月刊モダネシア-TOPに戻る
新・アジア考 ネット自由詩 日韓交流 新刊紹介 既刊紹介 連載紹介 Profile
新・アジア考

Vol.61
「無線LAN世界一の都市
      〜アジアIT社会その5」

                                   


*e時代の現実

 ここ5年あまり、メディアにeの文字がおどるのが、台湾である。たとえばe世代やe市民、さらにe学校やe地区長など。eメールにちなんだこの呼称は、IT社会の代名詞とも言える。

 台湾において、半導体が世界シェアのトップクラスに入り、二兆元(約7兆円)規模の二大花形産業の片方を担ったのち、今度は第三の一兆元(約3.5兆円)規模の産業として、スポットライトを浴びはじめたのが、無線IT産業である。そもそもIT産業全体の規模は、2003年から2004年の間に、前年比149。6 %もの成長、つまり1.5倍に拡大しており、なかでも無線LAN関連が約14%をしめるにいたったという。こうした傾向がそのまま国策につながり、2004年にうちだされたのが「M(モバイル)台湾計画」、2008年までに同規模までの成長をめざすという。

 それにしてもなぜ台湾でITが成功をおさめているのか。(連載前回60 回の末尾でも指摘したのだが)さらに明確に、現台北市長が指摘するには−−

「さほど天然資源が多いわけでない、その反面、(台風や地震など)天災は少なくない。(中略)そんな我々には何がある? なぜノートパソコン生産で世界シェア6割をしめた(中略)かは、ひとえに我々の能力、“頭脳力”なのです。」(「亜洲週刊」2004年9月2日号インタビューより)

 たしかに台湾は、ハード生産という土壌に加えて、使いこなす側のユーザーについてもまた、条件が整っている。台北市を同程度の発展段階にある香港やシンガポールと比較してみれば、パソコン普及率は、台北(88%)を筆頭にシンガポール(73%)・香港(67.5%)と続く。そういえば台北では、中流のシティホテルですら、ロビーに設置されたパソコンは、宿泊客であれば無料で使いたい放題であった。  インターネット人口でもやはり台北(84%)・香港(63%)・シンガポール(42%)。これが台湾全土についての世界ランクとなっても、世界3位を記録したことがある(2004年)。(ちなみに同年、1位は韓国、2位はカナダとなっていた。)

 そんなe時代。やはりITの青少年への影響は大きく、小学5・6年生と高校1・2年生対象のアンケート調査によれば、一日に三時間以上インターネットを利用するのは、平日の場合全体の25%、休日にいたっては47%におよぶという(05年発表・金車教育財団より)。筆者自身を思いおこせば、一日の接続が1時間を越えると、疲れを感じはじめるものだが、平均3時間とは。e世代は体質からして異なるのかもしれない!?

 こうしたe時代への評価は、もはや国内レベルにとどまらない。韓国での調査では、国家の情報化レベルとして、台湾を7位にランクインさせている(ちなみに日本は13位)(05年・韓国電算院「2005国家情報化白書」より)。翌年の別の調査でもまた、ネットワーク化指数は(06年「2005-2006年世界IT報告書」世界経済フォーラムより) 総合で7位。これはIT教育へのGNP 比支出額や企業の従業員一人あたりの電話回線数など64項目の統計数値が基本となっている。細部について、台湾の強みとしてあげられるのが「IT市場環境」(世界第3位)、「個人のIT対応度」(第4位)、「政府のIT活用」(第4位)となっている。とくに海外に流出した頭脳のとりこみといった人材資源の活用や、政府の政策努力。その現実化である科学園区(サイエンス・パーク)やIT研究のシンクタンク設立などが、評価の理由となったようだ。もはやIT国家としての台湾は内外の評価ともに不動の地位を築きはじめている。

