(16)「真説ルパン対ホームズ」

いわゆる「乱歩小説」などのパロディ・パスティッシュの第一人者、芦辺拓氏の新作ハードカバーである。氏の得意とするパスティッシュばかり、八編が収録されている。

このうち乱歩のパスティッシュである「黄昏の怪人たち」はすでにこのホームページでふれているので、またくり返すことはしない。ただ、何作かかかれている氏の「乱歩小説」のうち、これが一番の秀作であることは今回読み直してみてもかわらなかった。作品によっては読後感にものたりなさがただよってしまうものもあるのだが、この作品は乱歩の作品と時代が持つ独特の雰囲気をよくただよわせ、かつその雰囲気は読後にも消えることはない。

だからこのページは本来は乱歩に費やすべきものであるが、今回は他の作品についても見てみようと思う。

メインディッシュというべき作品は、題名にもなっている「真説ルパン対ホームズ」

である。舞台を1900年のパリにとり、若きルパンとホームズ、そして万国博覧会のために渡仏した日本代表団をからませている。世紀末から新世紀へのパリの明るくシャンパンを思わせるような描写が続いており、感心させられた。ルパンの犯行も彼らしく、申し分ない。あえてあらを探すなら、ホームズがディアストーカーでパリを歩き回り、周りの人々もそれを奇異に感じていないことだろうか。ディアストーカーとインヴァネスは旅行時に着るものといわれているが、それはあくまでも田舎に旅行する場合であって、都市から都市に行く場合は、道程ではそんな格好もあるかもしれないが、到着してからはきちんとしたフロックコートなり三つぞろいなりに着替えるものである。いってみれば、山登りの格好で丸の内の本社に行くようなものである。

あとは他のいくつかの作品にも共通するのだが、動機が今一つ弱いように感じられる。詳しく説明するとネタバレになってしまうのでこれ以上はいわないが、それだったらこうなるまえに犯人は最初からどうにかすればよかったのに、と思うのは私だけだろうか。

ファイロ・ヴァンスが登場する「大君殺人事件」も、動機という点で納得が行かないが、これだけサービスをしていただくと、そんなこともいっていられない。大いに楽しませていただいた。日本では小栗虫太郎が衒学的趣味で大いにマニアを集めているというのに、ファイロ・ヴァンスがアメリカでは今一つ人気がないというのは、やはり国民性の違いだろうか?

「ホテル・ミカドの殺人」での気の持たせ方もいい。(なにを気を持たせたかは触れないでおこう。)ただ初出ではそれが解決されなかったらしいのは、残念である。著作権の問題だから仕方がないのだろうが、たぶんその当時の読者は消化不良だっただろうから、今回で溜飲を下げてほしい。

ちょっと予定より長くなり過ぎた。ただこの本は「探偵小説」を愛する人ならば、一度は目を通しておいて損はない。そのうえで「俺はこれには承服しかねる」というのなら、自分で書けばいいし、また面白ければそれでまたいい時間をすごせたことになるのである。

(2000/5/24)