Vol.64
「ブログによる意識変革
〜アジアIT社会その7」

*ひきこもりでなく寄りあうために
合い言葉は
「ブログ、やってる? 」
これは日本だけの話でない。大陸中国において、ブログは2004年の10大流行語の一つに数えられ、翌2005年には利用者が1000万人を突破、あらためて「ブログ元年」と言われるようになった。しかも海外のシステムの翻訳版に登録するだけでない、大陸中国では「ブログ網」「中国ブログ網」など国産のシステムも登場しているという。
人気を集めているのは、(連載63号に紹介した)デートブログばかりでない。有名人ブログも盛んであり、2006年現在で250 を数えるという。仕事日記風であるのは、台湾のアイドル女優・伊能静のものや大陸中国のベテラン女優・コン・リーのブログ。いっぽう大陸中国作家の余華や歌手の戴軍は散文風であるようだ。提言風であるのは、学者や大手メディアの主幹によるもの。俳優・徐静のブログが、設立史上最高の400 万アクセスを記録したというニュースもある。
台湾において、ブログは流行の一つであり、やはり作家や有名人のものが人気を集めている。大手新聞の主幹によるものは、大衆とのコミュニケーションを実現しているようで、無線LAN 世界一の項で指摘した「双方向性」をあらためて確認できる。また「作家ブログ」なるものは、台湾内外の漢民族地域3ヵ所からそれぞれ作家が創作を発表、読者との対話の窓口も設けているという。政治的に緊張関係にある地域をまたにかけているだけに、その活動ぶりは興味深い。
ただしブログ利用者のおおかたは、政治が目的でなく、交友に活用しているという。必ずしも自己表現が目的でないところが、アジア的ともいえるだろうか。欧米化された日本では、ウェブサイトでなくブログによる個人の参加を、発信ほど強くない、発光レベルと称しているようだが、(連載63号に紹介した)デートブログなど、パスワード交換によって二人しか利用できない点からも、自己表現でなく、「よりあい」のためにブログが活用されている点、アジアらしさとして興味深い。
たとえIT社会が発達しようとも「その先に、ひとがいる」−−これは(前号で)韓国の例をひいて指摘したのだが、あらためて。IT社会がオタク化・人間関係の分断化をもたらすのでない、東アジアという集団主義の地においては、地理的制約を越えた「よりあい」の場として、機能しているといえるだろう。
*実名による発信という勇気
最近、ブルネイをおとずれた日本人から、こんなぼやきを聞いたことがある
。
「ネットカフェにたむろする人が増えているせいか、ここ10年で、なんだかすっかり米国ナイズされちゃってね」
ブルネイといえば、ボルネオ島の端にある小国ながら、オイルマネーゆえに税金も医療費も学費もタダという、小さく満たされた国である。あまり大規模なショッピングセンターは見られない。敬虔なムスリムが多いことから、飲酒も不純異性交遊も厳禁である。そんなブルネイの若者が、はけぐちを求めるのは、インターネットの仮想現実世界とならざるをえないのだろう。
お国事情とグローバル化とのせめぎあい。
こうした問題は、圧縮された発展課程をたどる国ほど、深刻であることだろう。大陸中国において、ブログが一般化する以前(2003年)に性愛をテーマとしたブログが騒動をかもしだすという事件があったという。しかも先発国がネットによる青少年への弊害に苦しむさまを目のあたりとしているだけに、逆に後発性の利益を生かし、ネット被害への対策を強化するのも、うなずける。
たとえば有名大学のBBS(掲示板)における匿名の排除など。さらにブログ参加を野放しとしないため、登録には身分証を必要とし、実名制を徹底。違反した場合には日本円にして罰金14万円以上であるという。ウェブサイトとブログの運営もまた、登録制に。運営者は当局に身元情報を提出する必要がある。未登録のものは、アクセスできないよう遮断するシステムもあるそうだ。目下、75%が登録を済ませているようだ。
もちろん風俗サイトの閉鎖もおこなわれている。ちなみにIT先進国・韓国においても、携帯電話ながら、アダルトコンテンツのサービスを2006年より前面禁止している。減益として約700 億ウォン(約70億円相当)にもかかわらず。
