
By Yue Oonuki

「ジュリアス……大丈夫か?」
クラヴィスは腕の中にいる、浅い呼吸を繰り返している愛しい人を抱き寄せながら囁いた。
「……ああ……」
ジュリアスは力の抜けきった身体で、それでもクラヴィスにその身を預けて目を閉じた。
お互いに身体の熱が冷めていない。その熱さが今の自分達にはふさわしいのかもしれない。苦労して苦労してやっと手に入れた金色の髪も麗しい恋人は、ようやく想いのコトが成就しようかという時も素直にはならなかった。
初めての他人の素肌の温もりに緊張しながらも、歯を食いしばってしまう辺りとか。
暗がりの中でジュリアスを抱きしめながらもクラヴィスが苦笑していたことに、ジュリアス自身は気付いていない。
余りの反応に、本当はこういうふうに抱き合うことを望んでいないのかと、クラヴィスが手を止めた時、諦めの気持ちで闇の中に明かりを灯した時、見てしまった。
本当に目眩がした。あまりの妖艶さに我を失ってしまうのではないかと、息を飲んでジュリアスの姿に目を奪われている自分を知った。
腕の中にしたジュリアスは本当に美しくて。
眉を寄せて切なげに吐息をこぼしながら自分の名を呼ぶ声に、ゾクリとした。それから……まるで熱に浮かされているような心地の中で、ジュリアスを抱いた。
彼の身体を気遣える余裕すら無い。
頭のてっぺんから足の先まで……ジュリアスを求める気持ちが強く己を支配する。
こんなに強い感情に流されたのは、初めてだった。
それから……寄り添って眠ることが出来る幸せ。
クラヴィスは目を閉じてジュリアスを抱きしめた。
「……ク、クラヴィス……」
掠れた声でジュリアスがクラヴィスを呼ぶ。
「どうした……?」
金髪に軽く口付けながらクラヴィスは恋人の顔を覗き込む。
「……済まない……喉が乾いて……」
「……だろうな? あれ程声を上げたのだから……」
「なっ……わ、そ、声など……」
「わたしはそんなに声など張り上げていない……と、言いたいのか? さっき、おまえがどのような様子だったのかは、おまえが一番知ってるだろうからな……」
クラヴィスは笑いながら立ち上がると、水をとりにベッドを出た。
一糸纏わぬままの後ろ姿に、ジュリアスは眉を顰める。
「ク、クラヴィス……何か着たらどうなのだ?」
「直ぐに戻るのだから構わぬだろう?」
「は、恥ずかしく無いのか?」
「することしておいて……何を今更……」
「っ!! もう良い」
ジュリアスはプイと横を向いて柔らかな上掛けを引き上げた。
「ジュリアス、水だ……」
水を注いだグラスを手にベッドに戻ってきたクラヴィスだったが、ジュリアスはクラヴィスに背を向けたまま動かない。
「…………」
「何を拗ねている?」
「拗ねてるワケではない……」
「では何故、そのような態度をとる?」
「…………」
「ジュリアス?」
クラヴィスはグラスを手にしたまま、ベッドに座る。クラヴィスの重みを受けてベッドが小さく軋んだ音を立てた。
「……何故、そなたは冷静でいられるのだ?」
「何を言ってるのだ?」
「……このようなことをした後、どうしてそんなにも冷静でいられるのだ?」
「……何を言い出すかと思ったら……」
クラヴィスは小さく笑う。
どうやら抱き合った直後は朦朧としていたが、我に返った途端に羞恥に襲われてるらしい。
(全く……純な者だな……)
「興奮を沈めれば冷静になるだろう……?」
「そういう問題か?」
「……おまえはわたしに興奮し続けていて貰いたい、と? だが……それではおまえを壊してしまう」
「そ、そんなことを言ってるのでは……無いっ!! そなた、わたしをからかってるな?」
「ようやく悟ったか……」
「クラヴィスっ!!」
ようやくジュリアスが振り返ってクラヴィスを見上げた。
クラヴィスは手にしていたグラスを差し出す。
「起きられるか……?」
「あ、ああ……」
グラスに目を止めて、喉が乾いていたことを思い出す。
返事をしたものの、身体を起こし掛けて動きを止めてしまうジュリアスを見たクラヴィスは、グラスの中の水を自ら煽った。
「クラヴィス……?」
そのまま身を屈めて、柔らかく唇を重ねると水を流し込む。
「……んっ」
コクリと音を立ててジュリアスは水を流し込んだ。
「もっと飲むか?」
「……飲む……」
素直に頷く仕種に、目を細めながらクラヴィスはもう一度水を飲ませた。
ジュリアスが水を飲み込んだ後も、口付けは止まらない。
初めは眉を寄せたジュリアスだったが、大人しく口付けを受けとめる。クラヴィスの舌がジュリアスの唇の隙間から侵入を果たした頃には、ジュリアスの手はクラヴィスの腕に掴まるように縋り付いていた。
薄く瞼を開けたクラヴィスは、口付けに合間に微笑んだ。
こうして、初めて迎えた二人の夜は穏やかに過ぎて行く……。
★ END ★