ぼくたちの甲子園 高校野球名勝負列伝・地方大会編
No.4 2003.8.3
オホーツクの14人の野球少年たちのすばらしき夏の物語
(平成15年 第85回夏の選手権・北北海道大会準決勝 雄武高校対旭川大学高校)
北海道のオホーツク海の沿岸に雄武という町がある。北海道、網走支庁の最北端に位置する町で総面積637.01uという東京都23区よりも広い場所に5700人の町民が生活してる。コバルトブルーに輝くオホーツクの海を背にして緑豊かな牧草地帯、壮大な森林と豊かな自然の広がる町である。

雄武町の市街地。オホーツクと広大な牧草地に囲まれている。 雄武の牧草地帯。瀬にオホーツク海を臨む。
その雄武町に唯一高等教育機関として設置されているのが北海道立雄武高等学校。総生徒数160人という小さな学校である。校訓は「風に立て」。このオホーツクに面した雄武町には「ひかた風」という風速30メートル前後の強風が季節を通じて吹くのであるが、そのオホーツクの強風にも負けず、向かって突き進めと言う思いを込めての校訓「風に立て」なのである。平成15年夏の選手権北北海道大会でまさにこの「ひかた風」のごとく大旋風を巻き起こした14人の野球少年が登場した。それがこの雄武高校野球部の14人の少年達だったのである。
この雄武高校の14人の野球少年たちは地元、雄武小・中学校をともに卒業した幼なじみで小・中学校を通じてともにプレーした。二年生エースの佐藤直也は少年野球時代に北海道大会も経験している好投手でキャプテンの小形尚弘を中心に抜群のチームワークを誇っていた。同校野球部のOBで就任二年目の新鋭である小原茂監督は、野球部の練習風景を見て選手個々の運動能力の高さに驚いたそうである。短期間で道大会に確実に出場できると感じた小原監督は通常の基礎練習のほか、精神面の強化に力を注いだ。心理テストを中心に集中力の強化、闘争心をかき立てるなどのメンタルトレーニングで選手達が実際の試合に際しても落ち着いたプレーができるように選手達を指導した。そして迎えた第85回全国高校野球選手権北北海道大会のブロック予選、雄武高校は初戦、2回戦と突破していった。
(北見地区予選)
1回戦
斜 里 000 00= 0
雄 武 301 6X=10
(5回コールド)
(斜 里)工藤−多田
(雄 武)佐藤−金村
2回戦
紋別北 200 000 1 = 3
雄 武 000 113 5X =10
(7回コールド)
(紋別北)津蔦、武内−亀田
(雄 武)佐藤−金村
1回戦の斜里高校戦は佐藤のピッチングがさえ、4回までに相手チームに無安打の好投。打線も活発で斜里に圧勝した。2回戦の紋別北高校戦は初回に相手チームに先制を許した雄武・佐藤だが5回に満塁から相手チームのボークで同点、7回には満塁と攻めたて2年生の4番、増田康弘が公式戦初となるバックスクリーンに飛び込む満塁本塁打を放った。
そしていよいよ北見地区ブロック大会決勝。対する相手は文武両道の名門、北見北斗高校となった。
ブロック大会決勝
北見北斗 102 000 003 0 =5
雄 武 200 000 400 1X=6
(延長10回)
(北見北斗)門伝、大野、田中−佐々木
(雄 武)佐藤−金村
3人のピッチャーを繰り出す北斗に対して雄武は初戦、2回戦同様佐藤の連投となった。初回に1点を許したがその裏逆転。3回にも2点を許した佐藤だが7回裏には4点を奪い逆転に成功。北斗も粘りを見せ、9回2死1・2塁から2塁打、エラーをからませ同点と追い上げたが雄武は延長10回裏、2番金村が相手のエラーで出塁、3番小形のレフト前で1・2塁として迎えるは2回戦で満塁ホームランを放った4番増田。増田の放った打球は左翼方面に。そのままバウンドしてレフトスタンドに入るサヨナラ打となった。エース佐藤は北斗打線に11安打されながらも最後まで踏ん張りを見せた。一連のメンタルトレーニングと雄武ナインのすばらしいチームワークが生んだ勝利であったように思う。
北見北斗を制して、雄武高校は16年ぶりの北北海道大会に進出を決めた。野球部OBをはじめ町は喜びに満ちた。OB会、父母会を中心に野球部の後援会が発足した。「道大会なんて夢のよう。町に夢を与えてくれた。」という声も上がり町民はこの14人の野球少年に期待をかけた。そして全道の雄達に立ち向かうべく雄武の野球少年たちは旭川スタルヒン球場へと向かったのである。
第85回夏の全国高校野球北北海道大会
(一回戦 対稚内大谷高校戦)
初戦の雄武の相手は全道でも高い実績を誇り、全国でも数多くの高校野球ファンが大きな期待をかけている道内屈指の強豪、稚内大谷高校との対戦であった。この試合で功を奏したのが小原監督の一連のメンタルトレーニングであった。「能力をいかに試合で発揮できるか。心技体の心を鍛えれば、勝利はおのずと近づいてくる。」との小原監督の思いが選手全てに伝わった。今春選抜21世紀枠候補の強豪の相手に対して佐藤は力投を見せた。強豪稚内大谷打線は終始佐藤のピッチングに翻弄された。佐藤は強豪相手に5安打1失点というすばらしいピッチング。打線も稚内大谷のエース吉川から雄武の5番、宮下が先制のタイムリーの2塁打を放ち、主将の小形も2打点を挙げるなど強豪に全くつけ入る隙を与えなかった。小形主将は「自分たちの力を出し切れた。緊張せず、落ち着いてプレーできた。メンタルトレーニングの成果を出せた」と語る。道大会で強豪を破ったことは全道のみならず全国の高校野球ファンが驚愕したことと思う。小さな町のわずか14人の野球部が・・・。すばらしい試合である。この日、スタンドには500人を越える雄武町からの応援団が詰め掛けていた。校訓の「風に立て」と記した帽子150個、メガホン100個、大横断幕を作成し雄武の野球部を応援した。野球部に対する地元の声援は日に日に増していった。