こうした制度を「制約」と見るのか、それとも「責任制」とみるかは、人それぞれだろう。
日本に報道されるニュースでは、むしろ前者を非難するニュアンスが強いようだ。一部の政治用語が入力不可となるよう、かのMSN が協力したというニュースは記憶に新しい。また政治的なタブーにふれたため、各ブログの統括サイトが閉鎖の危機にひんしたことは、一度や二度でないという。検閲制度と精神の自由のせめぎあいは、ひとすじなわではいかない。当局いわく「民主化のプロセスが、一気になしくずし的にでなく、段階を踏むよう、考慮している」ということだが。
じつはネット上の実名制は、大陸中国だけでない。韓国でも、ウェブサイトで商売をおこなうさいには、実名制を求められているという。これは余談だが、大手新聞サイトでもまた、各記事の末尾に必ず記者の名前やメールアドレスが併記されている。
やはり責任制であるといえよう。
(つづく)
(06/07 )
*参考文献;詳細は
こちら
バックナンバー
63「ネット世代のムーブメント〜アジアIT社会その7」
62「ブロードバンド世界一をめざして〜アジアIT社会その6」
61「無線LAN世界一の都市〜アジアIT社会その5」
60「東アジアの奇跡の果実〜アジアIT社会その4」
59「どうせやるなら3.5世代方式〜アジアIT社会その3」
58「ステイタス・シンボルから必需品へ〜アジアIT社会その2」
57「携帯普及率はひそかに世界一〜アジアIT社会その1」
56「それぞれのアジア〜アジアの精神的範囲」
55「ゆとりのくに〜台湾の都市風景」
54「アジアへのアプローチ3 〜東アジア共同体時代への対応」
53「アジアへのアプローチ2 〜フロンティアの消失?」
52「アジアへのアプローチ1 〜ブーム式の消費」
51「共存のすべ、協調性のひとびと 〜東・東南アジアの共通性3'」
50「共存のすべ、協調性のひとびと 〜東・東南アジアの共通性3'」
49「集住のすべ、集団主義のひとびと 〜東・東南アジアの共通性3」
48「集住のすべ、集団主義のひとびと 〜東・東南アジアの共通性2」
47「水と緑の大地 〜東・東南アジアの共通性1」
46「アイデンティティーとしてのアジア 〜アジアの魅力」
45「ヒトの往来、モノの交流 〜お隣のアジア人」
44「留学生10万人時代 〜お隣のアジア人」
43「等身大へのしたて直し 〜アジア現代文化らしさの萌芽3」
42「大いなる風景のなかで 〜アジア現代文化≠轤オさの萌芽2」
41「アジア現代文化≠轤オさの萌芽」
40「特効薬としてのアジア」
39「亜洲(アジア)とともに、アジア人として」
38「上海と台北 〜ふたつのパワースポット」
37「共通アイデンティティーの獲得」
36「折衷≠ニいう才能〜汎アジア表象文化の萌芽3」
35;「タイムラグののち花開くもの〜汎アジア表象文化の萌2」
34「グローバル画一化とのせめぎあい〜汎アジア表象文化の萌芽1
33「受信から発信へ〜アジア都市表象文化のなかで3」
32「「国境を越えた、現代文化の相互作用〜アジア都市表象文化のなかで2」」
31「越境放送の力〜アジア都市表象文化のなかで1」
30「ネットワーク型の交流 〜アジアのリーダーシップとは」
29「共生・繁栄の試み 〜東アジア共同体1」
28「アジアのグラデーション 〜東アジア共同体1」
27「アジア文化のメジャー化 その1 〜日台交流その2〜」(アジア)
26「南隣とのおつきあい」(台湾)
25「オーガニックなエイジア」(アジア)
24「精神世界≠フ母なる大地」(アジア)
23「解決のキーを秘めた大地」(アジア)
22「今だからできること」(アジア)
21「自律の“背筋”としての機能」(アジア)
20「等身大でいられるのなら」(台湾と大陸中国2)
19「プラスサムの追求」(台湾と大陸中国1)
18「護りのちから」(北朝鮮2)
17「マインド・コントロールとメディア・コントロール」(北朝鮮1)

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