| Selfish Pain By 鹿島麻美 |
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「だせ」
小さな恋人に命令形でそう言われ、手塚は困ったように眉を顰めた。 なぜこんな状況になっているのか、未だに全く解らない。 けれど、目の前に蹲るリョーマが、激しく不機嫌なことだけは事実で。 「もうっ、早くしてってば!」 動こうとしない手塚に焦れて、リョーマは彼のシャツの裾をグイッと掴むと大きく捲り、ベルトのバックルに手をかける。 「おい……」 抵抗と言うには弱い声で止めようとしたが、 「やなの?」 と、大きな瞳に下から睨み付けられ、ハァ……と諦めのため息を吐く。 今日は部活も休みの日曜日。 たまにはテニス以外を……と、二人で街へ繰り出し買い物等をして楽しんでいた。 考えてみたら、二人でこんな風に出掛けたのは初めてのことで。 リョーマと付き合う前は、目的もなく街へ出てブラブラすることなど、ただの時間の無駄としか手塚は思っていなかった。 だが、二人でああだこうだ言いながらスポーツグッズを見たり、ペットショップで好きな猫を夢中で見ているリョーマを見ていたり、行儀は悪いが露店で売っていたホットドッグを片手に公園を散策したりして過ごすのは、存外に楽しい時間で手塚の心を和ませてくれた。 何よりも楽しそうに笑うリョーマの顔が見られたことが、手塚には一番嬉しいことだった。 それなのこの急転直下な展開は何だろう? このような状況になるのは、もっと陽が傾いた時間になってからの予定だったのに。 ジーッ、とジッパーの引き下ろされる音を聞きながら、手塚は訪れるだろう快感にそっと目を閉じた。 観念したと思われる手塚が、自分の髪に指を差し入れ撫でるのに、リョーマはささくれ立っている気分が少しだけ落ち着いた気がした。 が、まだまだ足りない。ちゃんと全身で手塚の熱を感じない限り、満足できない気がする。 やたらめったら燃え上がってしまった独占欲の炎は、そう簡単には鎮火しないのだ。 リョーマは開いたジッパーの間から見える下着に手をかけると、遠慮なくずり下げた。 ジーンズの固い布地が邪魔をして少ししか下げられないので、おもむろに手を突っ込み目的のものを引きずり出す。 まだ熱を帯びていないそれを両手で支え、先端をペロリと舌先で舐めると、手塚が息を呑む気配が伝わってきた。 上を伺い見ると、眉根を寄せ目を瞑り、何かに耐えるような顔をしている手塚がいる。 何度も見たことのある表情だったので、リョーマは熱を促すために小さな唇を手塚自身へともっと近づけた。 楽しかったデートに突然暗雲が立ち籠めたのは『ここのケーキ、すっっごく美味しいよん☆ おチビに絶対オススメー!』と、菊丸に勧められた喫茶店でのこと。 外観はログハウスを模したその店の内装は、予想を裏切って随分と可愛らしいもので、客層はほぼ女性ばかり。男二人連れの自分達はかなり目立ってしまっていた。 手塚も浮いている自分達に渋い顔をしたものの、入ってしまったものは仕方がない。 大石(先輩)は菊丸(先輩)に、何度もここに付き合わされてるんだろうな(ぁ)……とお互い物の哀れを感じつつ、案内されるままに席に着くと、リョーマは菊丸お勧めのケーキと紅茶を、手塚はチーズケーキとコーヒーをオーダーした。 確かに菊丸が勧めるだけあってケーキの味は絶品で、特にリョーマがオーダーしたケーキは飾り付けも豪華で目でも楽しめた。 しばし店内での浮きっぷりを忘れ、おいしーおいしーとケーキに夢中になり、途中手塚とケーキの取り替えっこをしたりしてホクホク気分でいたのだが、そんな自分を見た手塚が目を細めた瞬間、まとわりつくような粘っこい視線を感じて、リョーマは咄嗟に周辺を伺っていた。 するとビックリするほどあからさまに、周囲の席の女性達の視線が手塚へと集中していて。 確かに手塚は、恋人としての欲目を差し引いてもカッコイイ。 