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新・アジア考

Vol.44
「留学生10万人時代 〜お隣りのアジア人」

                                   
                                      上海のキャンパスライフ

*アジアに向かう日本人留学生

 筆者の「アジア観」というものが、じつは取材ではなく、留学や国際交流を通して作られていた−−と言えば、意外に思われるだろうか。

 一見、取材は「客観的」、生活者としての立場は「主観的」であるように感じられるかもしれない。しかし実際には、取材という仕事になると、文章の発表媒体や、その受け手たちという要因を考慮せざるをえず、「売れるため」また「スポンサーのために」いやおうなしにバイアスがかかってしまう。

 そのせいだろうか、筆者がアジア現地の情報を判断、論考をあみだすさいに、立ち戻るべき基盤というのは、取材を通じて得たものでない、むしろ無色透明な存在として、現地で生活していたさいに、自然と形づくられてきたように感じられる。

 筆者の場合、卒業後の留学であったものの、近年のアジア行き留学生(とくに語学留学・短期留学)として多いのが、「退職後の壮年」と「長期休暇のとれる大学生」だ。これに加えて高卒者、つまり日本での志望大学入学でも、浪人でもない、第3の道を模索すべく、アジアの大学に入るケースが増えているという。日本人の留学先として(大陸)中国は第2位にあげられており、年間の留学生数は13870人、韓国への留学者も4940人(2000年)という記録がある。(とくに近年の韓国語学習ブームにより、韓国留学者数は激増していると予想される。)

 こうした「アジア志向」の現象を反映してか、なんと大阪に上海の大学が分校を開校する計画があるという。名門の「同済大学」−−上海市の再開発の一端も担当するほどの大学で、日本キャンパスの開校予定は2006年だ。そもそものっきかけは、上海・大阪の友好都市関係締結30周年。2004年に、経済交流をめざして生まれたもので、日本企業のビジネスマン向けに、中国語や現地習慣の教授のみならず、同済大学の得意とする都市工学や交通工学、環境工学など主に理系分野を、英語と日本語で教えるという。最終的には大学院の開校まで予定されているようだ。

 ところで筆者は上海と台北に語学留学した経験がある。いずれの大学においても、たんに語学を教えこむのみにとどまらず、現地の日帰り旅行や、現地学生との語学交換会などを設けていた。短期留学にもかかわらず、ぞんざいに扱うことなく、きめこまかなケアがおこなわれていたせいだろうか、現在でも感謝とともに、滞在地について紹介する文筆活動を続けている。語学交換学習のさい、筆者も聞き取れるよう、かみしめるように発音してくれた、現地の卒業生たち。日本人歌手の名前を出すと、一気に会話がもりあがる。一緒に参加したのは、たしか韓国からの女子留学生であったか…

 日本ばかりでない、「アジア志向」というものは、韓国でも同様であり、とくにここ数年、急速に親中が進んでいるという。たとえば北京大学への留学生55カ国のうち、最多は韓国で28パーセントを占めるという。これに日本人が続く。(2000年)そういえば筆者が留学した上海の大学でも、キャンパスの周囲になぜか、韓国料理店がめだっていた。たんに韓国人が国粋的で外国料理になじまないため、ニーズが多いというだけない、単純に在籍人数が多いのである。(ちなみに日本人向けの店というのは、大学周辺よりむしろ、ビジネスマン向けの歓楽街に多いようだ。)


*留学生の実態

 ところ変わって日本において。たとえば通りすがりに耳にする中国語や韓国語。または「おや?」とみかけたムスリムのヴェール姿の女子学生。日に焼けたような姿で数名一緒に行動している東南アジアの青年たち。こうした風景を日常的に見かけるかたもいらっしゃるのではないだろうか。

 「留学生総数が、10万人を超えた」−−そんなニュースがマスメディアに流れたのが、2004年のことである。1993年にかかげられた「21世紀10万人受け入れ」目標を、10年がかりで達成したわけである。2004年の段階で、留学生の総数は117,302人。いったいどこの国からそんなに大勢…と内訳を眺めてみれば、出身地の第一位は中国(77,713人)、これに続くのが、韓国(15,533人)、台湾(4,096人)マレーシア(2,010人)、タイ(1,665人)となっており、総数のなかでアジア人がなんと93.4%をしめている。(2003年。文部科学省発表)。単純に日本人学生数から換算すれば、高等教育を受ける学生のうち、30人に1人はアジア人、となったというわけだ。

 ただし10万人計画を達成した翌年、留学目的の入国者数は、減少に転じている。これは法務省が在留資格審査を厳しくしたためだ。たとえば生活費の支払い能力は。語学力は。母国での経歴は。そのため2004年には同期の前年比46%減となっている。ちなみに滞在中の留学生総数のみならず、留学目的の入国者数においても(大陸)中国は留学目的では全体の37%、トップを占めている。

