどまでに後悔したことはなかった・・・。

だからと言ってこのままにしておく訳にも行かない!
綾波さんの視線がなんとなく・・それらしき熱を帯び始めている。
碇シンジ、人生最大のピンチを人生最高の努力を持って解除に向かう・・

「あ、あの、綾波さん。どうし『キーンコーンカーンコーン』・・」
「は、早く席に着いて!」
『ガク』シンジのひざが力を失いぽっきりと折れる。

だがその瞬間、無情にも学級委員の声が響き渡った。
哀れやシンジ。さらに状況は悪化していくのだった。

多分、今日中には・・いや、この授業が終わる前に・・、いや・・・
後数分でおかしなうわさがこの学年中を飛び回っている事だろう・・。
だって、まだ授業が始まったばかりなのに、えらくタイプの音がうるさいもの・・。

みんな、まだ出席確認だよ・・・。



短い・・。
TOP 次に進む