稚内大谷 001 000 000 =1
雄 武 011 000 10X =3
(稚内大谷)吉川−三浦
(雄 武)佐藤−金村
(準々決勝 対砂川北高校戦)
そして迎えるは北北海道大会準々決勝。16年前に今回と同様名寄勢の道立稚内高校を破って以来の準々決勝に進出した雄武高校だが次に対するは昨夏の準優勝校でもあり今春に全道ベスト4の深川東商をブロック大会で下して勝ち進んできた全道屈指の強豪、砂川北高校である。砂川北の左腕エース・沢田は初戦で今大会勢いに乗る旭川東高校を完封。正直なところ雄武の苦戦は否めない試合と誰もが予想したであろう。しかしここまで快進撃を続けているミラクル雄武ナイン。もちろん雄武高校はこの日も先発は佐藤であった。連戦の疲れから思うようにコントロールが定まらなかった佐藤を砂川北打線は見逃さなかった。4回に砂川北打線に4点を奪われ18安打8失点。全くの本調子ではなかった。しかしこの日は強豪相手に雄武の猛打が爆発した。左腕エース沢田和が7安打6四死球7失点と雄武打線が5回途中で全道屈指の好投手をマウンドから引き摺り下ろした。雄武は2回に2点、3回に3点、そして7回には一挙4点を挙げて砂川北の繰り出す3人の投手を打ちまくった。疲れの見える佐藤であったが最終回に2点は奪われたものの強打砂川北を抑えきり、打撃戦を制して12−8と全道屈指の強豪を破り初のベスト4へ進出を果たしたのであった。
砂川北 100 410 002 = 8
雄 武 023 021 40X =12
(砂川北)沢田、高橋、富沢−渡辺
(雄 武)佐藤−金村
いよいよ甲子園が見えてきた。オホーツクの小さな町から今まさに甲子園球児が誕生することが現実味を帯びてきた。雄武町は喜びに満ち溢れた。ベスト4を決めた翌朝、町にある2件のコンビニエンスストアでは開店6時から客が殺到し30分でスポーツ新聞が売切れてしまった。学校や雄武町役場に懸垂幕がかけられたのはもちろんのこと、各家庭にも手作り垂れ幕が軒先きにかかげられ、町内の飲食店にも「めざせ甲子園」のポスターが貼られた。人が集まるとほとんど野球の話に終始してしまう盛り上がりぶり。雄武の14人の野球少年たちの夢をかなえたいという思いが町をひとつにした。あと二つで甲子園。ここまで勝ち進んだだけでも賞賛に値する雄武高校ナイン。甲子園出場の期待は高まるばかりの雄武町だが雄武高ナインには微塵のプレッシャーも感じさせなかった。 そしていよいよ迎えた準決勝。ここで勝てばいよいよ甲子園が見えてくる。対するは全国的にも著名な全道でも屈指の強豪中の強豪、旭川大学高校との対戦となるのである。
(準決勝 対旭川大学高校戦)
平成15年7月23日、学校と町をあげての応援団が雄武町から旭川スタルヒン球場へと駆けつけた。全校生徒約160人が4台のバスで応援に駆けつけた。OB会は校訓の「風に立て」が縫い込まれた白と青の帽子をかぶり、町をあげての大応援となった。まさに旭川スタルヒン球場が雄武町そのものとなっていた。しかしこの日、ここまで雄武の14人の野球少年に微笑みかけてきた女神は雄武の野球少年たちには微笑みかけなかった。強豪旭川大学打線がここまで連戦連投の雄武のエース佐藤に容赦なく襲い掛かった。旭川大学高校は先頭の大杉、5番三上の二塁打、8番ピッチャー木村の三塁打と出る打者が佐藤を打ちまくる。打線のみならず四盗塁と足も絡めた猛攻で1回だけで打者12人の猛攻で8長短打を放ち一挙8得点を挙げた。
しかしその後、佐藤は立ち直り2回以降は強打旭川大学高校を無失点に抑える力投を見せた。メンタルトレーニングの成果も絶大のこの大会、まだまだいける。選手全員が「点を取るぞ」、「いけるぞ」と声を大きくした。雄武打線は6回に旭川大学高校のピッチャー陣に立ちはだかった。雄武は4番増田から三連打を放ちノーアウト満塁という絶好のチャンスを得た。しかし7番中川が併殺打を打つ間に1点を返したのが最後となってしまった。旭川大学高校の繰り出す3人のピッチャーに雄武打線は全く手が出ず最後は旭川大の三番手・徳野史明投手に三者連続三振に切ってとられてしまった。オホーツクの野球少年たちの夢はここで潰えてしまったのである。
球場の外に出た雄武高校のナインには雄武町から駆けつけた町民から「よくやった」、「がんばった」の声が掛けられ、惜しみない拍手が耐えなく響いた。1回8失点、7回コールドと敗れた雄武高校だったが小原監督は「北大会4試合を勝ち上がるには心技体のすべてがそろっていないといけない」とのコメントを残した。オホーツクの強風「ひかた風」のごとき旋風を巻き起こした雄武の14人の野球少年たちは準決勝で敗れてしまったがこの大会での雄武の少年達はまさにこの「ひかた風」だった。全道はもちろん、全国の高校野球ファンもこの雄武高校の健闘を少なからず注目していたことは疑いない。雄武高校の大旋風は雄武高校野球部のみならず雄武の町の人々にも本当にすばらしい夢を与えたと思う。オホーツクの大海を背にして育ってきた雄武高校ナイン、今度は甲子園という大海の中に飛び込んできてもらいたい。雄武の野球少年たちが今度は壮大な甲子園で「ひかた風」のような大旋風をきっと見せてくれるものと信じている。
