|
How to be effective against the illness of love 〜恋の病に効く方法〜 (5)
By 大貫ユエ |
|
「でかっ……」
初めて訪れた手塚家の大きさに、リョーマは思わず小さく呟いた。 しかし、それは手塚には聴こえていなかったようで、彼は玄関の扉を開くとリョーマに先に入るように促した。 「お邪魔しまース」 玄関先でリョーマが言うと、家の奥の方からパタパタと音がした。と、思ったら女性が一人姿を現した。 「いらっしゃーい」 ほんわかニッコリ笑う女性に、リョーマは思わず手塚を見上げた。 「母さん、後輩の越前です」 手塚に、「母さん」と呼ばれた女性はニコニコとリョーマに微笑みかける。 「初めまして、越前くん。国光の母です」 ハッキリ言って、手塚とは対照的である。 「初めまして」 ペコリと頭を下げると、手塚の母はリョーマと手塚の分のスリッパを用意した。 「どうぞあがって。 国光、飲み物用意するから取りに来てね」 「はい、すいません」 スニーカーを脱いで、手塚の後について行きながらリョーマは首を傾げる。 手塚は母親似……とは言い難かった。 初めて入った手塚の部屋は、自分の部屋とは雰囲気が違った。 キチンと片付けられていて、適度に乱雑になってる自分の部屋とは大違い。部屋の主の性格がそのまま出ている。 「越前」 「何スか?」 「ちょっと待ってろ。適当に座ってて良いから」 「はーい」 手塚は部屋から出て行った。そして、階段を下って行く足音がする。 リョーマは取り敢えず、自分の手に持っていたバッグと紙袋を邪魔にならないように部屋の片隅に置かせてもらうと、そのまま床に座り込んだ。 手塚がいないのを良い事にキョロキョロと見渡す。 しかし、勝手に何かに触れるのも悪い気がして、リョーマは大人しくしていた。 と、言うか、本当はちょっと緊張していた。 プライベートな時間に手塚と二人きりになるのは初めてだったから。 手塚はすぐに戻って来た。 母親に言われた通り飲み物を取りに言ってたらしく、二人分の飲み物を手にしていた。 「こっちのがおまえのだ」 「ども」 差し出されて受け取ったのはグラスに入ったジュース。 自分の手に取って、それがファンタであることに気付いた。 手塚が手にしてるのは湯気の立つコーヒーカップだった。 「いただきまーす」 「ああ」 良く冷えたファンタを一口飲んで乾いた喉を潤すと、ようやく妙な緊張感が少しだけ無くなった。 「これ……普段、飲んでるの?」 グラスを掲げて示すと手塚はチラリとそれを見てから、「いや」とだけ答えて、カップに口をつけた。 「じゃ、用意してくれたんスか?」 「母が、お前の好きな物をあれこれ訊いてくるので解ることは言っておいただけだ」 「そうなんだ」 リョーマはニコニコ笑っている手塚の母、彩菜の顔を思い浮かべた。 それからの二人は少し喋っては妙な間が空く。また少し喋る……そして、また間が空く。 を、繰り返す。 リョーマは自分の持って来た荷物に目線をやり、どうしたもんかと悩んだ。 いや、手塚との沈黙しがちな会話に、どうやって間をもたせようかと悩んでる訳では無い。手塚も何も思っていないようで、彼は穏やかにリョーマを見ていた。 リョーマが悩んでるのは、自分の持って来た荷物。 紙袋に入ってるのは、手塚に渡すために用意した物。 ちょっとだけ遅刻した理由。 手塚への誕生日プレゼント。 いつ渡そうか? とか、渡すなら今でも構わないんじゃないかとか。そんなことを考えては自分でもおかしくなった。 こんなに、一人の人の為にあれこれ考えてる自分は初めてだったから。 手塚のこと好きになるまで、そんなことした覚えは無かったから。 リョーマはクスッと笑った。 「どうした?」 手塚がリョーマの笑いに気付く。 「別に……」 何でも無いと言いかけて止めた。 紙袋を取りに行き、手塚の元に戻って来る。 そして、それを手塚に向かって差し出すと、手塚は不思議そうな顔をしていた。 「……何だ?」 これは。 目線で問いかけて来るのが、何だかおかしかった。 本当に不思議そうな表情をしているから。 「もうすぐ誕生日、じゃないの?」 「……そうだった。それでこれを俺に?」 「そう。たいした物じゃ無いけど」 「有難う」 手塚は紙袋毎受け取った。 「開けても良いか?」 「良いけど、ホントにたいした物じゃないから」 「中1のおまえからブランド品貰った方が、複雑な気分になると思うが」 リボンが結ばれた包みを紙袋から取り出して、手塚は丁寧に解き始めた。 「あら? 国光、着替えたの?」 使ったカップ類等をキッチンに下げに来た手塚に、彩菜は目敏くさっきまで着ていなかったシャツに目を止めた。 「はい」 「新しい服?」 「はい……変ですか?」 彩菜は息子から訊かれて、微笑んだ。 