顔は文句の付け所がない程整っていてキレイだし、そしてお約束のように背も高くて足も長くてスタイルもいい。 それに加えてカリスマチックなオーラまで身に纏っているので、そこにいるだけでどうしても人目を惹きつけてしまう存在だということは、リョーマも承知していることだ。 事実学園内でも女生徒に大人気で(男子生徒でも憧れている下級生は多い)、私設FCが幾つもあるらしいし、部活の練習中に手塚がコートに立つと、普段でも多いギャラリーが一層増えてそりゃあもう大騒ぎになっている。 手塚に集まるミーハー視線にイラつくことも多々あるが、自分は彼の特別なのだということで溜飲を下げているリョーマである。 だがしかし、今手塚に集まっている視線には、学園内で感じるソレとはちょっと違ったものも含まれていて……。 手塚に目を向けている女性達をよく観察すると、大人の女性が多い気がした。 ファミレスやファーストフードの店ではないので、客層は自分達よりも年齢が上の人達ばかりである。 高校生っぽい人達もいるが、その人達が向ける視線は、割と学園で感じるものに近い。 何か違うものを感じるのは、それよりもっと年上の……二十歳は越えているだろうオトナの女の人にだ。 ふと手塚の方に向き直すと、本人は全く視線には気付いていないようで、目を伏せ香りを楽しむ仕草でコーヒーを飲んでいる。 それはそれでとても様になりカッコイイ姿だったが、元々年相応には見えないのに私服であることも相俟ってか、普段以上に大人っぽく見えた。 もう悪いとも思わないけど、とても中学生じゃないよ……。 そう思った瞬間、リョーマは『ハッ!』と気付いた。 オトナのオネーサン達が手塚を見る目に含まれていたのは、セクシャルなものだと言うことに。 手塚がどんなに大人っぽくてカッコ良くても、いつものように学生服(しかも中学)を着ていたら、オトナのオネーサン達も流石にそんな目では見なかっただろう。 だが今の私服姿の手塚は、本人にとっては不本意でも余裕で二十代に見える。 思いっきり色んな意味で、彼女達のストライクゾーンまっしぐらである。 今日これまで、この喫茶店に入るまでにも、チラチラと感じていた視線の正体を、リョーマはやっとそこで理解した。 今までは見られてもすれ違う程度だったので、オトナの女性達が手塚に向ける視線も瞬間的なものだったが、腰を落ち着けてしまったこの喫茶店では違う。 自分達が席を立たない限り、隠れようが不躾だろうが、彼女達は手塚を見まくり放題なのだ!! そう解ったらリョーマの気分は、一気に落ち着かない状態に陥ってしまった。 狼の群の中に子羊(?)を連れて来てしまったー! なんて意味不明な連想をしてしまい、菊丸を逆恨みしたい気分にまでなった。 今は自分というストッパーがいるので誰も手塚に声をかけないが、自分さえ同席していなければ、きっと手塚はアチコチから逆ナンされまくっていたのかもしれない。 経験ホーフなオネーサン達なら、同世代の女子には近寄りがたい雰囲気を持つ手塚にアプローチすることにも、躊躇いはなさそうだ。 嫌な汗が額に滲み出す。もうリョーマには、周りの女性達が全てハンターにしか見えなくなっていた。目が光ってるッ!(妄想) 頭がグルグルしてしまい、最早ケーキどころではないリョーマだったが、再度ふと気付いてしまった。 手塚だっていつも学生服を着ているはずはなく、私服で一人街に出ることもあるだろう。 手塚の性格からしてナンパなんかしたことはないだろうが、逆は……? 今日の朝から一緒にいて感じた視線の回数を考えると、これまでにされたことがないと考えるのは不自然だった。 今は自分という存在がいるので誘われても応じたりはしないだろうけど、以前もそうだったという保証はどこにもない。 手塚だって男。これだけモテてしかも相手が後腐れのない大人の女性なら、靡いたことがあったっておかしくはないのだ。 そう思ったら今度はムカムカと腹が立ってきて、リョーマは急に席を立つと、強引に手塚の腕を掴み店を出た。 