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新・アジア考

Vol.50
「共存のすべ、協調性のひとびと2
      〜東・東南アジアの共通性3'」

                                   
                                   シンガポールのマレー遺産館(注・写真はリニューアル以前のもの)


*経済発展の努力ゆえに

 さて、以上をエスニックの共存が可能な理由の第一「風土的背景」とするなら、第二「時代的背景」というものもある。

 東〜東南アジア地域は、ごく一部の極端な体制(二カ国)を除けば、おおむね経済発展の波に乗り終えた・または乗りかけている。つまり「経済発展ゆえに、中産階級が育ち、彼らによって内発的な民主化が達成され、ある程度、衣食もたりてくる」−−こうしたプロセスを、20〜30年のスパンこそあれ、ほとんどの国々が共有しているのだ。

 じつはそれこそが、東〜東南アジアの強み、エスニック共存が可能となった土壌である、と言えば極論のように聞こえるだろうか。

 反論もあがるだろう。東アジアにおいてはかつて、強権が発動されたではないかと。たしかに建国当初、国家建設の求心力を保つべく、開発独裁または社会主義一党独裁によって、民衆や民族の上に、国家というアイデンティティーが優先された。この時代にもしも、エスニシティが強烈に主張されつづければ、強権下ゆえに悲劇もまた深刻であっただろう。(実際に一部の地域、たとえばチベットでは多くの犠牲が生まれたことがあった。)ただし全般的に東〜東南アジア現代史のなかで、より一層の弾圧を受けるにいたったのは、少数民族の自治要求よりむしろ民主化要求であった。韓国の光州事件や大陸中国の天安門事件、台湾の白色テロといった歴史的事件は、ご記憶のかたもいらっしゃるだろう。

 そして現在。少なくとも東〜東南アジアにおいては、経済発展による社会成熟ゆえに、各種のマイノリティーの運動、たとえば少数民族の主張といったものは、それほど深刻化していない。むしろ別の至上命題、「豊かさを求めて」を上位に、ワン・オブ・ゼムの位置づけのまま、着々と進行しているとでもいおうか。たとえ少数民族の主張が高まろうとも、さすがに流血ざたにまでは、いたらない。台湾の10あまりの先住民族。大陸中国のモンゴル族、ウイグル族等々。イスラエルのパレスチナ人問題や、イラクのクルド人問題などと比較すれば、明らかだろう。

 もしも欧米の眼鏡を借りるのみであれば、東アジアは、各種の事情がないまぜのまま、まるで地域紛争の火薬庫であるかのように誤解されがちだ。しかし流血ざたの危険性を秘めたのは、朝鮮半島にしろ台湾海峡にしろ、外部から持ちこまれた冷戦体制の「遺構」によってであった。いずれも同じ韓民族同士、または漢民族同士の対立であり、エスニック共存問題が原因ではない。

*文明の衝突・克服例

 少数民族どころか、文明の衝突すら克服している実例が、東〜東南アジアの各地に見出される。つまり七大文明圏のいずれかを共存させるという成功例が、少なくないのだ。

 たとえばシンガポールにおいて。この国は九割が華人系であるにもかかわらず、わずか淡路島ほどの面積の都市において、マレー人街もインド人街も活況を呈している。2005年にはマレー遺産館がリニューアル・オープンをはたしたというニュースもあった。これも建国当初は経済第一主義のもと民族が共生、現在では文化の発展に力点が移り、各種エスニックが尊重されつつあるからだろう。精神的な完全平等の達成までは、道のりを残しているとしても、人々は表向き、淡々と共存をはたしている。

 いっぽう、お隣りのマレーシアでは、かつてマレー系尊重・華人排斥のブミプトラ(現地優先)政策がとりざたされたが、これも現在ではマレー系の経済力の向上とともに後退、少なくとも政府レベルで提唱されるほどでない。

 「中華」「インド」この二大文明圏を共存させるケースとして、タイほどの好例はない。経済界においては、華人系大財閥(「チャロン・ポカパン」など)の存在を無視できない。実業界からはついに華人系の首相(タクシン首相)まで登場した。いっぽう芸能界では。ひとたび雑誌のグラビアを飾るのは、必ずしも典型的なタイ人でない。彫りが深く、手足の長いインド・アーリア系の末裔の存在を無視できない。(これに最近では、欧米系ハーフも入り交じる。)しかしタイにおいて「何々系」という呼称はもはや、ふさわしくないことだろう。あまりに混血・融合が進んだすえ、エスニックがアイデンティファイされることは少ないという。これは日本人識者によれば、タイ人のおっとり気質ゆえにと分析されている。

 さらに海外から見れば、それもまた東〜東南アジアの協調性ゆえにと、帰結されうるかもしれない。

                                         (05/11) 



(つづく)




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