ラブ・ハイテンション?<後編>    By 大貫ユエ


 手塚の後について歩くリョーマである。表情はいささか緊張気味なのは、気のせいでは無い。
 実際、手塚の後を追うのに必死でどうやって手塚の自宅まで来たのか、記憶が無い。
 気づいたら、手塚の部屋にいた。と、いう感じである。
 初めて来た訳では無い。それなのに、何だか初めて来たような気分になる。心中はやや複雑。
 嬉しいような恥ずかしいような緊張するような。
 恐らく、ただ遊びに来るだけなら、こんな気持ちにはならないだろう。
 今、この部屋にいるのは、別の意図があるからだ。
「越前?」
 名前を呼ばれてハッとした。
 そう、この部屋にいるのは自分一人では無かった。
「はい?」
「電話使って良いから、自宅に連絡しろ」
「えっ?」
「泊まって行かないのか?」
「良いの?」
 この広い家で、二人きりになるのは初めてだと言うのに、手塚はスッカリ落ち着いているように見える。さっきの動揺していた様子が嘘のようだ。
「その方が良いだろう?」
「……じゃ、お借りします」
 電話を借りて自宅に連絡を入れる。奈々子が電話に出て、話はアッサリと終わった。
 受話器を置いた時、もう後戻りは出来ないとも思った。
 そもそも、手塚をその気にさせたのは自分だ。
 覚悟は出来ているが、心が落ち着かない。
「越前? どうしたんだ?」
 とっくに会話を終えていたのに、電話の前に立ち尽くしていたリョーマに、少し心配そうな声がかかる。
「……別に、何でもない」
 リョーマがそう答えると、手塚の表情はたちまち元に戻る。しかも、余りにも微妙な変化なので、声だけじゃなく表情も心配そうだとはリョーマは気付かなかった。
「夕飯に何か食べたいものはあるか?」
「和食」
「焼き海苔と生卵でも構わないと言うなら、用意するが」
「……何でも良いっス。食べられるなら」
「そうか……嫌いな物はあるか?」
「特に無いけど……」
「これから食事の用意をするから、俺の部屋で待ってろ」
「部長が作るの?」
「そのつもりだ」
「部長……料理出来るの?」
「さあな」
「じゃあ、俺……ちょっとコンビニ行ってくるっス。ファンタ飲みたいから」
「そうか。その間に用意しておくから、余計な寄り道はしないように」
「はーい」
 リョーマは外で出ると、コンビニに向かって歩きながら何かを考え込んでいた。


 夕食は手塚の母が前もって作ってくれた物を温め直すだけだった。
 ラップの掛かった皿を無造作にレンジに入れて、味噌汁の作ってあった鍋に火をかけ温める。
 二人分の食器を用意し、黙々と手を動かしながら も手塚はまだ迷っていた。
 このまま、リョーマを抱いてしまって良いのだろうか?
 愛おしい存在だ。
 辛い思いはさせたくない。
「やっぱり……」
 思わず口から独り言が洩れる。
「やっぱり、何?」
 背後から、リョーマの声がした。
「戻ってたのか」
「声掛けたんスけど? 全然気付かなかったみたいスね」
「悪い」
「考え事?」
「いや」
「フーン、良いけど。腹減った〜」
「準備は出来てるぞ。そこに座ってろ」
「は〜い」
 大人しく言われたままに、リョーマは椅子を引いて座る。
 目の前には、テキパキと料理の乗せられた皿が並べられて、暖かい味噌汁とご飯が現れた。
「部長……」
「何だ?」
 手塚はリョーマの向かい側に座る。
「部長がご飯よそってくれるのって、不思議」
「俺だって出来るぞ」
「そうなんだけど……部の先輩達に見せたい」
「訳の解らないこと言って無いで、早く食べてしまえ」
 部長、何だかオヤジくさい……。
 リョーマは心の中でだけ呟いた。
「いただきまーす」
「いただきます」
 二人は同時にそう言うと、後は黙ったまま食事を進めるのであった。
 夕食が終わり、後片付けを二人で終えてしまうとリビングでテレビを見ていたが、途中で手塚は風呂の用意をすべく立ち上がってバスルームに行ってしまった。
 リョーマは目線だけはテレビに向けていたが、頭の中はどうやって手塚のことを驚かせてやろうか。と、考えを巡らせる。
 これから何をするかハッキリ解ってるのだけど、手塚にはそれが解ってるのか?と、言いたくなるような冷静さが何か悔しいのだ。
 しばらくして、手塚が戻って来た。
 風呂の用意が出来たから、先に入って来いと言われて立ち上がる。
 着替えが無かったので、どうしようかと思ったが手塚が一通り貸してくれた。
 風呂入るまで制服のままだったので、ようやくリラックス出来る。と、脱衣所で借りたTシャツを広げて見て、ちょっとムッと来た。
 手塚のTシャツは自分には大き過ぎた。
 自分の身体に当てて、膝上丈まであるそれを見つめてたリョーマは急に唇を緩めた。
「良いこと考えた」


