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新・アジア考

Vol.60
「東アジアの奇跡の果実
     〜アジアIT社会その4」

                                   


*ネット人口世界二位

 あれは大陸中国・東北部(遼寧省)大連のネット・カフェでのこと。最新のPCに表示されているのはウィンドウズなのだが、よくよく見ると総漢字表記。画面を前に茫然と座りこんでいたところ、女性店員さんが懇切ていねいに使用方法を教えてくれたことがあった。ちなみにその店は上階がファストフードだ。若者が利用するには格好のロケーションである。

 漢字圏といえども、機能の漢字表記には微妙な差異があるようで、たとえば日本でいう「お気に入り」は、台湾では「我的最愛(私の一番好きなもの)」、いっぽうの大陸中国ではズバリ「収蔵」と表示される。ちなみにアットマークの名訳として、台湾作の「小老鼠」というものがある。@の形をネズミの尾にたとえているらしい。

 いずれの国でもインターネットの利用目的のトップは、やはりメールであるという。

 ところで最近、世界のインターネット人口ランキングが発表されたさい、驚きを隠しきれなかったかたがいらっしゃるだろう。三位の日本(5200万人)を上回るのが、二位の(大陸)中国。国内統計によれば、は1.03億人という数値が出されている(注・冒頭の統計では7200万人とされており諸説がある)。アジア勢として、他に六位の韓国(2460万人)、一O位にインド(1670万人)がベスト10にランクされている。(06年・コムストア・ネットワークス調査より)

 世界二位というのは、たんなる利用人口ばかりでない。ブロードバンド人口もまた世界二位を記録することとなった。ちなみにアドレスの数は7439万個、米・日に次ぐ世界三位であり、ウェブサイトのドメイン名はアジア最多(109 万個)であるという。(05年・CNNIC /中国インターネット情報センター「第17回中国インターネット発展状況統計報告」より)

 こうした普及にひと役買ったのが、たとえば韓国ならばネットカフェ、台湾ならばノートパソコン大国ならではの生産力であったところだが、大陸中国の場合。高等教育の存在を見逃せない。上海の名門大学の女子大生いわく

「今、大学ではやっているもの? そうね、パソコンのインターネットかしら」

大学の寮の部屋で数名が一台、皆でお金を出しあって、パソコンを購入、インターネットを楽しんでいるという。

 いっぽうでインターネット利用について、都市部と農村部の格差が指摘されている。ネット人口のうち8割が都市在住者である。さらに(都市・農村も含めた)東部沿岸地域と内陸部の格差も大きく、ネット人口については沿岸部が57.8%、さらに発信側のサイト数では79.9%を占めるという。同様の格差は、90年代末の台湾でも指摘されたことがあり、首都・台北と東海岸や先住民居住地域とのネット利用率に大きな開きが見られた。(その後、台北市では、先住民家庭がパソコンを購入するさいに1万元(3。6 万円相当)の援助を与えるという措置などがとられるようになった。)こうした格差は、いずれ技術革新や市場の成熟が、克服してくれるのだろうか。すでに携帯市場の競争激化にともなう値下げ競争で普及が一気に早まったという現象について、(連載58回)ベトナム事情のところで指摘している。発展当初は一時的に貧富の格差が拡大するように見えるものの、その後は徐々に底あげがなされる−−これはアジアの現代史が経験済みであり、解決は時間の問題だろう。

 少なくとも携帯電話通信は、地理的な障壁を越えるという理由から、都市と地方の格差を縮めやすいのは、大陸中国でも証明済みである(連載58回)。するとインターネットについても、将来的に、第三世代方式の携帯電話や無線LANの利用が主流となり、回線の敷設を必要としなくなれば、地域格差を解消できるだろうか? あくまで予測にとどめておきたい。

*「東アジアの奇跡」の果実

 東アジアの奇跡。そう呼ばれた東〜東南アジア諸国の高度成長の波及は、現在、大陸中国からインドシナ三国に及ぼうとしている。先発の東アジアNIESにおいては、すでに成長の果実の社会還元が進んでいる状況なのかもしれない。インフラ面で、都市市内交通の整備や高速鉄道の開通が盛んなのは、ご記憶のかたもいらっしゃるだろう。

 安定成長時代を迎えた東アジアNIES諸国は、それぞれ莫大な予算とともに、ITについて国家戦略を次々にうちだし、成功をおさめている。これも、まだ「大きな政府」期であるがゆえのメリットだろうか。日本が重厚長大産業で成功していた規模のプロジェクトを、東アジアNIESはIT産業でおこなっているとみなすこともできる。

 たとえばシンガポールは半官半民で新10カ年計画「iN2015(インテリジェント・ネーション2015)」を計画しており、ブロードバンドのさらなる高速化、500 倍速をめざす。また台湾の場合「M(モバイル)台湾計画」(04年発表)を進行中、既に台北市は2004年、無線LAN世界一を誇るようになった(詳細は後述)。いっぽう韓国の場合、「サイバーコリア21計画」(99年発表)など続々とIT推進策がうちだされ、実際にブロードバンド普及率は世界一を達成した(詳細は後述)。ほかにもマレーシアの「MYICMS886 プラン」(2010年までに第三世代方式の総人口の約2割の利用者数達成や、無線のモービル・テレビ視聴、一般家庭へのデジタル放送普及をめざす。)や、大陸中国の「第10次五カ年計画」(2001〜2005年実施)など。アジアには、きら星のごとく、ITの大規模な国策が実現のときを待っているのだ。

 日本も2000年にEジャパン構想を開始、5年以内に世界最先端のIT国家化をめざしてはいたのだが、近隣諸国がまぶしく見えるのはなぜだろう。IT産業界からは、いまだ製造業優先への政策に、いらだちの声も聞かれる。

