
By Yue Oonuki

月明かりだけが照らし出す室内。それはかろうじてお互いの顔の輪郭が見える程度の明るさで、だからこそ都合が良かったのかもしれないし、悪かったのかもしれない。
ここは、クラヴィスの邸。
クラヴィスの私室の更に奥にある、隠し部屋でもあり執事でさえ滅多に姿を見せない、完全にプライベートな時間を過ごせる空間に二つの影。
アンティークなデザインの、人間が二人で寝てもまだスペースが余る広いベッドの上に、重なり合っていたのは光と闇の守護聖だった。
積年の想いが互いに通じ合っていたと、確認できてから幸せな時間を過ごし、遂に今宵初めてクラヴィスがジュリアスを求め、ジュリアスはそれに応じた。
が、しかし……。
クラヴィスとジュリアスは何度も唇を合わせる。
それは角度を変えて触れ合わせるだけのキスから、歯列を割って舌を絡め合い身体の奥に火を点けるような激しいものに変わった。
両手で優しく頬を押さえて、クラヴィスはジュリアスとの甘い口付けを堪能する。
互いの唇が離れると、ジュリアスは艶めいた唇から小さく吐息を洩らした。
その様がどんなにクラヴィスを刺激するのか、彼は知らない。
やがてクラヴィスはジュリアスの着衣に手をかけて、ゆっくりと白い肌を空気に晒す。唇を耳元に滑らし、舌で耳たぶに触れる。
ジュリアスの身体が微かに、身じろいだ。
「ここが……感じるのか?」
誰も聞いたことがない、甘い囁き。だが、それに反応したジュリアスは、いきなり閉じていた瞼を勢い良く開いた。
「そうではない」
そうではない!?
クラヴィスは思いがけなく強い口調で切り返してきたジュリアスに、眉を顰める。
「そうか……ならば……」
指先で、彼の薄い胸にある立ち上がっている突起に触れてみる。
「っ!!」
ジュリアスが息をのんだ。やはり、ここが弱いのだろうかと確信するのだが、それにしても肝心の本人の反応が掴みにくい。
「そこではないぞ」
またもや、否定の言葉である。
何しろ初めて触れる身体なのだから性感帯を熟知してはいないのだが、それにしてもこの反応は何なのだろうか?
クラヴィスも戸惑いながら、しかし、今更あとには引けないので、愛撫の手を降ろしていき脇腹の辺りをそっと辿る。
ジュリアスの身体が強張った。
「クラヴィス、違うと言ってる」
「何が違うのだ?」
「…………」
クラヴィスの問い掛けに、答えは無い。
薄闇の中なので、ジュリアスの表情がハッキリ見えない。クラヴィスは少々焦り気味に、それでも健気に(?)行為を続けるのだが。
「そのようなことは必要ない」
自分の行為を拒絶する言葉に、昂まっていた気持ちがいささか消えかかってくる。
「ジュリアス?」
「……続けるが良い」
この後におよんでも、ジュリアスはジュリアスであった。
「……良いのか?」
「構わない」
そうは言うが、いくら想いを込めて触れてみても、この反応では誰だって萎えてくるというものだ。
ジュリアスはシーツを握りしめて、声一つ洩らさない。
どんなに愛していても、気持ちは確実に通じ合っていても、身体の相性というものが良くないのだろうか?
そんなことを考えながら、クラヴィスは何とか自分を奮い立たせようとするのだが。
「どうやら……今宵はここまでにしておいた方が良かろう」
諦めて、クラヴィスはゆっくりと身体を起こした。
「クラヴィス?」
ジュリアスもつられて身体を起こすと、クラヴィスの腕を掴んだ。
「どうやら、私が強引にしすぎたようだ。おまえの気持ちも考えずに済まなかった」
クラヴィスはゆっくり掴まれた手を離しながら、謝罪の言葉を口にした。
(私だけが先を急ぎ過ぎたようだな……ジュリアスが私を想っていてくれていても、身体はついてこないようだ)
少しのすれ違いが、大きくなるのだ。クラヴィスはそれを知っている。今、先を急いで身体を重ねたとしても、ジュリアスが拒まないのは口先だけだ。
でなければ、こんなに平然としていられる筈も無い。
「もう、眠るが良い」
クラヴィスは余計な引け目を感じさせないように、そっと、ジュリアスの髪を撫でた。
「何故だ?」
ジュリアスの声が静まり返った空間を、震わせるように響く。その口調たるは執務中となんら変わらぬ、冷静な声音だっだ。
「私は構わないと言っているだろう」
クラヴィスは溜息を吐いた。
「それは……おまえの本心か?」
「どういう意味だ?」
「ジュリアス、おまえは本当に私に抱かれても良いと思っているのか?」
そう、ジュリアスは誇り高き光の守護聖。組み敷かれて征服されることなど、本来ならばプライド悲鳴を上げる筈なのだ。
「だから、良いと言ったではないか」
堂々巡りだった。
「おまえが良くないのなら、抱き合っても意味が無い」
「なっ……」
「おまえが感じないのなら、抱き合っていても意味は無いのだぞ」
「クラヴィス……?」
ジュリアスが戸惑ったように自分を呼ぶ。
表情が見えないというのは、何て不安なものなのだろう。
恐らく、それは目の前にいるジュリアスとて同じだろう。
クラヴィスは手を伸ばすと、ベッドサイドの明かりを点けた。柔らかい光が室内を照らす。そしてまた、愛しい人も。
照らし出されたジュリアスの姿は、クラヴィスを心底驚かせた。
ベッドの上で、かろうじて下半身を覆っている衣。白い肌。それは光の加減で何と艶かしく目に映ることだろう。
そして。
ジュリアスの表情。
それは今までに見たことが無かったものだった。薄く上気した頬、自分を不安そうに見る蒼い瞳は潤んでいて目元が微かに濡れていた。
「ジュリアス……」
「クラヴィス……」
掠れた声で、呼ばれる。
まさか。
クラヴィスは半分疑いながらジュリアスを腕に抱きしめて、力を込める。きつい抱擁でジュリアスの動きを封じてから、いきなり腰の辺りにまとわりついている布の中に手を入れて、するりと太股から上へなぞった。
「あっ」
ジュリアスが初めて、無意識に小さな声を洩らした。
「ジュリアス」
クラヴィスはジュリアスに顔を見られない角度でいるのをいいことに、口元を緩める。
クラヴィスの手のひらにつつまれたのは、ジュリアスの昂まり。
「つまり、闇に翻弄されたのは闇を司る筈の私の方だったか……」
「何を……」
指で擦り上げると、ジュリアスの腕が背に絡み付いてきた。
「素直になれば良いものを……」
「ば、馬鹿なことを……ち、違うぞクラヴィス……」
「何がだ?」
「だ、から……そこは、あ、あっ」
「もう、おまえの言葉は信用できぬな……」
抱き合っている最中は。
「クラヴィス……いい加減に……はあ……んっ」
肩にもたれ掛かってくるジュリアスの吐息が頬を掠ると、クラヴィスは愛撫の手を強めた。
どこまでも素直になれない恋人に、甘い悲鳴を上げさせるのはそれからまもなくだった。
........おあとがよろしいようで(爆)
★ END ★