8.食うな!


 ネットで出会って、一度も逢わないまま主従の契約を結ぶ。オンラインだけでそこまで信頼関係が出来上がる事もあります。しかしそれだけにいざ逢うとなると、勇気がいるようです。特にM女にとっては・・・

 彼女は自分が丸いことを気にしていました。丸い丸い。逢うのが怖い。そんなことばかり言っていました。それでも毎日バリバリポテチを食いながらビール片手にチャットする生活をやめようとしません。

 あるとき電話で話しているときにまたそんな話しになりました。
「わかったよ、お前だったら食うな。もう。何も食わないで逢うまで我慢しろ。」
「げっ」
「げ、じゃねーの。もー食うな!」
 まあ、ほんとに何も食わないとは思っていません。でもまあ少しは控えるだろうし、そうすることで自信がついてくれればと思っていました。
 しかし、自分も自慢できる体型ではけっしてありません。
「いいか、その代り俺も何も食わないから、お前も食うな。」

 その日の仕事が終わって、私がメールをいれました。
「今日、何食べようかなぁ。」
 すぐに携帯に返事が届きます。
「すきっ腹にビールはきく。寝ちゃう前に早く帰ってきて、チャットで話したいです。」
え? 本当に食ってなかったんか? そんで待ってるの? うーん可愛いよなぁ そんな無茶な命令でも素直に聞いて、我慢する。奴隷の見本だな。うん。惚れなおした。偉い偉い。俺も何も食ってないからな。まっすぐ帰るよ。

 そして次の日。私も相変らず何も食べていません。お昼くらいには空腹はピークを迎えます。「うどんくらい食べてもいいかな?」 と考えてしまいます。考えると食べたくてしかたない。
 しかし、自分にできないことを奴隷に要求はしない主義の私です。ここで食べてしまったら主としての威厳もない。彼女はけなげにがんばっているのだろう。そう思ったらとても食べられるものではありません。
 しかし夕方くらいになると、胃がからっぽになってきている実感があります。「ちょっとまずいかな、最低でもトコロテンくらい入れておいたほうがよさそうだな」 コンビニに寄ってトコロテンに手が伸びかけました。しかし、そこでも空腹に耐えているであろう彼女を思い出してしまいます。「いや、我慢しよう。」 結局水だけ買ってコンビニを後にしました。

 しかしさすがに何も食べないのは危険だし、リバウンドもあるでしょう。やはり極端はよくない。一仕事終わった所で、電話して何か軽くでも食べるように指示を出す事にします。
 ところが携帯の電池が危ない。下手に電池切れになったら、深夜に帰宅するまで「食べろ」と言えなくなってしまいます。 商談している間、何度かかかってくる仕事の電話にひやひやしていました。
 
 商談が終わって車の中。なんとか電池はもってくれました。さっそく電話をかけます。
「だいじょうぶか?何も食べてないんだろ?」
「え〜(笑)」
こいつ何か食ってやがる!

「お前! 何か食ったろ」
「あ、」
「あ、じゃねーよこら」
「あ、食べてません〜 食べてない食べてない」
ぜってー食ってるよこの女
「うそつけ、このばかたれ。俺が一日何も食わないで我慢してるのに、何食ってんだよこのスカタン!」
「えー 食べてないですぅ」
「お前、このやろー、まさかお前ポテチ食ってないだろうな」
「え〜(笑)」
食ってるよ。こいつ。ぜってーポテチ食いながらチャットしてやがった

「でも。ビールはまだ飲んでへんよ」
「アホそういう問題じゃないだろ。お前。この。大体だなぁいつだってお前は・・・ あ・・・」
電池切れた・・・

まったくやる気あるんか!