 このあたり、いくつかの理由が考えられる。たとえば光ファイバー通信。すでに日本は80年代に「キャプテンシステム」の名で試験的に導入を試みてはいた。しかし莫大な敷設費、高額の通信費により、一般化までおよばず、各経済社会単位から家庭までを結ぶスーパーハイウェイ的な事業は、インターネットが代替することとなった。

 もうひとつの事情としては成熟社会ゆえの「小さな政府」のもと、国際競争力の強化よりは、国内的な民営化・自由化が優先されたという事情もあげられる。たとえばNTT の民営化・分割化。同様の民営化は台湾の場合、約10年前(96年)に中華電信がおこなったものの、企業規模はそのままで民間の参入を迎えうつこととなった。韓国でも同じく民営化によってKTにうまれかわったうえで、SKテレコムなど民間企業と肩を並べている。

 さらに言えば、これは国民気質にまで及ぶ、あくまで背景であるのだが。従来より日本人は職人を大切にする国柄であり、江戸時代も士農工商として、モノづくりの集団が、身分を保証されてきた。こうした気質から、製造業には秀でており、また老舗的なブランドも尊重されてきた。この点は、第二次産業全盛期には、一大メリットとして、それこそ韓国など、近隣諸国からも優位点としてしばしば指摘されている。いっぽうで第三次産業、さらにIT社会の時代。電子上の無形の財の価値生産については、機関投資的な金融同様、どこかうさんくささをぬぐいきれない−−そんな国民性がかいま見えなくもない。また日本の場合、IT社会の到来後も、パソコン等のハードづくりの段階までは、ブランドも併せて世界的なシェアをほこりえたのだが、同時に安価な労働力を求め、産業の空洞化現象も進んだという問題もあった。

 これに対して、たとえば台湾は、相手方ブランド(OEM)生産方式により、名より実をとり、かつ開発過程は他者を利用する形で世界的なシェアを伸ばしている。いっぽうで、これは金融に強いという華人気質によるものなのか、無形の財にも日本以上の価値を置く伝統もある(たとえば個人投資家の株式市場に占める比率は、日本の比でない)。こうした事情の影響があるのかどうか、日本がアニメ・ゲーム等をソフトパワーとして再評価するよりも数年早く、「デジタルコンテンツ」を花形産業に育成する国策が始められている。

 第二次産業から第三次産業へ。製造業からIT産業へ。転換を商機として飛躍する、東アジアNIESたち。そんな彼らの目下の焦点は、無線LAN とブロードバンドだ。

              (つづく)

              (06/07)

*写真;ネットカフェの建つ、駅前の大通り。夜も眠らない街。(大連市)

*参考文献;詳細は


こちら




バックナンバー

59「どうせやるなら3.5世代方式〜アジアIT社会その3」
58「ステイタス・シンボルから必需品へ〜アジアIT社会その2」
57「携帯普及率はひそかに世界一〜アジアIT社会その1」
56「それぞれのアジア〜アジアの精神的範囲」

55「ゆとりのくに〜台湾の都市風景」
54「アジアへのアプローチ3 〜東アジア共同体時代への対応」
53「アジアへのアプローチ2 〜フロンティアの消失?」
52「アジアへのアプローチ1 〜ブーム式の消費」
51「共存のすべ、協調性のひとびと 〜東・東南アジアの共通性3'」
50「共存のすべ、協調性のひとびと 〜東・東南アジアの共通性3'」
49「集住のすべ、集団主義のひとびと 〜東・東南アジアの共通性3」
48「集住のすべ、集団主義のひとびと 〜東・東南アジアの共通性2」
47「水と緑の大地 〜東・東南アジアの共通性1」
46「アイデンティティーとしてのアジア 〜アジアの魅力」
45「ヒトの往来、モノの交流 〜お隣のアジア人」
44「留学生10万人時代 〜お隣のアジア人」
43「等身大へのしたて直し 〜アジア現代文化らしさの萌芽3」
42「大いなる風景のなかで 〜アジア現代文化≠轤オさの萌芽2」
41「アジア現代文化≠轤オさの萌芽」
40「特効薬としてのアジア」
39
「亜洲(アジア)とともに、アジア人として」
38「上海と台北 〜ふたつのパワースポット」
37「共通アイデンティティーの獲得」
36
「折衷≠ニいう才能〜汎アジア表象文化の萌芽3」
35
;「タイムラグののち花開くもの〜汎アジア表象文化の萌2」
34「グローバル画一化とのせめぎあい〜汎アジア表象文化の萌芽1
33「受信から発信へ〜アジア都市表象文化のなかで3」
32「「国境を越えた、現代文化の相互作用〜アジア都市表象文化のなかで2」」
31「越境放送の力〜アジア都市表象文化のなかで1」
30「ネットワーク型の交流 〜アジアのリーダーシップとは」
29「共生・繁栄の試み 〜東アジア共同体1」
28「アジアのグラデーション  〜東アジア共同体1」
27「アジア文化のメジャー化 その1 〜日台交流その2〜」(アジア)
26「南隣とのおつきあい」(台湾)
25「オーガニックなエイジア」(アジア)
24「精神世界≠フ母なる大地」(アジア)
23「解決のキーを秘めた大地」(アジア)
22「今だからできること」(アジア)
21「自律の“背筋”としての機能」(アジア)
20「等身大でいられるのなら」(台湾と大陸中国2)
19「プラスサムの追求」(台湾と大陸中国1)
18「護りのちから」(北朝鮮2)
17「マインド・コントロールとメディア・コントロール」(北朝鮮1)

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