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be transparent (7)
By 大貫ユエ |
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「帰るぞ」
「ちぇ〜、もう?」 「あまり遅くなると家の人が心配するだろう?」 好きだと言ってくれたと思ったら、その次のセリフがこれではムードもあったもんじゃない。 「ま、部長らしいか……」 「何がだ?」 言いながら手塚は立ち上がり、空き缶をゴミ箱に落とした。 「別に……何でも無いっス。それよりこれから……」 リョーマはベンチから立ち上がるとバッグを肩に掛けた。 「どうした?」 歩き出さないリョーマに、数歩先を歩きかけた手塚が振り返る。 「付き合ってみたりするんスか?」 そう尋ねて来たリョーマの声には未だ何処か不安な気持ちが見え隠れしていた。 手塚は一度ゆっくりと瞬きをして、口元を緩める。 「……家まで送って行く」 「それって、答えになんない。 それに、俺の家と部長の家って方向違うじゃん」 「……お前も案外鈍いってコトだな」 「あんたに言われたくないんだけど」 いつにまにか、二人は隣に並んで歩き出していた。 身長差と歩幅の違いは比例する。けれど、二人は並んで歩く。 手塚は普段よりもゆっくり歩く。 隣のリョーマに合わせて。 手塚は本当にリョーマを家の前まで送った。 こんな遠回りだったら悪く無い。 手塚はそう思う。 元々が口数少ない二人なので言葉はあまり交わしていないが、胸の内にはさっきまで知らなかった感情が甘く広がるのを抑えることが出来ない。 やがて、リョーマの家の門の前に着いた。その頃には空には星が瞬いていて、夜の気配がかなり強くなっていた。 「アリガトウゴザイマシタ」 ペコリと頭を下げたリョーマはいつもの生意気さは陰をを潜めていて、随分と年相応の可愛らしさが滲み出ていた。 「いや……こういうのも悪く無い」 「本当に?」 「おまえに嘘を言っても何もならないが」 苦笑しながら辺りをサッと見渡した手塚は、湧き上がる感情と強くなる衝動に戸惑いながらも躊躇して、でも、それを一瞬で捨てる。 「越前」 「何ス……」 リョーマの返事をするよりも早く、手塚は身を屈めていた。 一瞬だけ触れあった、互いの唇。 「……今日は色々な越前を見れたな」 「……不意打ちなんて、ズルイ……」 不意の口付けにあからさまに動揺するリョーマに、手塚は微笑んだ。 「その笑顔もズルイよ」 拗ねたように呟かれて、宥めるように頭を撫でてやる。 こうして、リョーマに触れる毎に甘い感情が胸に広がる。 「じゃあな」 手塚の指先が名残惜しそうに、リョーマに髪に絡んで……離れた。 「あ、……じゃあ」 背中を向ける直前、リョーマの瞳が揺らいだような気がしたのは……気のせいだろうか? 手塚はそんなことを思いながら、駅に向い始める。 リョーマの視線を心地よく感じながら。 手塚の後ろ姿が見えなくなっても、リョーマは外に立ち尽くしていた。 何だか、家に入るのが躊躇われる。 別に後ろめたいとかでは無くて、今までの手塚とのやりとりや初めてのキスの余韻が抜けないからだ。 「ズルイなぁ……」 小さく呟く。 あんなことされたら、今まで以上に頭ン中がアンタで一杯になっちゃうじゃん。 アンタは平然としてるんだろうけど。 こっちは、アンタを思う度にドキドキしちゃうじゃんか。 思い出すと頬が熱くなってどうにもならない。 しかし、いつまでも外に立っている訳にも行かず、無意味にバッグを掛け直して門を開けた。 その時。 「う、うわあぁぁ!!」 リョーマはらしからぬ大声を張り上げて、目を大きく見開いて硬直した。 「オ、オヤジ……」 「見〜ちゃった、見〜ちゃった♪ チューしてやんのぉ!!」 南次郎が門の脇の植え込みにしゃがんでいたのだった。 「リョーマもやるなぁ」 ニヤニヤ笑う南次郎に、リョーマはプイと顔を背けると玄関の扉を開けて中に入り、南次郎が続いて入り込もうとする前に、ピシャッと扉を閉めて、カチャリと施錠した。 外からでも物凄い勢いで階段を駆け上がる足音が聴こえて来て、南次郎はクククッと笑う。 「フン、あいつか……」 リョーマにきっかけを与えたのは。 強い者が身にまとっている空気と言うか……雰囲気と言うか……間違いないだろう。 南次郎は真顔で手塚が歩いて行った方向を見た。 そして、フッと笑う。 「さ〜て、青少年達、先は険しいぞ……これからリョーマをからかうネタが増えたな〜。にしてもアイツ……俺の息子のクセに相手は男かよ!?」 リョーマはこの日、幸せと不幸せが一緒にやって来たと悟ったのである。
END
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