*いつでもどこでも接続の「ユビキタス」時代、到来

 e時代の象徴のひとつが、携帯電話の普及率世界一(連載57回参照)だが、もうひとつにあたるのが台北市の無線LAN普及率世界一である(2004年に達成)。

 その前提として、市内交通の整備を見逃すことはできない。路線バス網に加え、90年代末に新交通システムが開通、市内全域を網羅するようになった。こうしたインフラを基盤に21世紀、無線LAN スポットが、たとえば駅構内には842 ヵ所に。また信号機1792本に。さらに停留所や交通標識など13万ヵ所に設置されるようになった。2005年には敷設工事第二期が完了、沿線の繁華街で利用が可能となり、工事第三期には台北市全体が網羅されてゆくという。2006年の段階で、市内全人口の9割が網羅されているというのだから、台北市は別名「無線都市」しかも「シームレス(切れ目なし)通信都市」と呼んでも過言ではない。いつでもどこでもどんな機器でも−−そんなユビキタス時代の到来である。同様の計画は第二第三の都市でも準備中で、台中では「デジタル台中無線ネット都市計画」、高雄では「M(モバイル)台湾高雄計画」が着々と進行しているようだ。

 それにしても、世界にIT都市は数あるなかで、なぜ台北市が先駆けて成功をおさめたのか。市長いわく、

「台北市は地理的に南北に長く、中心部の細い地域(東西10キロ・南北13キロの範囲)に人口が密集している。そんな人口過密という劣勢を転じて優位性として活用した」(前出誌インタビューより)

という。一平方キロあたりの人口密度が9700人という、空きすぎもせず、広すぎもせず−−そんな災い転じて福となったばかりでない。  ユーザーという人材の面でも教育が充実している。高等教育の人口が日本を上回る39%である点は見逃せない。さらなる高学歴志向が強く、修士過程を取得する割合が、ここ15年で5倍にも達しているという(2006年)。単純な人口数値ばかりでなく、たとえば「アジア太平洋数学オリンピック」では、台湾の高校生が金メダルを獲得したのを筆頭に、銀メダル2枚、銅メダル4枚と、参加19ヵ国のなかでトップの成績をおさめたこともある(2005年)。

 とくにITに限れば、台北市で特別授業をおこなう学校は、公立の81%にのぼる。こうした制度が始まる以前の世代についても、一般市民を対象にしたインターネット講習が設けられ、すでに30万人以上が受講した。

 前述のネットワーク化で世界7位の評価を得た背景、さらに台湾がITで成功をおさめた理由のいずれにもあげられた頭脳力、その源泉である「人材力」を、あらためて確認しておきたい。

*政府と民間の相互コミュニケーション

 台北市の繁華街や駅構内のかしこに、「無線上網区」の表示が提示されはじめた近年。

 いつでもどこでもネット接続。そんなユビキタス時代の到来は、とくに通勤族への朗報であるだろう。電車の待ち時間や乗りかえ時間にメール送受信やネット検索可能。しかも携帯電話対応ウェブサイトだけでない、容量の大きいパソコン向けサイトまで網羅する。アタッシュケースやナップサックひとつに、社会が入る。しかも一方的な閲覧でない、アクセスする側とされる側とが、双方向性を持ちつつあるのがポイントだ。

 筆頭となるのが台北市政府の例である。文書のデジタル化比率は、84%。インターネットを通じて、政府や学校、医院、各地区や商業などが一括で網羅されているという。市政府のサイトでは「市長への無線ご意見箱」で民意が把握され、「簡単ネット国民投票」も可能だとか。将来的には身分証の登録や救急医療体制にも活用される予定だ。筆者がかつて東京の高級住宅地区・世田谷の区役所ですら、住民票の発行はネット経由の申請はおこなえない、現場でようやく登録カード方式の自動発行機が導入されたくらいか、さらに別の区へ移転したのちは、自動発行機すら使えない−−そうぼやいていた身からすれば、いち早い電子政府化はうらやましいかぎりである。

