Vol.59
「どうせやるなら3.5世代方式
〜アジアIT社会その3」

*日本と縮まる時差、格差
タイ・バンコクの郊外を運転中。タイの友人が携帯電話で仲間を呼びだしピックアップ、ドライブへくりだせ! −−そんな光景は、もはや日常茶飯なのかもしれない。
携帯の普及率うんぬんを越え、目下のニュースは第三世代方式の準備である。最大手の(AIS/アドバンス・インフォ・サービス) は第三世代方式網網の敷設に総額1000億バーツ(日本円3020億円相当)を投資する計画だ(シンガポール・テレコムとの提携)。これもアジア間協力の一例だろうか。積極的な合弁により、開発リスクの回避、後発性の利益の発揮が、なされているようだ。(ちなみに市場二位(TAC トータル・アクセス・コミュニケーション) は親会社のノルウェー国営通信会社テレノールと提携。さらに市場三位(タイ・モバイル) は英国ボーダフォンとの提携である。)いずれも第三世代方式を業界での生き残り生命線として重視している点が興味深い。
いや、正確に言えば、頭ひとつ分リードするために、第三世代(3G)方式が一般化する以前から、前述の最大手(AIS/アドバンス・インフォ・サービス) は3.5G方式の採用を検討しているという噂もある。3Gに比べ、5倍もの通信速度と、高速移動にも対応する(W-CDMA) 方式であり、さらに周波数も国際基準に沿い、互換性の高いものとするという。どうせやるなら一足飛びに3.5Gというわけだ。
いっぽう、現在、ちょうど第三世代方式のサービスが首都圏を中心に開始されているのが、フィリピン(レベル2)である。「これからはテレビ電話が主流になる」と期待される背景には、お国独特の事情がある。留学、就学、出稼ぎなど、先進国への人口流出がたえないことから、送り出し家族は、出稼ぎ先とのコミュニケーションを切望しているためだ。(第三世代方式のサービスを提供するのは、携帯電話最大手(スマート・コミュニケーションズ) 。NTTドコモが開発した(W-CDMA)方式を採用している。)
ここであらためて、全世界の携帯電話基地局について、概観してみよう。(2004年時点で)前述の第三世代かつ高速移動対応(W-CDMA) 方式の基地局は全世界で4007万ヵ所、うちアジア太平洋地域が全体の半数以上(53.5%、2145 万ヵ所)を占める(05年・GSM 協会より)。(地域の総人口もさることながら)想像以上に第三世代方式が普及していることに驚かされる。ちなみにアジアでのサービスの開始は2001年の日本を先駆として、2004年に台湾・香港・シンガポールとなっている。
*老若男女、小学生まで
もはや富裕層のみの所有物でない−−これは中産階級が定着したアセアン(先発)諸国全般の現象だろう。タイでは携帯電話の普及率が51%という数字をあげたが、その前年(05年)、マレーシアでは総人口の68%という加入率を記録している。
とくに近年は文字通信(SMS /ショート・メッセージ・サービス)の利用が急増しており、わずか二年前まで携帯利用者の四分の一が文字通信を利用しない状況であったところが、一日平均六回以上にのぼる利用者が、半数近く(49.6%)をしめるようになった(06年)。月額の電話代は50リンギット(日本円1500円相当)以下であるケースが少なくなく、利用対象者は収入が3000リンギット(日本円94500 円相当)以下まで含まれている(ただし主婦や学生も込み)。必ずしも高所得層のみが利用しているわけでないことは確かだ。(06年・マレーシア・コミュニケーション&マルチメディア会議調査より)
もはや成人市場は飽和状態、今後のターゲットはティーン以下という声もある。こうした実情を反映してか、(05年)論議を呼んだのは、「小中学校への携帯電話、持ち込み、可不可」であったという。禁止と許可との間を揺れ動いたすえ、文部省(教育省)は「禁止」との決定をくだした。文部大臣(教育大臣)いわく、教室での使用の監督が徹底できないためであるという。それでも放課後、下校後のコミュニケーション手段であることに、変わりはない、とは、現地在住識者の説だ。
少なくとも、どれだけ持つか、というレベルの話でなく、普及が進みすぎて一部、制限を。それほどまでに普及が進んでいる、という段階にあることが、うかがわれる。
*ネットやるならPCより携帯?
