木々高太郎

「江戸川乱歩論」 「江戸川乱歩ー評論と研究」中島河太郎編 講談社 S55

P48 例えば、「心理試験」「二廃人」「二銭銅貨」「石榴」の如きは啻に日本の文学のうちですぐれているばかりではない。これは、世界の何処の文学に比較しても決して見劣りのしないものであると、私は思う。この如き作品は、コナン・ドイルの最も立派な作品よりも、更に勝れたものであり、このことは、これ等の作品が、外国語に翻訳されて流布することになれば、欧米の諸家も亦認めるようになるであろうと、私は思っている。

「折芦」 木々高太郎全集2 読売新聞社 S45

P174 「私は、シャーロック・ ホームズの物語を、学校の英語の教科書で習ったことがございますが、あの中の『斑の紐』というのを思い出すのでございます。」

 客の女は、かなりいい発音でスペックルド・バンドといった。

P182 「人間の心、人間の言葉でも事実に即して生じたものは、もちろん説明される筈です。だから、むしろ斑の紐とか、恐ろしい口笛!とか叫んだのなら、それは事件とともに必ず説明されねばならぬことになるのです」

P234 「いいでしょう。ーシャーロック・ホームズをやるのですね、東儀さん」

 そういったので、四人は一緒に笑った。

 東儀はちょっと恥ずかしそうに、上着のポケットを一つ一つかえして、僅かずつ、たもとくずを取って、自分のポケットから白紙を出していちいちつつんだ。そして、鉛筆でポケットの順序を記した。

「この洋服は少なくともよそ行きの洋服ではないらしい」

 東儀は洋服のポケットからすっかり、たもとくずを取り出して、分類してしまってからいった。

「そんなことは、どうも、シャーロック・ホームズでなくたってわかりますね。ポケットを調べなくたって」

 岡田警部がからかい気味に、東儀の方を向いてそういった。

「いやいや、それが、やはりホームズなんだよ。たとえば、この洋服が普段着であるとすると、銀行へ出かけて行って、急な用件で大坂へ出発することになり、家から旅行用の荷物を取りよせたこともよくわかる」

P237 「ホームズがまた何か見つけ出しましたね」

 岡田警部は、東儀の先刻の推理を聞いてから、東儀のこの種の行動を馬鹿にしなくなったとみえて、こういいながらついて来た。

「人生の阿呆」 木々高太郎全集1 読売新聞社 S45

P332 「(前略)私が二十歳くらいのときでした。私の兄の友人の方が、これに似た楽譜を作って私に弾かせたことがありました。どうしても弾けないので、その方は面白がって種あかしをしましたが、それは、言葉を暗号にして楽譜に書いたのです。どうも私はそれを思い出すのですよ」

「その御友人というのは、何か科学者でしたか、単にいたずらのためでしたか」

「いいえ。その方は、コナン・ドイルという小説家でした」

「え? あなたはコナン・ドイルをご存知だったのですか」

「では、ミス・ミツコのパパも、コナン・ドイルを読みますか。ええ、ええ、私はあの方を英国に住んでいた頃、ようく存じあげていましたよ」

 志賀博士の眼は輝いた。

 およそ探偵小説に遭遇している人で、よかれしかれ、コナン・ドイルを読まぬものはあるまい。実際の捜査に役立つかどうかは、別として、コナン・ドイルを身近く感じないものはあるまい。志賀博士はドイルの全作を暗んじていると言ってもいいくらいの自分が、ここで、年の暮れの霧の深い東京で、ドイルをよく知っていたと言う人に逢ったというのは、何という運命なのであろう。

「ドイルさんは、その試みをいつか小説にしてみると言っていました」

「ところが、ミス・マクラレン。ドイルの全著作に、楽譜の暗号をつかった小説はひとつもありませんよ。それは、ついに小説にはならなかったのですか」

「私も、あとで、その疑問を起こしました。そして、そのことをドイルさんに聞いてみたことがありました。すると、確か、ドイルさんはそう言いましたよ。ああ、あれは流産しました。暗号も出来、すべての計画は立ったのですが、ただ一つ、モチーフが欠けました。モチーフのないものは、小説になりませんと」

