山中峯太郎の単行本 本文へジャンプ
大正13年 (1924)


題名、書誌情報
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「彼れ在りとの直感」(警醒社書店、11月)
「戯曲人妻」(英クレメンス・デーン著、山中峯太郎、増田菊松訳、東光会、5月)

峯太郎としては珍しい翻訳作品である。その成立の事情については、前書きの「この戯曲について」に記されている。

…ロンドンで一年余り、ニューヨークで二年余り上演しつヾけている一つの近代劇があって、……クレメンス・デーンといふイギリスの新進の婦人作家が書いた「離婚状」といふので、興味のある三角関係をあつかつたものであることも、帰つてくる途中で伺った。

増田菊松氏は私の親しい方である。今年の春に高等商業学校を卒業された。訪ねてこられた三月下旬の或る日、卒業後の英語の勉強の話が出て何かの訳をしてみたいと相談された。私は思ひだして、日高先生から伺つた「離婚状」の話をした。……やがて増田さんが翻訳した下書きの原稿を持つてこられた。然し、「厳密には翻訳と言へない」とのことであつた。原文にはいかにも移植に困難な、それに解らないロンドンの流行語らしいものもある。また原作は一九三三年のクリスマスの出来事になつてゐて、作の根底には「結婚対離婚事件国立委員会多数報告案」と訳すべき現在には無い法令が仮定されたりしてゐる。なほこの他の社会制度と家庭内の気風の上からしても、そのまゝの移植は、たとひ私たちの語学の力がそれに可能であるとしても、日本文には似あわないものである。それかと言つて、増田さんの一月余りの折角の努力と苦心が、そのまゝに終るのも気がすまないので、日高先生のお考へを伺ひ御承諾を得て、それに出版者の希望もあり、増田さんの下書きを、私が心ならずも省いたり補つたりしてみた。さうして、翻訳でも、翻案でも、意訳でもない、原作と余ほど形を変へたものになつたのが、この戯曲である。

さてこの作品は第一場部屋(朝)、第二場応接室(昼すぎ)、第三場部屋(夕方まへ)の三場にわかれている。

家の主人中澤格一は娘千枝子が生まれてまもなく発狂し、ずっと入院していた。そのあいだ妻道子は北村静男と恋仲になっている。また千枝子は牧師の息子宮田健次とつきあっている。それを同居している伯母の民子はにがにがしく思っている。

ところが格一が突然病状を回復し、病院から出てきてしまう。格一は昔のままの家庭をもとめるが、道子は離婚をもとめて家出をするという。宮田牧師の忠告も聞かない。しかし一度は家出をあきらめるが、千枝子は健次とわかれて父の面倒をみるといって道子に家出をすすめ、最後は道子は北村と家出をする。

この当時の峯太郎の主な活躍の舞台は婦人雑誌であったので、このような家庭劇も求めに応じて出版したのだろう。ただクレメンス・デーンの原作がなんというのかは、これからの調査である。