広島弁の
ワトスンの推理法修業
「なんや、ワトスン。なにぃ考えとるんや」
「あんたのことよ」
「わしのこと?」
「ほうよ、ホームズ。あんたの推理法いうもんが、どがにい浅薄なものかいうことを考えとったんよ。しかものう、世間が依然としてそれに関心を示しとるのは不思議じゃ、ともの」
「ほんまに同感じゃ」とホームズはゆうた。「ほんま、わし自身、これまでにおんなじようなことをゆうてきた覚えがあるがのう」
「あんたの方法なんてもんは」と、ワトスンは辛辣に、「ほんまに簡単に身につけられるもんなんじゃ」
「まちがいない」ホームズはほほえみながら答えた。
「そうゆうからにはあんた、自分でこの推理法の見本を示してくれるじゃろうのう」
「お安いご用じゃ」とワトスン。「まず手はじめに、けさ起きたとき、あんたはなんかにひどお気をとられとったとゆうていい」
「おみごと! いったいなんでそれがわかったんや?」
「なんでかいうたら、いっつも非常に身だしなみのええ男じゃのに、けさにかぎってひげをそるのを忘れとるからじゃ」
「おやおや! なんと鋭い! ほんまにワトスン、あんたがそれほど出来のいい生徒じゃとは思ってもみんかったよ。まだほかにあんたの炯眼が見抜いたことがあるんか?」
「あるで、ホームズ。あんたはバーロウいう依頼人に事件の調査を頼まれたが、まだいまのところ、その解決には成功しとらん」
「ほほう、なんでそれがわかったんや?」
「封筒の外にその名前が書いてあるのを見たんじゃ。そいつをあけた時、あんたはうめき声をもらして、しかめっつらでそれをポケットにつっこんだ」
「たいしたもんじゃ! たしかに鋭い観察力じゃね。ほかには?」
「どうやらこのところ、あんたは投機に夢中になっとるようじゃ」
「いったい、なんでそんなことがいえるんや、ワトスン?」
「新聞をひらいて、金融欄を見るなり、おおっと興味をひかれとるような大声をだしとったけえね」
「なるほど、じつにもってご明察じゃね。ワトスン。ほかにもあるんか?」
「あるわい。いつもの部屋着のかわりに、あんたは黒い上着を着とる。これはまもなく、大事な客が訪ねてくる、ゆう証拠じゃ」
「ほかには?」
「見つける気になりゃあ、まだいくらでもあるんじゃ。じゃがまあ、これぐらいでいいじゃろう・・たんに、世の中には、あんたに負けんぐらい明敏な観察力を発揮できる人間がおる、いうことを実証するためにやりょうるだけじゃけぇ」
「そしてそれほど明敏でないもんもおる」とホームズはゆうた。「それからあんまり大勢でないことは認めるがのう。ほんでも残念じゃけどワトスン、あんたをその少数のなかに数えにゃあいけんようじゃ」
「どういう意味じゃ?」
「つまりのう、あんた、あいにくあんたの推論はわしの期待したほどあざやかなもんじゃなかったとゆうことよ」
「推論がまちがっとった、ゆうんか?」
「まあ、そういうわけじゃ。ほいじゃあ順ぐりに検討しちゃろう。まず、わしがひげを剃らんかったのは、剃刀をとぎに出しとるからじゃ。ちゃんて上着を着こんどるのは、不運なことに、早い時間に歯医者の予約があるけぇじゃ。歯医者の名前はバーロウ、ほんで手紙はその予約を確認するためにもんなんじゃ。金融欄の隣にはクリケットりページがあって、そこをひろげてみると、サリーがケントに一歩も譲らん健闘を示したいうことが出とる。じゃが、まぁがんばりんさい、ワトスン。その調子でがんばることじゃ! これはいたって浅薄な技術じゃけえ、遠からずあんたもそれを身につけられるはずで」