菊池道子

「グルメの味は平和の味!! ミステリー美食学番外編」 EQMM1987 1月号

P174 南アフリカを舞台にしたミステリーとしては、食べものは出てきませんが、(中略)それにホームズものの中にもいろいろあります。

「猫はニャンでも知っている ミステリー美食学番外編」 EQMM1988 11月号

P205 犬もまたミステリーでは古典的存在である。ホームズものの名作長編「バスカヴィル家の犬」。ある愛猫嫌犬家がこのミステリーを読んで宣わったそうだ。「犬ってのはね、猫と違って主体性がないから悪い人間にも忠実なのさ、これがよい例だ」。こういうミステリーの読み方もあるらしい。

「はじめトロトロあとパッパ生煮えできても気にするな ミステリー美食学番外編」

                           EQMM1986 11月号

P173 そのほかベーカリー「ベーカー221」をつくって、<スコーン><マッフィン><トライフル>を販売する、などであった。

P173 シャーロック・ホームズの重厚な書斎が再現されたコーナーの前に屋台を張って「ちょっと奥さん、これ食べてみて。あら、その子、さっきも来たでしょ。試食は一回きりよ」などとやっている自分の姿を想像して愕然とした。

P175 今日もまた私のところのホームズのチキン・カレーの蓋がしまっている。「海軍条約事件」に因んで、条約文書の紙筒をお皿の蓋の間からのぞかせる趣向なのに、ご親切にきちんと蓋をかぶせてくれる人がいるのだ。

「ボンベイー汗に濡れた警部たち ミステリー美食学番外編」EQMM19887月号

P173 インドは長い間英国領であったこと、また外国への移民も多いため、シャーロック・ホームズものはもちろん、いろいろなミステリーにインド人が登場しているようです。P174 当ガストロノミステリーでも以前に″ホームズのカレー特集″を編んだことがあるので

「ミステリー・グルメの解体新書 ミステリー美食学番外編」EQMM1987 3月号

P173 ″グルメの性格学″によると、ホームズは食を美食道にまで昇華させるタイプとかP174 @群に入るのは、シャーロック・ホームズ、ファイロ・ヴァンス、トーマス・リーベン、怪盗ニック。

北壮夫

「怪盗ジバコ」 文春文庫 1974

P400 「おまえ、海岸へ行ってきたね?」

「行きませんわ。なぜですの?」

「しかし、ここに落ちている黄色い砂は海岸の砂だ」

「お気の毒さま。それは、この鉢植の須永こぼれたのですわ。これ、浜に咲く花ですの」「そうか……ふむ、客が来たな。男とはいわん。女の客だ」

「どうしてですの?」

「灰皿にすい喫いさしがある。ごらん、おまえの喫うタバコじゃない。フィジーのタバコだ。そして口紅がついている。誰かフィジー・タバコを喫う女がきたのだ」

 夫人はおだやかにわらった。

「それもお気の毒さま。実はそれ、あたしですの。あたし、フィジーのタバコは毛ぎらいしてましたが、今日タバコをきらしちゃって、召使いのをもらいましたの。あんがい軽くっておいしかったわ」

「そうか」

 キッコーマン氏はかすかに眉をひそめ、大儀そうに食卓についた。

 彼は毎日のように判で押したごとくかような推理をするのだ。実はそれはシャーロック・ホームズの真似なのである。ホームズは、いつも初対面の依頼人をひと目見て、その経歴とか最近の事件などを当ててしまうのだ。それにはホームズなりの観察があるのだが、その解釈はホームズ、あるいは作者のコナン・ドイルにあまりに都合よくできていることは争えない。そんな訳で、ウオルター・キッコーマン氏の場合は、いつもホームズの推理を真似て、それが全部が全部、ものの見事に間違ってしまうのであった。

「奇病連盟」 SB S49

P45 コナン・ドイルに、「赤毛連盟」という小説がある。ジェイベズ・ウイルソンという独り者の質屋のおやじが、一人きりの奉公人にすすめられて、赤毛連盟とやらの欠員募集に応募する。彼は見事な赤毛の持主だったからだ。

 氏は採用され、毎日ある一室に出勤して、大英百科事典を写しとるという簡単な仕事を与えられる。その給料がとてつもなくよいのだ。

 ところが、これが泥棒団のたくらんだ仕事で、くだんの奉公人も仲間の一人なのだが、こうしてウイルソン氏を、いつも自宅から離しておき、彼らはその質屋の地下室から地下道を掘る。その行先は、すぐそばにある銀行の地下室なのだ。