 そんな彼らはいったいどこにいるのだろう? 留学生受け入れ大学ランキングによれば、最も受け入れ人数が多いのが東京大学(2056人)、これに続くのが早稲田大学(1769人)である。実際に証言しよう、筆者も大学時代の同窓生に東南アジア出身の女子学生がいたのを覚えているが、彼女たちの勤勉なこと!日本語の高度な授業にきちんと出席するばかりでなく、それなりの成績をおさめている。恥ずかしながら、不良だった筆者など、試験前に幾度か彼女たちのノートを借りたおぼえがある。たしかにきちんと書きとめられているのだが、唯一の難点といえば、時おり英語や現地語混じりの点だろうか。

 必ずしも留学生たちは、在日外国人街で徒党を組み、エスニック料理ばかりを食べているわけでない。(第一、日本のアジア料理店は高価であり、味も現地に比べれば落ちる)。また日本語学校に通う段階の就学生については、「不法就労」というキナ臭いイメージが根強いのだが、現実の大多数は合法的に、つまり資格外活動の許可を得て、1日4時間を限度にアルバイトに励んでいる。平均、1週間に15時間程度であるといわれており、こうした留学生は全体の7割に達するようだ。その居住地は、公費留学の修士学生以上ならば留学生会館等に、また大学生ならば数名で借りたマンションで、ルームシェアをすることもある。

 そんな彼らは、まず母国で高等教育機関を卒業していることも少なくなく、さらに日本で大学・大学院等を卒業…とういことは、語学のみならず、専門分野においても、相当なスキルを有していると予想される。ただしこれはタイのケースだが、現地の一般企業に就職した場合、卒業時の年齢が高くなってしまうこと、また時には上司より高学歴になり人間関係に悩むことなどが問題としてあげられている。

 それではいっそ、日本で就職を…。じつはこれが大変に狭き門なのだ。留学生の身分から日本企業就職をはたしたのは、3209人(2002年)。(ちなみにピークはその前年で最高3581人であった。)10万人のうちわずか3000人、約3%ということになる。多いのはやはり(大陸)中国人で(就職組の60.2%)、これに韓国・台湾・インドネシア・マレーシアと続く。やはり留学生総数と同じく、アジア地域が全体の93.7%となている。トップが中国というのは、やはり絶対的人数の多さに加え、日本企業の中国進出という新しいニーズも追い風となっているからだろう。筆者も某有名デパート系列のアパレル産業に従事していた上海人を知っている。おそらく商品調達先として、中国が急浮上、商談をまとめるのに奔走していたことだろう。

 こうした元留学生の在留資格で、最も多いのは「人文知識・国際業務」(60.7%)、これに「技術」(22.7%)が続く。在日外国人の就職といえば3k労働、という先入観が根強いのだが、必ずしもそうではない。

 そもそも日本の外国人就職者というのは、他の先進諸国に比べれば、これでもまだ格段に低いほうであるという。OECD(経済協力開発機構)の発表によれば、日本の労働力人口に占める外国人の割合は、わずか0.3%。主要7カ国(いわゆるG7)のなかで最高レベルのカナダが19.9%、逆に日本についで低いイタリアでも3.8パーセントであることを考えると、高齢化・少子化にともない、日本でも移民政策の見直しが必要であるという説も説得力をもってくる。


*広がる日本のイメージ

 ただし滞在させればいいというわけでないのが難しいところだろう。たとえば筆者が米国に短期留学および滞在中のこと。クレジットカードを使うたびに偽造犯罪者と疑われ、幾度にらみつけられたことか。数十分も待たされたすえ、商品のアイスクリームたった1本が溶けてしまったこともあった。また別の店は注文した料理が、何のあいさつもなく、蔑視をそのまま盛りつけたようにどすんと目の前に置かれたこともある。唯一の例外であったアジア系米国籍者たちをのぞけば、結局、アングロサクソン系米国人からは一度たりとも良い思いをしたことがなかった。こうした差別体験が、筆者を初めてアジアにめざめさせ、また現在にいたるまで国際観の一端を形づくっていることは、ほぼまちがいない。
 
 そんな筆者の立場を、日本へのアジア系留学生にあてはめてみれば? もしも対応を誤れば、反日主義者をアジア各地にばらまきかねないことになっていまう。しかも盲従ではない、高度な知日にもとづいた反日を…。

 留学とまではいかなくとも、皆様も旅先で次のような体験は、おありでないだろうか。海外旅行者の大挙する観光地であればともかく、さほど外国人のめだたない、とある異国の街かどにて。商品を値切ろうとした行為を、または無断で道端の花を摘もうとした行為を、自制する。
「日本人のイメージを汚してはいけない」
−−そのときあなたは、プチ民間大使の1人なのだ。たとえ一期一会といえども、そのとき相手が目にした日本はあなた自身である。

