ぼくたちの甲子園 高校野球名勝負列伝・地方大会編
No.5 2003.8.18


切符の行方
(平成15年 第85回夏の選手権・福井県大会決勝 福井商業対福井高校)

 「打てない 守れない」 福井商の北野監督は夏の県大会前、新チームに対してこのように苦言を呈していた。春の県大会では決勝でライバル・福井に完敗。北信越大会でも初戦で敗れている。そのチームが夏の甲子園の切符を勝ち取った。しかも、決勝で新チームになって一度も勝てていない福井を破っての勝利だった。好投手・藤井を打っての勝利だった。

 福井との決勝戦、福井商は序盤に1点を先制され、8回2死までは藤井にノーヒットに抑えられていた。そのピンチを主将が救った。9回、主将の吉長が疲れの見えた藤井からライト前にヒットを放ち、反撃ののろしをあげた。バントとヒットで1死1,3塁とし、決勝戦のキーポイントとなった木村の打席が廻ってくる。カウント1−1からセーフティスクイズを試みるが空振り、続く4球目は強攻でファール。おそらく、これでスクイズはないとみた福井バッテリー。しかし、北野監督は木村に5球目、スクイズのサインを命じる。
 今度はセーフティではなく3塁走者もスタートを切るスクイズのサインである。まさにいちかばちかの采配。打者の木村も「まさか」と思ったと後に振り返っている。ここで天は福井商に味方した。藤井が投げた131球目のスライダーは高めにすっぽ抜け、まさにバントにはおあつらえ向きの所へ導かれた。これを木村が難なく転がし、吉長が生還し同点とした。「奇跡が起きました」と北野監督はこの場面を振り返る。 続く11回、2死満塁のピンチを切り抜けると流れは福井商に傾いた。2死2塁から高野がしぶとくライト前に運びサヨナラ勝ちした。

 思えば昨年秋の北信越大会で準優勝しながら甲子園に行けなかったことが福井商をさらに成長させたのだと思う。主将の吉長はこのことで胃を悪くし入院生活も経験した。エース稗田は秋から冬にかけて肩を故障し投げれなかった。北野監督に至っては最愛の母を失った。どんなに長くつらい時期であっても野球に対する情熱は折れなかった。象徴である炎の灯火は消えなかった。だからこそ、福井商は甲子園の切符を手にしたのだ。

 もはや冒頭の苦言は過去の話。確かに全国区の選手はいない。チーム打率も低いし、前評価もそれほど高くははい。それでも心だけは折れない強い精神力を今年の福井商は持っている。そして、甲子園ではその精神力が時には技や力よりも必要になってくるのだということを福井商は示してくれることだろう。

 最後に敗れたとは言え福井の健闘も称えねばならない。好投手・藤井を擁し、春の北信越も制し全国レベルのチームであったと思う。奇しくも選抜を沸かせた好投手が次々と県大会で散った。遊学館・小嶋、東洋大姫路・アン、徳島商・平岡など・・・。そして、藤井も。しかし、この敗戦はきっと人を大きくする、強くする。きっと、藤井を逞しくする。
 サヨナラ安打の後、藤井はマウンドで崩れ落ち、空を見上げた。そして、ベンチではナインに感謝の言葉を述べ、「楽しい3年間だった」と振り返った。一足早く夏を締めくくった藤井のこれからを心から応援していきたい。

(2003.8.18 written by せいち)
週刊セイチ:http://www.geocities.co.jp/Athlete-Athene/6543/

チーム名\回数 10 11 合計
福 井
福井商業 1x
   (延長11回)

福井:藤井−瀬古 福井商:稗田−吉長

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