「月と10セント」 SB S53

P408 またKが発作的に頭に閃めいた。

「シャーロック・ホームズはフライド・フィッシュとポテトチップスを食べてた。ロンドンにきたらそれを食うべきだ」

「どくとるマンボウ途中下車」 中公文庫 S48

P81 この半月間、仕事は何もできないので、もっぱら昔なつかしいシャーロック・ホームズやルパンを読んで過した。ジェームス・ボンドとなると、おもしろいがもういけない。前記の書物には、探偵小説という言葉がぴったりする、のびやかな、おおらかな余裕というものがある。なにしろ珍しい無線電信が、しかもそれがよく通じないということが重大な背景となったりして、ただ今読むと精神衛生になかなか宜しい。

「マンボウおもちゃ箱」 SB S52

P208 食べ終わるとベッドに戻って、シャーロック・ホームズなどを読む。

北上次郎

「観光の世紀 活劇小説論第8回」 HMM 1986 10月号

P98 ただ、カール・マイの冒険物語には、コナン・ドイルの歴史小説がそうであるように、頑迷なナショナリストの匂いがつきまとっている。

「騎士道の消滅 活劇小説論第23回」HMM 1988 1月号

P95 問題はそうやって一度滅んだはずの過去の遺物、あるいは中世末期に形骸化していたはずの騎士道が、コナン・ドイルやハガードの小説にこれまで見てきたように、なぜ19世紀末にふたたびよみがえったのか、ということだ。

「ハガードのアフリカ 活劇小説論第6回」HMM 1986 8月号

P98 コナン・ドイルはハガードにライバル意識をもやして歴史小説を書いたと言われているが、「ハガードはファンタジーのなかにリアリティを求め、ドイルはリアリティのなかにファンタジーを求めたという創作上の決定的相違はあるが、それを別にすると、もっとも大きな共通点は、いずれもイギリスの騎士道精神を基調にしていることだ。当時のイギリス小説は、多かれ少なかれ、みなそのような傾向をもって騎士道を作家の支えとしたという点では、サーの称号をもつこの二人の作家が、とくに際立っているように思われる」(大久保康雄『ソロモン王の洞窟』解説/創元推理文庫)とあるように、ハガードの作品に流れているのも、ドイルにくらべ怪奇作品に流れているのも、ドイルにくらべ怪奇幻想の色調がやや濃いとはいえ、やはり海の向うに、未知の国に、敢然と向っていくイギリス冒険精神なのである。

「ハックルベリーの旅 活劇小説論第10回」HMM 1986 12月号

P78 マーク・トウェインは、スティーヴンスン、コナン・ドイル、ライダー・ハガード、フェニモア・クーパーと続く、伝奇ロマン派の作家たち、ウォルター・スコットの嫡子たちとは明らかに異なるリアリズム作家なのだ。

「『紅はこべ』と『スカラムージュ』 活劇小説論第22回」HMM1987 12月号P97 コナン・ドイルやモーリス・ルブランほどナショナリストの側面は濃くないが、しかし懐疑型ヒーローを主人公にした『スカラムージュ』を一方に置けば、『海の鷹』の底を流れる強い″望郷″の念はやはり異質と言うべきだろう。

「ルパンの冒険 活劇小説論第21回」 HMM 1987 11月号

P95 もちろん、シャーロック・ホームズと互角に戦うほど頭脳明晰で推理力は鋭く、さらに変装の名人で神出鬼没、大胆不敵な男である。

P95 ネリー嬢と「遅かりしシャーロック・ホームズ」で再会するが

P97 ルブランは第一短編集「強盗紳士」にホームズを登場させ、イギリスへの対抗意識を燃やしていたものの、これはフランス人の伝統的なイギリス観であり、中期以降露呈してくる愛国主義とは異なる。

P97 ホームズ、ルパンというこの時代のヒーローの生みの親、コナン・ドイル、モーリス・ルブランがともに頑迷なナショナリストとして変貌せざるを得なかったのは、個々の作家の限界というよりも、来たるべき新時代に対する漠としたおそれが、この2人のすぐれた大衆小説作家の中にあったに他ならない。

キーティング、H.R.F.