 ともあれ、市民が公的機関にかんたんにアクセスでき、逆に政府が民間を瞬時に把握する−−そんな相互コミュニケーションの達成もまた、IT社会の成果だろう。

 世界最高ののっぽビル(「台北101 」)完成にとどまらない。携帯電話に無線LAN など、現在の台湾は次々に世界一をうちだしつつあるというのはたしかだ。

 これは余談だが、東アジアNIES諸国の間で、早くも世界一をめぐり、競争が激化しつつある。前述の高層ビルについて、韓国が第二ロッテワールド内に最高層ビル建築を計画していたばかりでない。無線LAN についてもまた、元国営通信会社KTが無線かつブロードバンドのインターネットサービス「NESPOT」のサービスを始めている。ただし無線LAN スポット数は、切れ目なし無線都市・台北市の13万ヵ所には及ばない1万3000ヵ所であるものの、ファストフードやコンビニを中心に拡大中、2005年時点で加入者50万人をほこる。

 東アジアNIES間の活発なトップ競争は続く。 

              (つづく)

              (06/07)

*写真;中流ホテルのロビーにすら、パソコン完備、無料で使いたい放題。(台北にて) *参考文献;詳細は


こちら




バックナンバー

60「東アジアの奇跡の果実〜アジアIT社会その4」
59
「どうせやるなら3.5世代方式〜アジアIT社会その3」
58
「ステイタス・シンボルから必需品へ〜アジアIT社会その2」
57
「携帯普及率はひそかに世界一〜アジアIT社会その1」

56
「それぞれのアジア〜アジアの精神的範囲」

55「ゆとりのくに〜台湾の都市風景」
54「アジアへのアプローチ3 〜東アジア共同体時代への対応」
53「アジアへのアプローチ2 〜フロンティアの消失?」
52「アジアへのアプローチ1 〜ブーム式の消費」
51「共存のすべ、協調性のひとびと 〜東・東南アジアの共通性3'」
50「共存のすべ、協調性のひとびと 〜東・東南アジアの共通性3'」
49「集住のすべ、集団主義のひとびと 〜東・東南アジアの共通性3」
48「集住のすべ、集団主義のひとびと 〜東・東南アジアの共通性2」
47「水と緑の大地 〜東・東南アジアの共通性1」
46「アイデンティティーとしてのアジア 〜アジアの魅力」
45「ヒトの往来、モノの交流 〜お隣のアジア人」
44「留学生10万人時代 〜お隣のアジア人」
43「等身大へのしたて直し 〜アジア現代文化らしさの萌芽3」
42「大いなる風景のなかで 〜アジア現代文化≠轤オさの萌芽2」
41「アジア現代文化≠轤オさの萌芽」
40「特効薬としてのアジア」
39
「亜洲(アジア)とともに、アジア人として」
38「上海と台北 〜ふたつのパワースポット」
37「共通アイデンティティーの獲得」
36
「折衷≠ニいう才能〜汎アジア表象文化の萌芽3」
35
;「タイムラグののち花開くもの〜汎アジア表象文化の萌2」
34「グローバル画一化とのせめぎあい〜汎アジア表象文化の萌芽1
33「受信から発信へ〜アジア都市表象文化のなかで3」
32「「国境を越えた、現代文化の相互作用〜アジア都市表象文化のなかで2」」
31「越境放送の力〜アジア都市表象文化のなかで1」
30「ネットワーク型の交流 〜アジアのリーダーシップとは」
29「共生・繁栄の試み 〜東アジア共同体1」
28「アジアのグラデーション  〜東アジア共同体1」
27「アジア文化のメジャー化 その1 〜日台交流その2〜」(アジア)
26「南隣とのおつきあい」(台湾)
25「オーガニックなエイジア」(アジア)
24「精神世界≠フ母なる大地」(アジア)
23「解決のキーを秘めた大地」(アジア)
22「今だからできること」(アジア)
21「自律の“背筋”としての機能」(アジア)
20「等身大でいられるのなら」(台湾と大陸中国2)
19「プラスサムの追求」(台湾と大陸中国1)
18「護りのちから」(北朝鮮2)
17「マインド・コントロールとメディア・コントロール」(北朝鮮1)

PageTop

  Mail Copyright(C) 2001-2002 Mizuho Asna