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豊饒の楽土[中国東北部]風物誌 7

北方の真珠≠ニいう名の都市の象徴・中山広場/大連

民生街入口から中山広場へ
*なにげない幸せ

 直径200メートルにもおよぶ、石づくりの円形広場には、中央にまるで「天壇」のように大理石の円台がしつらえられている。真夏の昼さがりには、鳩のつがいがほとほとと羽根を休めるのみの広場も、夕涼みの時間となれば、続々と市民が集まりだす。向かいの旧ヤマトホテルの電光掲示テレビを眺める者、歓談にふける者。日曜の夜、9時をまわっても、羽根蹴りに遊び興じる若者たちは、帰る様子がない。広場の端では別れがたい恋人がちが、今宵最後の抱擁にふけっていた。

 そしてまた翌朝が来れば、いつのまにか人気(ひとけ)は去り、かしこに落ちたひまわりの種の殻のみが、昨晩の名残をとどめる。けれどそれが酒盛りの空き瓶でないのは、やはりほどよく統制のとれた旧社会主義国。しかし決して、広場の周囲にスローガンの看板が掲げられているわけでも、もちろん空き地で紅衛兵が叫んでいるわけでもない。ましてや苦力(クーリー)がたむろするわけでも、物売りが憐れな露店を開くわけでもない。

 ほどほどに都市や生活水準の整った現代。人民のなにげない日常の風景すら、この国が紆余曲折をへて獲得した貴重な横顔であることを、ふと思いだした。


中山広場を囲む建物のひとつ、中国工商銀行(旧大連市役所)
*広場いろいろ

 この場所は、前世紀初頭までロシアの影響力にあった当時、その名も「ニコラヤフ広場」と、また満洲国時代には「大広場」と呼ばれていたという。現在の名称、中山公こと孫文にちなんで「中山広場」とされたのは、1945年以降のことであるという。この名前の広場は、イデオロギー的な理由から、中国大陸全土に見られるばかりでない。そういえば台湾の台南にまで同様の地名があった。その多くは中央に偉人の銅像が飾られがちなのだだが、大連の中山広場は、別名「中山音楽広場」。日中はつねにおだやかなBGMが流れており、周囲にはロータリー式の道路がめぐり、10もの古い洋館が並ぶ。そのあいまには各地に向けて、放射状に大通りが伸びていた。

同じく中山広場を囲む、中国人民銀行(旧朝鮮銀行)

 大連市のポリシーのひとつが「多彩な広場を建設する」であるという。この中山広場のほかにも、巨大なガラスの球体オブジェが輝く友好広場 や、噴水の美しい人民広場など、8箇所もの有名な広場を誇るだけでない。さらに新規に設置された小規模なものも含めて、広場の数は48にものぼるという。


現・中国銀行は、かつては横浜銀行であった。
*中国1,2を争う夜景

 しかしやはり個人的にはこの中山広場を頂点にあげたい。ぐるりと囲む建物の壮観ぶりは、夜のライトアップとともに、その威力を発揮する。夜景といえば上海の外灘(ワイタン)が有名ながら、中国北部の大連・中山広場もまた、決してひけをとらない。おそらくは中国大陸において、1、2を争う迫力ではないだろうか。洋館の、よく造りこまれた柱のオーダー、イオニア式やドーリア式。たとえば中央に塔がたちあがり、その左右に両翼を伸ばす旧・大連市役所。まるでドレスのすそを広げて立ちあがる貴婦人のように見える。また旧・横浜銀行(現・中国銀行)は緑のドーム屋根がまばゆい。ルネッサンス風と言わわれているが、イタリアうんぬん以上に、天界の建物を、そのまま地上に降ろしたもうたようにすら見える。とりわけそれがライトアップの光を放つ時刻には。



 旧ヤマトホテルは、歳月の重みをずしりと染みこませ、静かにたたずむ。玄関口の漢民族の紅の飾りが、今やそれが大連賓館であることを、思いださせてくれる。大連の地では、中山広場周辺ばかりでない、各地で見かける前時代の建物や、善意の人々の懐古に、時おり救われるような心もちになることがある。
 
 …とこれらを建てた先人たちの時代まで、想いをはせたとたん、はっと広場の向こうに遠くそびえる、高層ビルの存在に気づく。壁面の幾何学模様は、私を21世紀へとひきもどした。やはりノスタルジーだけでは、この地を理解することはできないことだろう。






*参考文献
「大連名片」大連理工大学出版社

*関連スポットのデータ
「中山広場」大連市中山広場



バックナンバー;
「老虎灘という名の楽園 /大連」
「大連賓館、歳月(とき)を超えて /大連」
「東北部の窓口・大連客船ターミナル /大連」
「水晶、ガラス、クリスタル/大連」
「蛇の島 〜まむし王国 /旅順」
1 「戦跡 〜あれから100年 /旅順」

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