新潟弁の
ワトスンの推理法修業
「なんだいや、ワトスン、おめさんなに考えてんだて?」
「おめさんのことだいや」
「おれのこと?」
「そうだて、ホームズ。おめさんの推理法ってもんがどんがにあほくっせもんかってことをを考えてたんだいや。しかも周りのもんがまだそれに関心を持ってんのは不思議だいや、ともね」
「ほんとにおれもそう思うて。事実、おれもこれまでに同んなじようなこと言ってきた覚えがあるいや」
「おめさんの方法なんてもんは、じっさい身につけんのはなんぎいことじゃねえて」
「そうだて。そんがんこと言うんならおめさん、自分でこの推理法の見本示してくれて」
「簡単なことだいや」
「まず手はじめに、けさ起きたとき、おめさんはなにかにひどく気ぃとられてたと言っていいみてえだて」
「おみごと! いったいなあしてそれがわかったんだいや?」
「なぜならおめさんはいつもしょったれげなかっこしねえ男なのに、けさにかぎってひげを剃るのを忘れてたねっかて」
「おここ! こりゃおおごとだ。おめさん頭いいねっか。じっさい、ワトスン、おめさんがそれほど出来のいい生徒だとは思ってもみねかったて。まだほかにおめさんの炯眼が見抜いたことはあっかて?」
「あるこってホームズ。おめさんはバーロウっつう依頼人に事件の調査を頼まれたけど、まだいまんところ、その解決には成功してねえて」
「ほほう、なあしてそれがわかったんだいや?」
「封筒の外にその名前が書いてあるのを見たんだて。そいつを開けた時、おめさんはうめき声もらして、しかめっつらでそれをポケットん中に突っ込んだねっかて」
「たいしたもんだいや! たしかに鋭い観察力だて。ほかには?」
「どうやらこのところおめさんは、投機に夢中になってるようだて」
「いったいなあしてそんがんことが言えんだて、ワトスン?」
「新聞をひらいて金融欄を見るなり、おおっと興味をひかれたような声上げたからだいや」
「なるほど、おめさんほんとに頭いいねっかて、ワトスン。ほかにもあるかいや?」
「あるこって。いつもの部屋着のかわりに、おめさんは黒い上着きこんでるねっかて。こりゃもうすぐ大事な客が訪ねてくるという証拠だねっかて」
「ほかには?」
「見つける気になれば、まだいっくらでもあるこって。だけどまあこんくらいでいいこって。 たんに世の中にはおめさんに負けないくらいすげえ観察力を持ってる人間がいるってことを見せるためにやってるだけだいや」
「そしてそれほどすごくねえもんもいるて。それがあんまりいっぺえじゃねえことは認めるいや。しかし残念だがワトスン、おめさんをその少数の中に数えなきゃならんみてえだて」
「どういう意味だいや?」
「つまりな、おめさん、あいにくおめさんの推論はおれの期待したほどあざやかなもんじゃなかったってことだて」
「おれの推論がまちがってたって言うんだかいや?」
「まあそういうわけだて。ひとつ順ぐりに検討してみようて。まずおれがひげを剃らんかったのは、剃刀をとぎに出してあるからだて、ちゃんと上着を着込んでるのは、運わるく、早い時間に歯医者に予約があるからだて。歯医者の名はバーロウ、そして手紙はその予約を確かめるものだったんだて。金融欄の隣りにはクリケットのページがあって、そこをひらげてみっと、サリーがケントに一歩も譲らない健闘を示したってことが出てるんだて。だけどまあがんばりなせえて、ワトスン、その調子でがんばることだいや! これはいたってあほくっせ技術だから、そのうちおめさんもそれを身につけられるて」