ぼくたちの甲子園 高校野球名勝負列伝・選手権大会編
No.7 2003.5.25
8月7日,熱いドラマは始まりを告げた。”「甲子園球場」、野球というスポーツをを愛する私たちにとって何と心に響く言葉なのでしょうか。”で始まり,”二十一世紀に大いなる希望を持って前進するために、全力でプレーすることをここに誓います”で終わった新潟明訓高校の主将今井の宣誓は印象深かった。
(一回戦)
甲子園は大会初日から感動的なドラマを生んだ。桐生第一対比叡山の試合である。桐生第一の正田、比叡山の村西,両投手は恐ろしいくらいに緊迫した投手戦を演出した。投げ勝ったのは正田だった.たった一球甘い変化球で沈んだ村西は必死で涙をこらえていたが,甲子園を去る前ベンチ前でうずくまった。試合後,彼はこう言った。「投手は続けます。今度は勝てる投手になって帰ってきます」と。野球を続けている限り、投手を続けている限りチャンスは必ずある。だから彼の今後に注目したい。
まさかの大逆転劇が起こったのは小松対新湊の北陸対決だった。八回までは5−0で小松のペースだった。しかし、一つのエラーで流れが急に変わるのも甲子園である。9回土壇場で新湊が一気に追いつき延長で4点を取り一気に突き放した。小松のエース竹田は交代後、思わずライトでしゃがみこんだ。甲子園には魔物が住む.改めてこの言葉の意味を教え込まれた試合だった。
(ニ回戦)
屈指の好カードと呼ばれた滝川第二と東邦の試合は滝川第二のサヨナラ勝ち.この試合プロ注目の3人の投手が投げ合った.特に後半は東邦朝倉と滝川第二の福沢の投手戦になった.サヨナラヒットを打たれた朝倉だったがさばさばした表情でベストピッチだと振り返った.すごくさわやかで気持ちの良い好ゲームだった。
この試合で去年の夏を思い出した。打球はセカンドとセンターの間に落ち、マウンドにはうずくまっているエースの姿。明徳義塾高校の去年のシーンである。あの時のニ遊間コンビの松元、倉繁が今年も甲子園にリベンジを誓いやってきた。だが,長崎日大との試合はあっけない幕切れを告げた。捕手のパスボールで2年連続のサヨナラ負け。涙の止まらない捕手の井上だったが、松元、倉繁に涙はなかった。甲子園での経験は大きく人を成長させる。彼らの成長した姿がこの試合で確認できた。
またニ回戦で春夏連覇を目指した沖縄尚学が都城に敗退したり。都立高として注目された城東が智弁和歌山と好ゲームを展開する試合などがあった。
(三回戦)
春の選抜準優勝校,水戸商業がここで散った。水戸商の技巧派エース三橋が岡山理大付に捕まった。止めをさしたのは岡山理大の強打者森田。甘く入った真ん中の直球をジャストミートした.打球はまさにピンポンタ玉のように飛びレフトスタンド上段へ。投げては岡山のエース早藤が3安打完封で水戸商を下した。水戸商の主将・外山は言う。「勝って当たり前とういうプレッシャーはあった。こういうチームなんですよ。結果については大満足です。」重圧から解き放たれ普通の高校生に戻った瞬間であった。
桐生第一の正田、静岡の高木の両サウスポー対決は継投の難しさを痛感した試合でもあった。先制したのは静岡だった。好投手・正田から2点を先制した。その後,桐生第一も追い上げ、この試合のキーポイントでもある7回を迎えた。静岡はここで木を交代させ、市川を救援させた。しかし、その市川が乱調で逆転を許してしまう。結局、その後を正田に抑えられ静岡は逆転負けを喫した。
(準々決勝)
滝川第二のエース・福沢はこの日18歳の誕生日を迎えた。だが,滝川ベンチはその福沢を温存することを決断した。好調の岡山理代付打線は簡単に相手投手を攻略した。これ以上は点をやれない滝川第二はついに福沢をピンチで投入した。相手はボイーズリーグ時代のチームメイトである森田。福沢の投げた自慢のスライダーに森田のバットは空を切った。勝負に勝ったのは福沢だった。しかし,その後、滝川第二は試合の流れをつかみきれなかった。負けはしたが福沢にとっては忘れられない誕生日のひとつであっただろう。
青森山田のエース・松野のお尻のポケットには亡き母親の写真が入っていた。ピンチでもポーカーフェイスで青森山田のマウンドを守ってきた強気な投手の夏がここで終わった。エラーや死球でリズムを壊した松野、そして打線も樟南エース・上野を捕らえられなかった。母親と二人三脚で戦ってきた松野の長い戦いに終止符がうたれた。彼の重いストレートがキャッチャーミットを叩く音はきっと天国の母に届いたことだろう。
(準決勝)
とても感動的な試合だった第一試合。勝負を決めたのは、先の守りで足を痛めていた馬場。一振りに賭けた彼の一打が勝利の女神を岡山理大付に引き寄せた。1点を追う九回裏。2死満塁,智弁和歌山井上の投げた直球を左中間に打ち返した。一塁を踏んだとたん馬場の目からは涙が流れた。「安心したら涙が出た」と馬場は言った。智弁和歌山の主将・佐々木は次のように言って泣いた。「僕みたいなキャプテンにみんなよくついてきてくれた」と。涙の意味はそれぞれ違うかもしれない。だが共に野球で涙を流したことに変わりはない。
樟南のエース・上野が打たれた今大会最初で最後のタイムリーヒットだった。打たれた球はストレート。そのストレートを打ったのは桐生第一の捕手高橋。ストレートを投げさせたのは樟南の捕手鶴岡。この二人の捕手の心理状態がこの試合の明暗を分けた。2死、2.3塁,選択肢は二つあった。一つは勝負、もう一つは敬遠。高橋は強気な鶴岡の性格を読み、ストレート勝負と判断。見事読みが当たり、決勝打を放った。高橋はこう語った。「もし自分が逆の立場だったら、ボールになってもいいカーブを投げさせたでしょう」と。上野もあの場面ではストレートで勝負したかったと鶴岡をかばった。今大会一のバッテリーの最後の夏だった。
(決勝戦)
本命無き戦い、決勝まで上がってきたのはエース正田を中心にした桐生第一と繋がりのある打線が売りの岡山理大付であった。1回から試合が動いた。岡山理大付は一回表に先制したが、その裏にすぐに追いつかれた。すると桐生第一打線が容赦無くエース早藤に襲いかかった。早藤をひきずりおろした後も桐生第一は攻撃の手を緩めず14点をとり、正田は得意のカーブを低めに集め岡山理第付を寄せ付けなかった。思えば,比叡山・村西、静岡・高木、樟南・上野といった数々の好投手たちとの対決を制してきた正田は日に日に成長していった。最後の打者を三塁ゴロに打ち取ると大きく両手を広げ、この瞬間、群馬県勢としては初の全国制覇が成し遂げられた。
試合中、岡山理大付の監督は選手達に「空を見ろ」と言ったという。主将・森北は、「空を見上げたら雲がなくて、大歓声だけが聞えてきてすごく気持ちが良かった」と語った。それから度々、空を見上げる岡山理大付ナインの姿がそこにあった。エース早藤は涙ながらにこう言った。
「決勝のマウンドはやっぱり気持ちが良かった。甲子園の空はいつまでも覚えておきます。」
素晴らしき甲子園の空の下で繰り広げられたドラマがここで幕を閉じた。
純粋に野球が楽しめる場所,それが甲子園である。
夏は終わった・・・
(2003.5.25 written by せいち)