(2003.8.3 written by T.M)
雄 武 000 001 0 = 1
旭川大高 800 000 X = 8
(7回コールド)
| 雄武高校 | 打 | 得 | 安 | 点 | 振 | 球 | 犠 | 盗 | 失 | |
| 遊 | 田 口 | 4 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 捕 | 金 村 | 3 | 0 | 0 | 0 | 2 | 1 | 0 | 0 | 0 |
| 右 | 小 形 | 3 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 |
| 二 | 増 田 | 1 | 1 | 1 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 |
| 一 | 宮 下 | 3 | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 投 | 佐 藤 | 3 | 0 | 1 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 左 | 中 川 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 |
| 中 | 池 田 | 3 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 三 | 古 山 | 3 | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 25 | 1 | 5 | 0 | 10 | 4 | 0 | 0 | 1 | ||
| 旭川大学高校 | 打 | 得 | 安 | 点 | 振 | 球 | 犠 | 盗 | 失 | |
| 二 | 大 杉 | 4 | 1 | 2 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 |
| 三 | 小 川 | 3 | 1 | 2 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
| 一 | 武 | 3 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 中 | 西 条 | 3 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 |
| 右 | 三 上 | 3 | 1 | 2 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 左 | 小笠原 | 2 | 1 | 1 | 2 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
| 捕 | 谷 口 | 3 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 |
| 投 | 木 村 | 1 | 1 | 1 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 打 | 安 部 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 走 | 長 尾 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 投 | 田 沢 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 打 | 佐藤雄 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 |
| 走遊 | 徳野典 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 遊 | 佐藤文 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 2 | 1 | 1 |
| 投 | 徳野明 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 23 | 8 | 11 | 8 | 2 | 2 | 4 | 4 | 1 | ||
| 投手 | 回数 | 安 | 振 | 球 | |
| 雄武高校 | 佐藤 | 6 | 11 | 2 | 2 |
| 旭川大高 | 木村 | 3 | 1 | 3 | 3 |
| 田沢 | 3 | 4 | 4 | 1 | |
| 徳野明 | 1 | 0 | 3 | 0 |

夏の雄武の海岸の朝日。美しくオホーツクを照らしていきます。