そして自分の唐突な行動に「どうした?」と何度か尋ねてくる手塚をシカトし、怒りのパワーだけで手塚宅へと手塚を引き連れて来て。 夕食を一緒に食べる約束を(彩菜さんと)していたので、元から夕方にはお邪魔する予定だったのだが、夕食にはまだほど遠い時間の御帰宅に手塚家は無人だったので、訝しがる住人本人に家の鍵を開けさせたのはついさっきのこと。 家の中に入り手塚が玄関の施錠をしたのを確かめると、大きな手を引いて彼の自室へと直行。 部屋に着くと珍しく戸惑った様子の手塚を、思いきりベッドに突き飛ばし座らせた。 そして開いた長い足の間に蹲り、現在に至る。 ぴちゃぴちゃと水音を響かせながら、リョーマは唇での奉仕を続けていた。 熱を孕み口に含みきれないほど大きく育った手塚自身に、それでも更に快楽を与えるために必死に舌を這わせ、喉の奥まで迎え入れる。 口の端から唾液と手塚の先走りが混ざったものが溢れ、顎を伝いリョーマのTシャツに染みを作ったが、もうそんなことを気にする余裕はない。 自分が手塚の熱を引き出し彼を喘がせているという事実に、頭がのぼせたようにポーッとなってしまってる。 そして、自分の身体は髪にしか触れられてないのに、頭の上から降る熱い吐息を聞いていただけなのに、間違いなく下半身の一部に血流は集中し、更にその奥にある場所は疼き始めていた。 手塚にも、自分に触れて、撫でて、舐めて、抱き締めて欲しい。 疼き始めた場所を、どうにかして欲しい。手塚にしか、どうにかできないのだから。 でも、今は…………。 吐精を促すために一層深く喉を開いた瞬間、不意に手塚の先端で喉奥を強く突かれ、思わずリョーマは噎せてしまった。 が、喉も口腔も手塚自身で満ちていたために呼気の逃げ場が無く、小さな身体をビクリビクリと痙攣させたリョーマに、手塚は慌ててその口から自身をズルリと引き抜いた。 「……っ、すまん、大丈夫か?」 ゲホゲホと苦しそうに噎せるリョーマの背中を、そう言って手塚は宥めるようにそっと撫でる。 暫くするとリョーマは、 「ご……めっ……も、ヘイキ……からっ」 と言って涙目のまま再び屹立した熱に唇を寄せたが、それは手塚によって押し止められた。 「……無理をするな」 「ムリっ……じゃ、ないよ。俺が、したいん、だってば……っ」 噎せるのを我慢しているのがありありな、途切れがちの声でそう言うリョーマに、手塚は困ったように微笑する。 「焦らなくても、俺は逃げないぞ。……今日は一体どうしたんだ、リョーマ?」 少し硬い指先で、自分の濡れた唇を拭いながらそう言う手塚の声があまりに優しくて、リョーマは堪らずギュッと手塚の腰に両手でしがみついた。 手塚はそんなリョーマの髪を、ただ愛おしそうに撫で付けている。 急にデートを中断して、家に連れて帰られて、「だせ」とか言われれて、訳の解らない態度を取られ続けているのに、それでも怒らず優しい手塚に、リョーマは胸がズキンと痛んだ。 部長でも先輩でも生徒会長でもない手塚は、以外にも優しい男で……。 この優しさを、かつて自分以外の誰かも受けていたのだろうか。 「ね……」 そう呟いて、今はシャツの下に隠れてしまった手塚の熱に、リョーマは布の上からそっと指を這わせた。 「国光のここ……、今まで、何人ぐらい見た?」 馬鹿なことを訊いていると自分でも思う。 訊いたって、自分と出逢う前の手塚の過去が、変わる訳じゃないのに。 でも気になってしまったら、訊かずにはいられないのも本当の気持で。 「………………」 僅かに期待をしていた返事は無く、逆に宙に視線を据え考え込むような顔をした手塚に、リョーマは酷く落ち込んだ。 自分は手塚しか知らないが、手塚が他の誰かを抱いたことがあってもおかしくはないと思うのに、頭では理解しても心が割り切れない。胸のモヤモヤが増してくる。 だが、そんなリョーマの心情も知らず、手塚は平然と言ってのけた。 