増える想い    By 大貫ユエ


 まるで嵐。

 リョーマは息も絶え絶えになりながら思った。
「大丈夫か?」
 心配そうな声が聴こえ、顔をのぞき込んだ相手を見れば自分とは正反対に変化なし。
 自分は恥ずかしいくらい涙で頬を濡らしていたので、ちょっとムッとした。
「……痛い」
 と、声を上げ過ぎたせいか掠れてる声で呟くと、のぞき込んでいる相手の眉尻が微妙に下がったる。
「……スマン」
「痛い痛い痛い。どこもかしこも痛くて動けない」
 リョーマは投げつけるように言葉をぶつけると、プイと手塚に背を向けた。
「っつ!」
 すると、身体の奥から痛みが走る。
「越前っ!?」
 自分を呼ぶ声に少しの焦りが混ざっているのが伺えて、本当に心配されているんだなと思った。
「…………」
 痛みを耐える為に噛んだ唇が、笑みの形に変わる。
「……喉乾いた。ファンタ」
 そう言うと、素早くベッドから出ていく彼。

 あの手塚が、自分のわがままに黙って言いなりになっている。

 しばらくして戻って来た手塚に、身体を支えて貰い喉を潤す。
 もう、涙は乾いていたけれど、リョーマは次に何を言おうか考えていた。

「シャツ着る」
 手塚は既にベッドを出る時にシャツを羽織り、パンツも履いている。ボタンは掛けられていなく、彼にしては珍しくルーズな着方をしているが、それすらも様になっているなんて、絶対に言ってやらないと思いつつ、床に落とされたシャツに目を向ける。
 すかさず手渡してくれる手塚に「どーも」と短く礼を言ってから、シャツを手にしたリョーマは視界に飛び込んで来たものに、愕然とした。
「何これっ!?」
 驚くのも無理は無い。
 自分の上半身に散っている赤い鬱血の痕。
 しかも半端な数では無い。
「1、2、3……10……15……20……23!?」
 律儀に数えて大声をあげる。
 見えるところでもこれだけの数なので、見えないところのことまで考えると頭痛がしそうだ。
「ちょ……アンタ何考えてんの!!」

 こんなにたくさんのキスマークはごまかせる訳無いじゃん!

 と、勢いつけて原因の張本人を睨んでみれば、やはり済まなさそう表情が見え見えで。
「スマン……つい」
 謝りながらも手塚も改めて自らの所業を見つめて、これはいくらなんでもやり過ぎたなと、心の中で呟く。
「体育も部活も有るのに……特に菊丸先輩には見られたくないし!」
 見られたら、どうなることか。
 焦るリョーマがおぼつかない手で頭からシャツをかぶる姿に、手塚は苦笑した。
「ちょうど良い機会じゃないか? 菊丸だって何も言えないと思うが」
 大石と菊丸だってしてることだし。と、匂わせて答えるとリョーマの眉が跳ね上がった。
「そう思う?」
「確率は100%だ」
「それにしても……何だってこんなにつけたの?」
「決まってるだろう? 解らないか?」
「解らない」

「それだけおまえに夢中になってたと言うことだ」

「…………」
 この男、どうしてサラリとそんな恥ずかしいことが言えるのか!?
 リョーマは反撃出来ずに沈黙した。
 せっかく身体の熱がさめて来たばかりだというのに頬が熱くなってくる。
「……全く……」
「どうした?」
「アンタって……」
 言った本人は何も動じていないトコロを見ると、天然かバカか。
 天然だろうと思いつつ、悪い気はしないのが本音。
「もう少し寝てても良い?」
 やっぱり身体は辛かったので。
 手塚は何も言わずに、リョーマの身体を支えて横になるのを手伝うのである。
「アリガト」
 ベッドに横になって、楽な姿勢を作り小さく溜息を吐いたリョーマの髪がサラリとなでられる。
「もう、こんなことはイヤか?」
 自分をのぞき込む瞳が、真剣だった。
「慣れ、じゃないの? 大変なのはアンタじゃない?」
「何故?」
「だって、俺が喉乾いただの汗かいて気持ち悪いだの服着るだの腹減っただの宿題やってないだだの言ったら、忙しいじゃん?」
 たたみかけられる言葉に、手塚はリョーマの考えていることを察する。
「……宿題もか?」
「提出明日だし」
「英語なら得意だろう?」
「日本語苦手だから、手伝って」
 そういうことか。と、苦笑するとベッドから見上げてくる恋人に頷いた。


「ねぇ、部長」
「今度は何だ?」
 次は何を言い出すのかと思いはするが、イヤな気分では無い。

「二人の時は名前で呼んで?」

 こんなことを言って驚かすリョーマが、とても好きだと思う。
「リョーマ……これで良いか?」


 満足そうな笑顔を浮かべるリョーマが、今まで以上に愛おしい存在になった。



Fin   




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