「古典的なブルー・プリント ミステリ創作講座第1回」 長野きよみ訳

                           HMM1988 1月号

P149 (前略)文学史研究家が扇情主義と呼んでいるものがはじまる。ワトスン博士はもっとも初期の著作のなかで、それに関するシャーロック・ホームズの知識は″膨大″だと述べている。

P153 名探偵は、普通の人々を越えた力を持つ捜査官だった。エドガー・アラン・ポーのシュヴァリエ・オーギュスト・デュパンはその初代であり、シャーロック・ホームズは最良の例だ。この二人についてのそれぞれの小説を振り返ってみると(あなたはすでにそれらを二度以上読んでいるはずだ)、あなたは彼らが興味深い難事件を解決できる頭脳を持った、昔の冴えを変人にすぎないと思うかもしれない。だが、それは間違っている。名探偵というのは一つの神話的存在であり、見かけ以上の大物、世界の手本なのだ。だからこそ、今でもシャーロック・ホームズは戯画化されて新聞の広告や漫画に登場しているのだ。そしてまただからこそ、名探偵は、あなた自身の作中人物になりそうもなくても一考するだけの価値があるのだ。

 名探偵は探偵小説のなかでしか活躍しないにもかかわらず、偉大な詩人や科学者に匹敵する。なぜなら眼前にあるきわめて不可解な謎を解き明かしながら、じつはさらに大きな謎、つまり人間と言うものの持つ謎を解き明かしているからだ。名探偵は、ほかの人間の頭のなかを見通す力があたえられた人物だ。(デュパンは黙って考えている友人の思考過程をひとつずつ言うことができたし、ホームズがワトスンに再歳々同様の振舞いを示したので思い出してほしい)(中略)名探偵は、理性と直感との洸惚的に結合から(普通精神活動の象徴として、タバコの煙に包まれている)じつに驚くべき解決法を生み出す。

 悲しいかな、われわれのほとんどは、エドガー・アラン・ポーのごとき天才にはほど遠く、コナン・ドイル……ともちがって、ポーの足跡の上を歩くことさえできない。

P154 シャーロック・ホームズが短気で虚栄心が強いことを思い出してほしい。

P155 ワトスン

 名探偵の付属物としてよく耳にする言葉、ワトスン。一般にこう呼ばれる人物の原型は、意外に思うだろうが、コナン・ドイルが最初の考案者ではない。はじめの″ワトスン″はシャーロック・ホームズの背後につねに忠実によりそっているあのジョン・ワトスン医学博士ではなかった。(中略)これがワトスンの原型だ。

P155 ″ワトスン″「ほかにわたしが注意すべきことがあるかな?」

″ホームズ″「あの夜、犬の様子が奇妙だったことに注意すべきだね」

″ワトスン″「犬はあの晩なにもしなかったが」

″ホームズ″「それこそ、奇妙じゃないか」

 これ以上言葉をついやす必要はないだろう。ここで″ワトスン″は推理をめぐらしはじめ、そしてもし頭が回る読者であれば、犯罪が行われたにもかかわらず、犬が吠えなかったということは、すなわち犯行は内部で行われたのだと考えつくだろう。つまり、″ワトスン″は読者よりほんの少し頭を悪くしておいたほうがいい。(『シルヴァー・ブレイズ号事件』原作ではワトスン役はグレゴリー警部)

 しかし、ワトスン役は登場人物としてどうしても不可欠というわけではない。

「現代におけるヴァリエーション  ミステリ創作講座第3回」 長野きよみ訳

                           HMM1988 3月号

P169 (前略)それから″ワトスン″役の人物によって、科学者探偵ソーンダイク博士の活躍が犯人をとらえるまでの経過が語られる。(中略)しかしこの短編集は、一連のシャーロック・ホームズ譚が一般の読者を夢中にさせたようなわけにはいかなかった。

「太平洋の向こう側のいとこたち他 ミステリ創作講座第5回」 長野きよみ訳

                           HMM1988 5月号

P183 警察小説にはホームズ=ワトスン・コンビのための余地はないのだ。

木村二郎

「第2回国際犯罪作家会議」 EQMM 1978 7月号

P152 ミステリー作家が本当の探偵を相手にゲームをするらしく、本物の探偵トニー・スパイズマンや、シャーロック・ホームズの格好をした男も現われた。

P154 そして、そのあとはクリス・スタインブランナー企画の「シャーロック・ホームズ映画会」というプログラム

P156 ー作家になった動機は?

ロバート・L・フィッシュ

「ブラジルに住んでいたとき、テレビがない時代ですかね。シャーロック・ホームズの短編パロディを書き始めた。エージェントが小説を書けというので書いてみるとMWA賞をくれた。フレッド・ダネイとシャーロック・ホームズのせいだな」

「87分署事典」 HMM1988 4月号

P59 デフ・マン(中略)八七署シリーズのモリアーティ教授というべき大悪党。

I  I  I  I  I  I   I  I き I 補追 I

どこにでもいるシャーロック・ホームズ