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新・アジア考

Vol.73
「『韓流』ブームの発生
 〜アジア芸能交流1」

                                   


*あなたの身近に発生したブーム

 日本を席捲した韓国ブーム「韓流」−−この現象は、アジア海外の大手メディアから「日韓、空前の熱愛ぶり」と称されるほど国際的にも話題になった。韓国のメディアによれば、日韓はここ百年のうちで最も関係が良好になったとすら言われる。文化での交流が国際関係にも影響を及ぼすようになった典型的なケースだろう。いわゆるソフト・パワーの好例とも言える。ソフト・パワー、すなわち「強制や報酬ではなく、魅力によって望む結果を得る能力であり、国の文化(中略)によって生まれるもの」であり、軍事力であるハード・パワーの対照とされるものがある。韓国はこのソフト・パワーを活用することに成功したのだ。

 たんなる一過性の消費ブームにとどまらない、国際関係まで影響を及ぼしたほどの韓流。あれはいったい、何ものだったのか。本稿を執筆した年(2007年)にも、まだ「韓流シネマ・フェスティバル」なる映画祭が開催されるほど、韓流のほとぼりの冷めぬ今、あらためてこの社会現象に焦点を当ててみたいと思う。  ところで本稿では今まで、アジア間の国際越境現象を追求してきた。しかしこの韓流は海向こうの話ではない。我々の身辺に及ぶ範囲で発生した事象である。筆者のように家族が・また知人友人が、韓国作品のとりこになったというかたもいらっしゃるだろう。いや、いっそのこと、本文をご覧のあなたご自身が、韓流に参加していたということもあるかもしれない。

 ともあれアジアの現在進行形を概観するうえで、芸能という視点はひとつ、欠かせないものであることを確認しておこう。

*『冬のソナタ』ヒットの理由

 そんな韓流の火付け役とも言えるのが、韓国のテレビドラマ『冬のソナタ』−−この名前をお聞きになったことのないかたのほうが、今や少ないのではないだろうか。2003年よりNHK総合で全国放送されたラブストーリーで、平均視聴率約23%を誇るヒット作だ。放送終了後も熱狂は続き、『冬のソナタ』関連のDVDや小説化された書籍などを含めると、35億円もの利益をあげたと言われている。物語は交通事故で記憶喪失になった初恋の男性とヒロインとの純愛模様を描いたものだ。この影響で、日本の書籍やテレビ番組の世界では、「純情」がテーマとなった作品がもてはやされるようになったという説もある。

 そんな『冬のソナタ』だが、ヒットした理由としてはいくつかの分析がある。たとえば韓国以上に日本で反響を得たわけとしては、日本の女性たちが「愛している」という言葉を聞きたいという欲求不満があるなか、ドラマの主人公たちが真剣に愛を語る姿に心をうたれたというものがある。またピュアで美しい映像が、日本のドラマが爛熟のあまり、人間のえげつなさばかり掘りさげるようになったなか、視聴者には新鮮に感じられたという説もある。映像や物語に現れた、こうした純粋さは、筆者がひそかに「コリアの純情」とも呼ぶべき、韓国の民族性のひとつであると考えられる。

 そのような作品が、他ならぬNHKという巨大なメディアを通じて発信された点も、ヒットの要因として見逃せない。それまで既に、韓国ドラマは『イヴのすべて』(2002年テレビ朝日系)など、日本の民放でも放送されていたが、これほどのブームを起こすまでは至らなかったからだ。これは余談だが、『冬のソナタ』放送開始前、局内では女性プロデューサーらが、ドラマを観て感動の涙を流し、推薦したが、幹部たちはヒットを予想することはできなかったという。一方で、NHK内部には「アジアを重視すべき」という風潮があった。その意味では、冬のソナタが選ばれたのは偶然であったが、アジアのドラマのヒットとしては必然であったと言えるだろう。

*二人の大スター誕生

 ドラマのヒットにより、主人公を演じた俳優たちは、日本で最も人気のある韓流スターにのしあがった。男優はヨン様ことペ・ヨンジュン(「勇俊)、女優はチェ・ジウ(崔志宇)である(「日経エンターテインメント」2005年調査)。特にペ・ヨンジュンの人気は根強く、同年にウェブ検索されるキーワードのうち、男性有名人としては、第一位を記録(「インフォシーク」)、しかも前年から週間ランキングのトップテンから一度も落ちることなく、持続した人気の高さを示していたという。これは余談ながら、韓流スターとしては、テレビドラマ『美しき日々』のイ・ビョンホン(李炳憲)や『天国の階段』のクォン・サンウ(権相佑)もウェブ検索のベスト20位入りをはたしている。韓流一般の傾向として、ドラマを通じてスターにのしあがる俳優が多いようだ。また男優の人気が高いことも指摘できる。  そんなペ・ヨンジュンは、関連製品が2004四年には、最も影響力の強い人物とされ、十大ヒット商品の第2 位にランクイン(「日本経済新聞」)、ヨン様の経済効果はなんと、2000億円以上という計算もある。

 たんなるブームを越えて、意識のレベルまで浸透していることがわかる例が、女優チェ・ジウのケースだ。大手整形美容外科(「十仁美容整形」2006年調査)によれば、18歳から29歳までの女性が「なりたい顔&パーツのタレント人気ベストテン」として、第9 位にチェ・ジウが挙げたという。特に目もとが憧れの対象となっているそうだ。そんな彼女は、政府レベルでの文化交流大使にも抜てきされた。

*韓流を変えた『チャングムの誓い』

 彼ら2 人に続くスターが、イ・ヨンエ(李英愛)だ。彼女の主演したドラマ『宮廷女官 チャングムの誓い』が同じくNHKで2005年から2006年にかけて放送され、深夜枠であったにもかかわらず、番組視聴率が最高16パーセントを記録した。こちらは李朝時代の宮廷女官の立身出世物語で、韓国の伝統文化の精髄が盛りだくさんとなっている。『冬のソナタ』が純愛物語という性質上、中年女性の圧倒的な支持を得ていたのに対して、本作は歴史ドラマであり、主演が才色兼備の女優であることから、中高年の男性へと、韓国ドラマのファン層が広がったという。

 さらには韓流自体のありかたをも変えたという説もある。それまでのドラマ・ブームは人気スターによるところが大きかったのが、本作では東洋文化の普遍的な価値観が描かれ、伝統的な要素が多く登場するため、韓服や韓国料理に対する関心が、アジア各地で高まった。韓流がたんなる芸能ブームから、韓国文化全体への理解を深めるきっかけとなったとも言われている。

 ともあれ韓国ドラマ人気は衰えることなく、2007年には地上波でなんと26本、BSで12本、CSで100 本もの番組が、放送されるに至っている。

                           (07/12)

※写真;「韓流シネマ・フェスティバルより映画『角砂糖』」

*参考文献;詳細はこちら




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