Vol.55
「ゆとりのくに
〜台湾の都市風景」
中央が世界一ののっぽビル「台北101」
*量より質、ハイクオリティー
最近、『台湾事始め 〜ゆとりのくにのキーワード』なる本を発表した。「ゆとりのくに、台湾」−−言い換えれば、「量より質のハイクオリティーな国」とでもなるのだろうか。
ただし、ゆとり? と言われても国は海峡ごしにミサイルにさらされるは、街の建物は雨風にさらされているはと、首をかしげるかたもいらっしゃるかもしれない。しかしいったん、扉を開けてみれば……。実際に、店にしてもオフィスにしても、リッチなインテリア、こぎれいに手入れされた生活の様子に、おや? と感じることが少なくない。
一般のツアー旅行に参加するのみでは、日本人好みの夜市やお寺めぐりとなり、エスニックなりノスタルジーなりが先だちがちだ。それはそれで十分な魅力をたたえてはいるのだが。一方で台湾には、先進国としてのゆとり、豊かさにもとづく現代生活というものもある。
*台北っ子のライフスタイル
おそらく「台北の現代っ子たちの生活は、我々の見る風景と、全く異なるもの」であるかもしれない。アフター5はカフェレストランへ、週末はショッピングセンターへ。IT化も着々と進んでいるようで、ネットワーク化指数では世界7位、(アジアではシンガポールに次ぐ2位)。台北市にいたっては、無線LAN・ブロードバンドの環境工事が一段落したことから、世界最大のブロードバンド都市になるというニュースも聞かれるようになってきた。
実際に先進国としての豊かさを背景に、前世紀の末から一挙に新しい都市の姿が現れつつあるようだ。戦中戦後の建設を国づくり・都市づくりとするなら、こちらのほうは都市整備、高度成長の成果を還元した、ステップアップ事業とでもいえるだろうか。その最たるものがバスに替わる新交通システム、さらに2006年秋の新幹線の開通かもしれない。開通すれば、おそらくはベルト地帯とも言うべき巨大な経済圏が西海岸を中心に出現することだろう。
既に開通している台北市の新交通システム、これができただけでも、沿線はたとえば地下鉄だけでなく、あわせて地下のショッピングモールや地上の遊歩道まで、地上・地下あわせて数階ぶんが一気に刷新されているわけだ。そんなゆとりのくにとしての姿、「もうひとつの台湾」とでも言うべきものがある。
余談だが、こうした場所は筆者もお気に入りで、よく冷房のない寮の部屋から、涼しげな地下道へと避難していたものだ。ブティックや雑貨店があるからという以前に、空間としても清潔なのだ。なにせ車内もふくめて、ゴミ捨て・ガム噛みは禁止、なんでも規則を破れば罰金1500元(日本円で5000円相当)がかかるとかで、私も通学途中の車内、なにげなく歯磨きガムをかみそうになり、あぶないところであった。
清潔さといえば、聞いた話なのだが、台北市では、全席は禁煙の飲食店が1400店を突破したという。意識のうえでも公共の場や職場での全面禁煙に賛成賛成するのは市民の91パーセントにいたるとかで。これはもはや上から禁止されているからどうこうというレベルでなく、その地その場所・人々をたいせつに思うという自発的なものであるように感じられてならない。
そう実感したのは、たとえば地下道を歩いてみれば、壁に「アイ・ラブ・台北」という公共看板がでかでかと張られていたり。または文化のジャンルで、民俗文化の再評価が進んでいたり。そんな日常のひとコマからも想像される。
*このくにには、こころがある
なんというか、「このくにには、こころがある」とでも言えるだろうか。なかには実感したことがあるかたもいらっしゃるかもしれない。人によっては旅先で親切を受けて。または美術館や博物館をめぐりながら鑑賞したアート作品から。または昨年ベネチア映画祭で台湾のアン・リー監督がグランプリを受賞したというニュースを御記憶のかたもいるだろう。また筆者は、台湾ポップスだけでなく、ワールド・ミュージックとしての先住民音楽に注目している。さらにはお寺や宮をめぐりながら、信仰というかたちでふれたかたもいらっしゃることだろう。
いずれにせよ、このくにには、何か特別なプラスアルファがある。いわゆるハードウエアに対するソフトの部分とも言えるだろうか。実際に次なる花形産業としてデジタルコンテンツがあげられているが、こうした狭い意味でなく、もっと広い意味での物質を越えたプラスアルファ、精神性や形而上につながるものが、生き生きと息づいているのだ。これは私自身がアジア10ヵ国20都市近くをめぐり歩いた上での実感でもある。
*こころのある風景
さきの都市整備の話でいえば、緑地や公園の整備も一例だろう。留学していたころ、しばしば目撃したのが、緑地帯の花を植えかえる人々の姿や、早朝、定期的に歩道を掃除する清掃員の姿であった。さらに大規模な話として、現在、なんでもシャンゼリゼ通りをモデルとした並木づくりの計画が、忠孝東路などを中心に、進められているそうだ。
すでに全国に広がっているのが、公共芸術の設置である。大通りの中央分離帯や駅のホームに、オブジェが設置されているのをご覧になったかたもいらっしゃるかもしれない。前世紀末、公共の建物は建造費の1パーセントという巨額の予算を、芸術にあてなければいけないという決まりがあったためだ。そこで駅の建物そのものをデザイン風に、たとえば城を模してみたり、ホームの一角に有名彫刻家の作品、太極拳の像を置いてみたりと、よくよく見るとシュールな光景が街じゅうにひかえているのである。公共芸術に関して、台湾はまちがいなくアジアでナンバーワンだろう。
*追いつけ追い越せからナンバーワンへ
物質的豊かさだけにとどまらない、ゆとりのくにとしての姿。どうもたんに金銭的な余裕があるから、とか、都市化が進んでいるから、というレベルの話にはとどまらないように思われてならない。だからこそ都市化すれば、世界中いずこも同じ……となりがちなところをまぬがれているのかもしれない。このくにには、こころがある。そのあたりが秘訣なのでろう。
台湾はもしかしたら、追いつけ追いこせの時代から、何々についてはアジア1、いや、ときには世界一という存在意義を発揮する時代へと突入しつつあるのかもしれない。世界に誇る存在意義、ひそかなナンバーワンというものが、じつはいくつもひかえているのではないだろうか。
(06/05 )
※本稿は5月16日放送のラジオNIKKEIの特番「21世紀の台湾と日本」のスタジオゲスト・トークの内容に加筆したものです。放送はインターネットでもお楽しみいただけます。(登場は放送開始後70分〜100分頃)http://www.radionikkei.jp/taiwan/
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