「……詳しくは覚えていないが、大体3〜40人ぐらいだろうか?」 「ハアッ!?」 思いもがけない人数を言われ、リョーマは目を皿のように開きそう叫んでいた。 40人!? 見かけに寄らずかなりの遊び人だったのか、この男! 驚愕しているリョーマを、意外そうな顔をして手塚が見る。 「お前も似たようなものじゃないのか?」 「……え?」 「幼い頃は両親や祖父母は勿論、親戚や……幼稚園の先生にも見られていただろう。学校に入ってからは、修学旅行に行けばクラスメイトと一緒に風呂に入ったし、部活の合宿でも……」 手塚の説明の途中で、リョーマはガクリと脱力した。 自分の恋人が天然だということを、すっかり忘れてしまっていた。 『今、この状態で、そんな意味で訊くわけないだろ!!』と、言う気力すら失せてしまうほどの大ボケぶりである。 「リョーマ?」 ところが言った本人には何の疑問もないようで、絨毯の上にへたり込んだリョーマに合わせて、自分もベッドから降りて来る。 そしてそのまま小さな身体を腕の中へと引き寄せ、瞼まで閉じて脱力しているリョーマの額に、触れるだけの口づけを落とした。 「……何かまた、気に障ることでも言ったか?」 「ち、違っ……!」 手塚の心配そうな声音に瞬時にそう言い返し、リョーマは手塚のシャツをギュッと握ると胸に顔を押しつけた。 喫茶店からの自分の変な態度を考えると、手塚が自分が何かをしたせいで、リョーマが怒っているのだと思っても仕方がないが、それは違う。 手塚は何も悪くなんかない。 ただ……。 「国光がモテすぎてたから、ちょっと妬いただけ」 誤解させた罪悪感もあって素直にそう言うと、 「……モテていたか?」 と手塚は不思議そうに言い、遠い目になってしまった。 あんなにストレートな視線にも気付いていなかった手塚だ。見られることに慣れてしまっていて、そーゆー神経がマヒしているんだとリョーマは思う。 今日は一度も声をかけられなかったから、モテてはいなかったと思うが……なんて、万人にはイヤミにしか聞こえないだろうが、実は単なる天然ボケなことを今は考えているんだろう。きっと。 手塚の桁外れな天然っぷりに、リョーマの胸のモヤモヤはいつの間にか霧散していた。 結局事の真相は解らなかったけれど、今こうして手塚の腕の中にいるのは自分で、こんなにも手塚を無意識に譲歩させるほど愛されちゃっているんだから、まぁいっか……。 そう思って何とか納得しようとしたリョーマの、自分のシャツを握っていた小さな手を手塚が取った。 そしてその手を自分の手ごと下へとずらし、熱を持ったままの部分にギュッと押しつける。 ?と思い顔を上げたリョーマの耳に、 「ここを見た正確な人数は解らないが…………人の身体の中に埋めたのは、お前が初めてだ」 爆弾が落とされた。 爆死したリョーマの顔色が、見る見るうちに真っ赤に染まる。 天然タラシ男! 天然タラシ男! 天然タラシ男! 埋めたとか言うな〜!! と心の中で絶叫しつつ、自分の見当違いな嫉妬や、それに駆られて手塚のモノを強引に銜えた行為を思い出し、リョーマの赤面度は更にヒートアップした。 手塚が初めて抱いた人が自分だというなら、今日の己の行動は究極の空回りチャンピオンである。 恥ずかしさのあまり奇声を上げたくなるのを必死に耐えて、それでも手塚の腕に抱かれているのが居た堪れなくて、リョーマはジタバタと暴れた。 まともに手塚の顔が見られない。 もうこのまま全速力で家に帰ってしまいたい! 彩菜さんゴメンなさい!! 藻掻いて何とか逃げようとするリョーマの身体を、これは譲れないと言う体で手塚がしっかと押さえ込む。 「こら。怒っていたんじゃないのなら、ちゃんとこうした責任を取らないか」 お返しだと言わんばかりに、煽っただけの責任はしっかりと取らされたリョーマなのであった。
END☆
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