「越前……? 俺はシャツ以外にも渡したはずだが?」
 風呂から戻って来たリョーマの姿に、手塚はちょっと動揺した。
 眉間にくっきりと浮かぶ皺。
「だって……部長の服、大きいからこれだけで充分」
「…………」
 リョーマはTシャツ以外は何も身に付けていなかった。
 たったそれだけのことなのだけど。

 手塚は何かに引き込まれそうになる気がして、慌てて(リョーマには普通に見えるが)立ち上がった。
「部長も入ってきたら? 丁度良い湯加減スよ」
「ああ、そうする……」
 リビングを出た手塚は眼鏡を外すと、小さな溜め息を吐いた。
 その身体には大きいTシャツ一枚だけのリョーマ姿に、ちょっとクラッときたのだ。
 可愛い……と、思ってしまう辺り、手塚も末期なのだろう。
 ねじ伏せようとしていた感情が揺り起こされるような気がして、思わずこめかみを押さえてしまうのであった。
 そんな手塚が無心でいようと、少し長く風呂に入って気持ちを落ち着けて戻って来ると、リビングのソファーに寄り掛かったまま、リョーマは眠っていた。
 寝顔があどけなくて、思わず笑みが洩れる。
 手塚は二階の自室に向かって電気を付けるとドアを開いたままの状態にし、リビングに戻った。ソファーで寝てるリョーマを軽々と抱き上げて、階段を上がる。
 自室のベッドに寝かせて、もう一度階段を下った。
 家の戸締まりを確認して、戻ってみれば。
 ベッドに寝てるリョーマは寝返りを打ったらしく姿勢が変わっていて、それを見た手塚は息を飲んだ。
 シャツが捲れ上がっていて、太ももがきわどい高さまで露になっていたのだ。
「全く……おまえってヤツは……」
 手塚は何度目かの溜め息を吐いて、ベッドに座った。捲れ上がったシャツを直して布団をかけてしまおうと手を伸ばした時、いきなり手を掴まれた。
 眠っていたとばかり思っていたリョーマが、手塚の手を掴んで見上げていた。
「起きたのか……?」
「起きた」
「寝てて良いぞ」
「それ、本気?」
 リョーマは挑むような目で、手塚を見ていた。
「……おまえが辛い思いをするんだぞ?」
「まだそんなこと言ってる」
 リョーマは身体を起こすと、手塚に抱きついた。
「俺相手じゃ……ソノ気にならないの?」
 耳元で囁かれ、手塚は目を閉じて腕の中身体を抱きしめた。
「そんなことは……無い」
「じゃあ、何でそんなにテンション低いの?」
「…………全く……どうなっても知らないぞ? 良いのか?」
「そのつもりで来たんだけど」
 リョーマは頬を赤くしながらも目の前にある肩に額を押し当てたまま、手塚の片手をとるとダイダンにもシャツの上から自分の身体の腰回りに触れさせる。
 リョーマは下着をつけていなかった。
「そこまで俺を挑発して……どうする?」
「だって、ここまでしなきゃ……アンタ、ソノ気にならないじゃん」
 手塚はリョーマの身体を抱きしめたまま、シーツの上に横たわらせた。
「………そう思ってるのはお前だけだぞ」

 小柄なリョーマの上に身を伏せて、手塚は笑った。




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