「国光がそんなこと訊いてくるなんて、初めてね。似合ってるわよ? でも……国光のセンスとはちょっと違うようだけど?」 やはり、ほんわかしてても母親だ。鋭い。 「越前にプレゼント貰ったので」 「あら? 誕生日の?」 「ええ、まあ」 「そうだったの。ね、越前くんに夕食も一緒にどうぞ。って、言って来てくれる? 嫌いな物とかも訊いて来てくれると助かるわ」 「はい」 手塚が自室へ引き返すのを見届けてから、彩菜はクスクス笑った。 「相当、越前くんがお気に入りみたいね……わざわざ、貰ったシャツに着替えるなんて」 意外とそんなトコも、鋭いのである。 そして、手塚家の夕食の席に招かれたリョーマはと言うと、手塚の祖父を一目見て自分の意中の人は「……爺ちゃん似」と、納得した。 リョーマの帰宅時間を考慮して、少し早めの夕食の席。 彩菜お手製の和食料理の数々に目を輝かせて嬉しそうに食を進めるリョーマに姿は、彩菜を喜ばせた。何せ、自分の家族はいつも食事中は物静か過ぎて折角作ったのに、反応が無いに等しいから。 夕食を済ませてから、自分の家に帰るリョーマと、途中まで送ると言った口実を付けた手塚が一緒に家を出ようとすると、彩菜と祖父・国一が玄関先まで見送りに来た。 「国光、ちゃんと家まで送るのだぞ」 何を思ったか国一が手塚の背中に声を掛けた。 「えっ……いや、そこまでで良いっス」 と、リョーマが口をモゴモゴさせると今度は彩菜が、 「ダメよ、越前くん。可愛いんだから」 とんでもない言葉が口から出て来たのである。 言われた当人同士はちょっと固まった。先輩が帰宅する後輩を電車に乗ってまで自宅にキチンと送る……何て話はちょっとおかしかったので。 「そうだぞ、国光。ちゃんと家の前まで送るのが、彼氏のつとめじゃぞ。リョーマくんに何かあったらどうするんだ?」 「そうよ〜、国光。良いわね?」 えっ? と、二人は顔を見合わせる。 背中越しに、手塚の母と祖父はとても恐ろしいことを言っているような気がして。 (何でバレてんの?) (俺は何も言ってないが?) 目線で会話する、リョーマと手塚。 しかし、 「ホラホラ、早くしないと遅くなるわよ〜」 「リョーマくん、国光がいない時でも遠慮なく遊びに来なさい」 なんて、セリフに玄関から追い出され、二人は外に出た。 そして、手塚とリョーマを送り出した二人は顔を見合わせる。 「お〜、何やら青春ってヤツかの〜? 国光のヤツに浮いた話が一つも出て来ないから、内心では心配しとったんだがのう」 「心配無さそうですね?」 「しかし、良く見破ったのぅ?」 「あら、お義父さん。国光が越前くんに誕生日プレゼント貰ったって、私に見せに来たんですよ? あの国光が」 「ほ〜? あの国光が?」 「手くらい繋いだのかしら?」 「いやいや……あの様子じゃまだまだじゃ」 ヘンな所で寛大らしい、二人は声を上げて笑い出した。 「ここまでて良いスから……」 一方、無言のまま歩いていた二人は駅の改札に到着していた。 リョーマは背後を歩く手塚を見上げた。 「家まで送る」 切符を買おうとしたリョーマを制して、手塚は自分の財布を取り出し二人分の切符を買ってしまった。 「だって……」 普通、そこまでするヤツはいないだろう? と、思うのだがリョーマは黙った。 「このまま家に戻っても、二人に説教くらうのは目に見えてる。それに……一番の理由は……もう少し、一緒にいたい」 リョーマの気持ちと同じ言葉が手塚の口から出たからだ。 これは、かなり嬉しかったりする。 二人でホームに上がって電車待ちしてる時も、何回か言葉を交わす程度だったけれど心の中はすごく満たされていた。 やがて、時間通りのやって来た電車に乗り込んで、空いているのを良い事に二人並んで座り、リョーマは寝た振りをして手塚にもたれ掛かったりもしてしまった。 その間、凄くドキドキしてた。 電車を降りて、二人並んでリョーマの家に向かう。 夜の住宅街に入った途端、人通りは全く無くなったのでリョーマは少しためらいつつも手塚の手に触れてみた。 すると、手塚は立ち止まりリョーマの顔を見て、薄く唇を緩めてから自分よりも小さな手を握って、指を絡めて繋ぎ直した。 もうすぐ、リョーマの家の前に辿り着く。 「越前」 「何スか?」 「今日は……嬉しかった」 「俺も嬉しかったし、楽しかった」 「今度は、二人で何処かに行こう」 リョーマの表情がパッと輝く。手塚から誘ってくれたとに対して、感情が素直に表情に出た。 「……行く」 「越前の誕生日はいつだ?」 「12月24日」 「そうか……その日は予定を入れないようにしないとな」 「その日に逢えるの?」 「その日だけでは無いぞ」 「へへへ……」 二人が名残惜しく繋いだ手を離したのは、リョーマの自宅前に到着してから5分後。
END
|