 これを逆から見れば、そのときあなたが見た風景のひとつひとつは、その国そのものである。こうしたささやかなワン・シーンが積み重なり、一国の印象がたち現れ、そんな1人1人が数万さらには年間10万人レベルまで合計されれば? 我々の全く知らないところで、ある「日本像」というものが、漠然と結ばれているとしても不思議ではない。そしてまた、時おり発熱のように生じる反日感情、日本叩きとも言われる行為が、全くもって無から生じたわけでなく、声なき声・アジア各地に実体験として沈む怨恨を源としていると考えられないこともない。筆者自身、日本在住の台湾人エリートたちから、幾度、不満の声を聞いたことだろう。
「中国語を話すというだけで、犯罪者扱いされてしまうのですよ!我々は台湾人なのに」

 マスメディアの報道というものは、視聴率・購読者数を確保するため、センセーショナルにならざるをえない。しかし大多数の留学生たちは、日本の片隅で静かにこつこつと勉学に励んでいるのである。しかも渡航費用や経歴のうえで審査に合格した、いわばエリートで、将来的に現地で重要なポストを任されることも少なくない。留学生の9割をしめるアジア人たちは、帰国後、いったいどのような「日本」をアジアに伝えているのだろう。

 ところで日本とアジアの関係を留学という観点から眺めてみれば、アジア史に名だたる人物が日本留学をはたしていることがわかる。最近の有名な例では、台湾の前大統領(前総統)・李登輝氏があげられるだろう。終戦まで京都大学に在籍していたこともあり、非常な親日家でもある。数年前、行きづまり気味の日本人に「日本精神はどこにいったのだ」と叱咤激励していたのは、このかただ。

 それでは韓国では。最も有名なのは元大統領・朴正熙氏だろう。経済発展の父という横顔を持つ彼は、1942年に満洲の新京軍官学校を首席で卒業、さらに1944年には日本の陸軍士官学校をなん上位3番という高成績で卒業している。戦後、断交していた日韓関係が、彼の大統領時代に日韓条約締結として復活したことをつけ加えておこう。またこうしたゆかりがあるせいか、現在でも日韓の防衛交流は安定して続けられているという。

 現在でも最大の人数をほこる(大陸)中国出身者については。中華民国総統であった中正公こと蒋介石氏が日本の陸軍士官学校に留学している。この経験が終戦直後の日中戦争賠償問題で「徳を以て怨に報いる」つまり賠償放棄という措置に、影響を及ぼしているのかまでは定かではないものの、少なくとも日本の親台右派が今でも彼に対して感謝の念を抱いているのは、彼の経歴によるところも少なくない。さらには中山公こと孫文も来日経験があり、文豪・魯迅が東北大学異学部の前身(仙台医学専門学校)に留学したことがあるのは有名だろう。彼が中国人への差別待遇に発奮して、自国の近代化を担うこととなったというエピソードは有名だ。さらにかの周恩来元首相も東京・神田の東亜高等予備学校に留学、近くの明治大学政学部(現在の政治経済学科)に通っていたという。

 このそうそうたる顔ぶれ! 当時、こうした留学生たちが、厚遇されていれば、それこそ東アジアの歴史そのものが、変わっていただろうか。国共合作でなく、国日合作が組まれ、さらに国共合作に連なっていれば、半世紀後まで尾をひく歴史問題も根本から起こりえなかったかもしれない?こうしたIFは歴史に禁物といえども。

 少なくとも現在でも着々と留学生たちがアジア各地に広がっていることは、胸にとどめておきたい。その数、10万人が…。 


                                       (05/06)

[参考文献]
・法務省入国管理局「平成16年における外国人及び日本人の出入国者統計について」2005年・文部科学省ホームページ2004年・(財)日本国際教育協会」・「韓国の歴史的社会文化構造3〜 韓国の軍閥と学閥〜」中嶋隆2002年・『朝日コム』2004年1月3日・『人民日報』2000年9月12日・『共同通信』2004年11月11日・『日経スマートウーマン』2005年3月23日


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42「大いなる風景のなかで 〜アジア現代文化≠轤オさの萌芽2」
41「アジア現代文化≠轤オさの萌芽」
40「特効薬としてのアジア」
39
「亜洲(アジア)とともに、アジア人として」
38「上海と台北 〜ふたつのパワースポット」
37「共通アイデンティティーの獲得」
36
「折衷≠ニいう才能〜汎アジア表象文化の萌芽3」
35
;「タイムラグののち花開くもの〜汎アジア表象文化の萌2」
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33「受信から発信へ〜アジア都市表象文化のなかで3」
32「「国境を越えた、現代文化の相互作用〜アジア都市表象文化のなかで2」」
31「越境放送の力〜アジア都市表象文化のなかで1」
30「ネットワーク型の交流 〜アジアのリーダーシップとは」
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28「アジアのグラデーション  〜東アジア共同体1」
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