Vol.71
「移民たちの自由往来 〜アジア大往来時代その6」

*受入れと送り出しと
「新移民」−−そんな新しい言葉が生まれたのは、お隣りの国、台湾である。それまで外国籍配偶者と呼ばれていたものを、マイナスの印象を伴うという理由から、新移民へと変更することになったという。たしかに「外国籍〜」では排除のニュアンスがあり、「移民」には受入れという意味あいを持つ。
台湾でも外国人花嫁が必要とされているのは日本と同様だ。彼女たちの出身国として二本指に入るのが、ベトナムと大陸中国だ。ただし不法滞在の隠れみのとならないよう、中国人花嫁の資格審査がおこなわれている。たとえば最近1年間の収入が最低賃金の2倍であるか、または最低賃金の24倍にあたる貯金証明を持つか、である。
そもそも台湾自体、古代先住民に加えて、17世紀から戦後に至るまで、長い時間をかけて移民を受けいれながら、形成されてきた国際的な国だ。
いっぽうで移民を送りだすという側面もある。とくにここ10年でめだつのは、ホワイトカラーの移住だ。その数、100 万人を越えるという。向かう先はオーストラリアやカナダ、前者へはその間、2万人、後者へは5万6000人が移住したという。
同じアジアNIES四小龍のシンガポールでも、海外移住への憧れは強い。アジア5ヵ国で実施された若者の意識調査によれば、海外移住を考えたことがあると回答したのは、中国やインドが4割弱であったところが、シンガポールでは53パーセントと過半数がそのように答えたという。また若者5人中4人の割合で海外勤務を考えたことがあるようだ。ちなみに日本は海外移住を考えたことがある者は35パーセントにとどまっている。(じつは筆者も考えたことがあった。余談。)
移住先で人気があるのは、シンガポールの若者にとってはオーストラリアが22パーセントとトップとなり、インドにとっては米国(40パーセント)、マレーシアにとっては旧宗主国・英国(29パーセント)、中国と日本にとってはヨーロッパ(各30パーセント・32パーセント)となっている。
*日々、国境を越えて
そんなシンガポールも、お隣りのマレーシアから見れば憧れの地だ。国境近くのジョホールバルでは、賃金の高いシンガポールで働き、物価の安いマレーシアで暮らすという越境通勤・通学が多い。その数、勤務者は4万人、学童は5000人、自動車としては10万台に及ぶという。
シンガポールにとってもこの地は重要な後背地で不可欠の存在だ。なにせ淡水さえ輸入しなければならないこの国にとっては、ジョホールバルは水のほか、農産物を補給する地なのだ。逆にジョホールバルへの投資も多く、その額、米ドルに換算して4億4200万ドルにのぼるという。
そんなもちつもたれつの関係にあるシンガポールとマレーシア。近年、ついにパスポート押印が省略されるようになった。定期券さながらにちらりとパスポートを示すだけでいい。これに併せて、シンガポール政府の発行する労働許可証またはフリークエント・トラベラー・カードを提示する。労働許可証を持たないタクシーの運転手や学生などは、指紋を登録した同カードを取得し、指紋認証を受ければいい。相当な簡便化だ。まるでまるでEU圏内のようである。
これは余談だが、筆者がオーストリアからイタリアの空港に入り、入国ゲートを捜してパスポート片手にうろうろしていたところ、空港の職員が教えてくれた。「スタンプ? そんなもん、いらんよ」と肩をすくめた。そうだ、EU圏内は出入り自由なのだ。なんだかものたりない気分であった。
現在、日本は韓国と台湾に対して、ビザ免除の措置をとっているのだが、やがてはパスポートへの押印不要と変化してゆくのだろうか。最終的にパスポート不要となるまで。
*写真;憧れの国、シンガポールのはずが…
*参考文献;詳細はこちら
バックナンバー
70「最高学府2大学の選択 〜アジア大往来時代その5」
69「アジア学生は世界へ向かう 〜アジア大往来時代その4」
68「インフラの整備 〜アジア大往来時代その3」
67「お得意様の新顔・中国 〜アジア大往来時代その2」
66「近くて遠い・遠くて近い 〜アジア大往来時代その1」
65「ブログによる世界変革〜アジアIT社会その9」
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57「携帯普及率はひそかに世界一〜アジアIT社会その1」
56「それぞれのアジア〜アジアの精神的範囲」
55「ゆとりのくに〜台湾の都市風景」
54「アジアへのアプローチ3 〜東アジア共同体時代への対応」
53「アジアへのアプローチ2 〜フロンティアの消失?」
52「アジアへのアプローチ1 〜ブーム式の消費」
51「共存のすべ、協調性のひとびと 〜東・東南アジアの共通性3'」
50「共存のすべ、協調性のひとびと 〜東・東南アジアの共通性3'」
49「集住のすべ、集団主義のひとびと 〜東・東南アジアの共通性3」
48「集住のすべ、集団主義のひとびと 〜東・東南アジアの共通性2」
47「水と緑の大地 〜東・東南アジアの共通性1」
46「アイデンティティーとしてのアジア 〜アジアの魅力」
45「ヒトの往来、モノの交流 〜お隣のアジア人」
44「留学生10万人時代 〜お隣のアジア人」
43「等身大へのしたて直し 〜アジア現代文化らしさの萌芽3」
42「大いなる風景のなかで 〜アジア現代文化≠轤オさの萌芽2」
41「アジア現代文化≠轤オさの萌芽」
40「特効薬としてのアジア」
39「亜洲(アジア)とともに、アジア人として」
38「上海と台北 〜ふたつのパワースポット」
37「共通アイデンティティーの獲得」
36「折衷≠ニいう才能〜汎アジア表象文化の萌芽3」
35;「タイムラグののち花開くもの〜汎アジア表象文化の萌2」
34「グローバル画一化とのせめぎあい〜汎アジア表象文化の萌芽1
33「受信から発信へ〜アジア都市表象文化のなかで3」
32「「国境を越えた、現代文化の相互作用〜アジア都市表象文化のなかで2」」
31「越境放送の力〜アジア都市表象文化のなかで1」
30「ネットワーク型の交流 〜アジアのリーダーシップとは」
29「共生・繁栄の試み 〜東アジア共同体1」
28「アジアのグラデーション 〜東アジア共同体1」
27「アジア文化のメジャー化 その1 〜日台交流その2〜」(アジア)
26「南隣とのおつきあい」(台湾)
25「オーガニックなエイジア」(アジア)
24「精神世界≠フ母なる大地」(アジア)
23「解決のキーを秘めた大地」(アジア)
22「今だからできること」(アジア)
21「自律の“背筋”としての機能」(アジア)
20「等身大でいられるのなら」(台湾と大陸中国2)
19「プラスサムの追求」(台湾と大陸中国1)
18「護りのちから」(北朝鮮2)
17「マインド・コントロールとメディア・コントロール」(北朝鮮1)

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