第五夜 『因』
 紡げば、いつも同じシナリオ。  同じ日常、同じ、いつも、いつでも、そしていつまでも...  紐解けば、いつも同じ。  書き換えても、置き換えても、なにをしても同じいつも...  何時の頃からだろうか、歪みが生じてきたのは...  いつでも同じ、些細な変化、産まれてきた歪曲、望まれて然るべきもの。  少年は初めて存在を許容された。  少女はそのことについて知らなかった。  絶叫は何もかも吹き飛ばした。  日常を、価値観を、記憶を、感情を、そして、自分自身の大切な人も。  少女は、虚空に瞳を浮かべる。  ドロリと濁った目に光は通らない、全てが映らない。  少年は知っている。  彼女達のことを。  少女達は知らない。  少年のことを。  「 その子が、先輩の妹さん? なんか死人みたいだ。 」  先輩と呼ばれた少女は、後ろにいる少年に哀愁が漂う瞳を向ける。  「 そう………。………いえ。 そうだった、と言うべきでしょうね。私は・・・ 」  含む物言いを彼女は、先輩と呼ばれた慈乃(しの)は答えた。  「 無駄だよ、その子の目からは覇気が無い。身体は生きてる、でも死んでると一緒だ。 」  少年は、残念ながらねと最後に付け足した。  樂斗に向けていた瞳を雫に、妹と言った少女に再び戻した。  雫は、虚空の先にある何を見ていたのか。  「 ………知っています。 全て『予測』し得た未来でしたから・・・ 」  少女は、うつむき加減に押し殺した声を吐く。  「 へぇ。 先輩も人が悪い、知っていてそういう風に仕向けたんだ? 」  樂斗は慈乃をバッシングする。当人、慈乃にとっては痛恨の一言に当たっただろう。  「 痛い表現をしますね・・・。 」  自らをあざ笑うような嘲笑を、樂斗の視線を背に浴びながら浮かべていた。  一分、数分、数十分。  気まずい雰囲気の中、慈乃は雫のそばに座っている。樂斗は彼女達を見ていた。  「 少し外でも歩いてくるといいよ『慈乃先輩』 そうすれば気でも紛れるものさ。 」  気まずく感じたのか、それとも単に飽きたのか、樂斗はそう慈乃に提案する。  「 ………そうね、少し席を外すけど。 雫に、妹に何かあったら迷わず殺すから。 」  慈乃は雫と樂斗を一瞥して、そう言った。  樂斗は大丈夫だ、などと言って慈乃を半ば追い出した。  慈乃は私室(和室?)から出て行き戸を律儀に静かに閉めて足音を遠ざからせた。  「 まぁ、いい人だと思うよ、実際。 どう思う、悠樹? 」  樂斗は虚空に喋り出す。時間は朝、日差しがまだあまり強くない時間帯。  朝日は樂斗の背に当たり、雫の正面ぐらいの位置に影が浮かび上がっている。  不意にその影は、本体の位置とは関わらずに空間上に浮かび上がり樂斗と同じ姿を取った。  「 私にはどうでも良いことですよ、まぁ、儚げと言うポイントで好感は持てますかね。 」  影は立ち上がり、指を鳴らす。  漆黒の腕、全身もまた漆黒、目の部分だけが真っ白だ。そんな影人形が意志を持って指を弾いた。  「 その姿は………。 頼むから服を着てくれ、一糸まとわない影なんか見る趣味はないんだ。 」  「 器が知れてしまいますよ、樂斗 私が彼女の姿を取って何が悪いのですか? 」  その姿は男性から女性への変化だった。  声も先ほどよりも高い、声帯も変化し終わっていた。  「 ………成る程ね、株分けされた存在、力のみの存在。 オリジナルである慈乃先輩 」  樂斗は悠樹が取った姿について一言漏らした。  「 人形ですよ。 この身、この姿、この感情。 全部受け売りに過ぎないのですから。 」  不意に、目の前にいる濁った目を持つ少女は樂斗が悠樹と呼んだ影に視線を巡らせた。  「 !? 」  樂斗は少し驚いた、悠樹は漆黒の姿を彼女に向けた。  「 姉……様? 」  少女、雫は樂斗の前で言葉を紡いだ。  「 死、んだ………のに、『私が、壊しちゃった』のに。 なん……で? 」  雫は、濁った瞳から涙を流した。感情の隆起無くただ涙を流していた。  「 ええ、貴女が壊しました。 でもね、雫。後悔はしてないよ。 」  「 ……… 」  樂斗はただ見ていた。この二人のやりとりを、踏み込める内容ではないと知っていた。  「 貴女は、後悔してる? 雫、『私』を恨んでる? 」  そう言ったときだった。漆黒の女性と化した悠樹はおもむろに雫を抱きしめた。  樂斗は目のやり場に困ってか、それとも会話に参加できなくてかそっぽを向いた。  目で見えなくとも聞こえている、その内容恥ずかしきに難くない。  「 姉様、姉様……… 」  それだけを繰り返す少女は。  暫く泣き続けて、静かに目を閉じて寝息を立て始めた。  いや、あるいは数分後の少女の戻りを予期していた行動であったかもしれない。  黒い少女は寝付いた少女の涙をふき取ると、背を向けている主の影へひっそりと戻っていった。  きっかり数分後、先ほど散歩に行った少女は。  帰って来た。

  マエ ツギ

モドル