ハッピー?バレンタイン





「バレンタインデーは、バレンタインさんの命日なんですぜ。」





バレンタインの前日、総悟くんはひどく真面目な顔でそう言った。

総悟くんにしてはなんてマトモなことを言うんだろう!

失礼ながらも、私は一瞬とても驚いた。





「チョコレートは日本のお菓子会社の陰謀なんです。」





だから、俺はチョコレートはいりません。

いつもと同じ何を考えてるかよくわからない顔で、それでもきっぱりと彼は言った。

私は、とてもうろたえる。

総悟くんがそんなことを言ったのにも衝撃を受けたけれど、

それよりももうチョコレート用意しちゃったんですけれど…その事実に焦った。



せっかく高級チョコ用意したのに!

…ちなみに私の料理の腕前は上中下で表すと間違いなく下なので、手作りはもとより選択肢にない。

それでも給料日前の私には、すごく痛い出費だったのだ。





「…じゃあ、総悟くんは明日はなにもいらないんだね〜。」





ショックを隠しながら、私は笑った。

お前のせいで私の金が…!と笑顔のうらは恐ろしいものだったけれど。

総悟くんは一瞬だけキョトンとした顔をしたが、次の瞬間にはニヤリと黒い笑みを浮かべた。





「いや、もらいますぜ。」





彼の手が、私の顎に添えられる。そのままぐいっと上を向かせられた。

目の前には総悟くんの顔。

そして、とても嫌な予感。





をもらいやす。」





にっこり。

総悟くんの目が意地悪く細められたのと、私が悲鳴をあげたのはほぼ同時だった。





「明日はのご両親のところへ娘さんを下さいって言いにいきます。」





「いやだぁ――!」





「ついでに婚姻届を出せば完璧だぜィ。」





チョコレート会社の陰謀よりも、総悟くんの陰謀のほうが何倍も恐ろしい。

身にしみて分かった、バレンタイン前日だった。










○end○