そもそもアジアでは機種のライフサイクルが短い。欧米諸国では新機種の発売は、年間せいぜい10機程度であるところが、たとえば韓国(レベル1)ではわずか3ヵ月の間に15の新機種が登場したシーズンもあったという。機種余り? かどうかは定かでないが、そういえば韓国の一流ホテル(新羅)では、基本的に宿泊客全員に無料で携帯電話を貸し出すサービスをおこなっていた。
これは余談だが、韓国ではIT産業史上、最大の技術革命が始まりつつあるという声がある。携帯かインターネットかでなく、携帯インターネット(通称ワイブロ)に、さらにデジタル放送を融合させるサービスが、2006年より開始される。当面はソウルの中心部が対象となるのだが、同年内には首都圏の主要都市まで拡大してゆくという。ちなみに通信料金は月額2〜3万ウォン(2000〜3000円相当)。専用端末カードは30万ウォン(3万円相当)だが普及のために1万円相当が補助されるため、端末は実質2万円で入手できると考えればよい。国内利用ばかりでない、ワイブロを輸出商品として、既にKDDIなど欧米日5社と試験サービスの供給契約が結ばれ、追加11社と交渉中であるという。いまや韓国のIT関連製品の輸出は年々3割増しという勢いだ。携帯関連製品が韓国の総輸出に占める割合は、2009 年までに長年の半導体製品を追い抜くと予想されている。
さて、マレーシアにおいても新機種への買い替えは頻繁なようで、毎年1台と言われている。対照的にパソコンは3〜4年に一台、程度だろうか。マレーシアのIT業界の幹部(マレーシア・コンピューター&マルチメディア産業協会議長)の見解では、携帯電話(第三世代方式)サービスの利用率は、パソコンのインターネット利用率より、上昇が早くなるだろうと言われている。パソコンり携帯電話のほうが値段のうえでも買い替えやすく、比例して技術革新に追いつきやすいためだ。たとえば将来的に、同じインターネットをやるにも、パソコンよりは第三世代方式の携帯電話で−−もうひとつ「一足飛びの発展」の可能性を発見!
こうした現象はタイも同様で、携帯電話の普及が(パソコン利用の)インターネットの普及に先行していた。背景にはタイにおいてブロードバンドは固定電話の回線を利用していたという事情もある。しかしその後、インターネットの環境整備は急速に進行中。ブロードバンドの加入者は2003年から2004年に45 倍とケタはずれに急増。タイのブロードバンド時代が本格化した。その後も前年比3倍と拡大をしめした。
ともあれ(連載前回の冒頭で指摘したように)携帯電話というものが、第三世代方式やインターネット利用も含めて、ステイタスシンボルでなく必需品となりつつあることを、あらためて確認しておきたい。
これは余談ながら、華人系マレーシア人が、食事中、運転中とひっきりなしに片手に携帯電話を抱えていたさまが思いおこされる。金融に強い華人らしく、どうやら株式の買いどき売りどきを、仲間内でひっきりなしに情報交換しているようなのだ。私の出国のさいにまで、お別れに「さよなら!」と手を振る姿が、片手に携帯電話をたずさえていたのが印象的であった。
(06/07)
*注・レートは2006年なかば当時のもの
*写真;韓国の国際展示場でのIT展にて。2000年当時では最新鋭の機器がずらり。写真は遠隔ナビシステム端末
*参考文献;詳細は
こちら
バックナンバー
58「ステイタス・シンボルから必需品へ〜アジアIT社会その2」<
57「携帯普及率はひそかに世界一〜アジアIT社会その1」
56「それぞれのアジア〜アジアの精神的範囲」
55「ゆとりのくに〜台湾の都市風景」
54「アジアへのアプローチ3 〜東アジア共同体時代への対応」
53「アジアへのアプローチ2 〜フロンティアの消失?」
52「アジアへのアプローチ1 〜ブーム式の消費」
51「共存のすべ、協調性のひとびと 〜東・東南アジアの共通性3'」
50「共存のすべ、協調性のひとびと 〜東・東南アジアの共通性3'」
49「集住のすべ、集団主義のひとびと 〜東・東南アジアの共通性3」
48「集住のすべ、集団主義のひとびと 〜東・東南アジアの共通性2」
47「水と緑の大地 〜東・東南アジアの共通性1」
46「アイデンティティーとしてのアジア 〜アジアの魅力」
45「ヒトの往来、モノの交流 〜お隣のアジア人」
44「留学生10万人時代 〜お隣のアジア人」
43「等身大へのしたて直し 〜アジア現代文化らしさの萌芽3」
42「大いなる風景のなかで 〜アジア現代文化≠轤オさの萌芽2」
41「アジア現代文化≠轤オさの萌芽」
40「特効薬としてのアジア」
39「亜洲(アジア)とともに、アジア人として」
38「上海と台北 〜ふたつのパワースポット」
37「共通アイデンティティーの獲得」
36「折衷≠ニいう才能〜汎アジア表象文化の萌芽3」
35;「タイムラグののち花開くもの〜汎アジア表象文化の萌2」
34「グローバル画一化とのせめぎあい〜汎アジア表象文化の萌芽1
33「受信から発信へ〜アジア都市表象文化のなかで3」
32「「国境を越えた、現代文化の相互作用〜アジア都市表象文化のなかで2」」
31「越境放送の力〜アジア都市表象文化のなかで1」
30「ネットワーク型の交流 〜アジアのリーダーシップとは」
29「共生・繁栄の試み 〜東アジア共同体1」
28「アジアのグラデーション 〜東アジア共同体1」
27「アジア文化のメジャー化 その1 〜日台交流その2〜」(アジア)
26「南隣とのおつきあい」(台湾)
25「オーガニックなエイジア」(アジア)
24「精神世界≠フ母なる大地」(アジア)
23「解決のキーを秘めた大地」(アジア)
22「今だからできること」(アジア)
21「自律の“背筋”としての機能」(アジア)
20「等身大でいられるのなら」(台湾と大陸中国2)
19「プラスサムの追求」(台湾と大陸中国1)
18「護りのちから」(北朝鮮2)
17「マインド・コントロールとメディア・コントロール」(北朝鮮1)

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