アジア風物誌38 内モンゴル編15
「チベット仏教寺院〜砂塵のはてに極楽を見た」
絢爛たる装飾は極楽浄土そのもの
*「席力図召」、法座の寺
寺院の入口には、風雨にさらされ尽くしたままの門が朽ちかけ、近くには崩れかけたガレキの山と砂塵にまみれた家屋が建ち並ぶ。はたしてここに寺院が? とあやぶみながらも、境内に一歩、踏み入れば、両脇の仁王像のその先に、やはり聖なる雰囲気が満ち満ちていた。かえり見やれば、あの門は、まるで渾身の法力で、俗塵からこの聖域を、護りこらえてふんばっているように思われた。響いてくるのは、読経の声、「南無阿弥陀仏(ナムアミトウ ファー)」の響きである。あたりには、みほとけが微笑むような、慈悲にも似たおだやかなものがたたえられている。この「席力図召(シリトウ シャオ)」は、高僧のまします寺院。「席力図」の発音はモンゴル語で「法座」を、「召」は「寺院」を表すということなのだから、この寺は意訳すれば「法座寺」とでもなるのだろうか。
さて、境内の右手には、燦然たる白い仏塔がしつらえられている。基壇の上には王冠にもにた形の仏塔がましまし、尖塔のその先には傘状の水煙が掲げられている。建造物のほうが極彩の丹青に塗りこめられているなかで、その白い姿はひときわ清洌に見える。
あらためて正面を眺めれば、本堂は群青色とあさぎ色とを基調に彩られており、内モンゴルの青空に調和する。とりわけ両翼近くのタイルは、ターコイズ・ブルーに照りかえり、どこか西域の窟の壁画を思わせる。軒下には曼荼羅がえがかれて、参拝しておとなう人々の心を、ひとあし先に極楽界へといざなってくれた。四面の壁には彩色の琉璃磚が用いられ、屋根には金銅の宝瓶・法輪・飛龍・祥鹿が配されているという見事なもの。チベット様式であるという。なぜモンゴルでチベット? と疑問を抱くかもしれない。両者の自然環境が似ていることから、同じ形式の仏教がわかちあわれたことは想像に難くない。モンゴル族がチベットに宗教上、敬意を払って交流をおこなっていたという歴史もある。
おや、本堂の奥の奥、濃密な闇の向こうに、うすぼんやりと高僧たちの像がうきあがっている。なかでもひときわ霊力を放っていたのは、パンチェン・ラマ師の御像であった。かたわらに添えられた生写真からは、微笑みにも似た慈愛のオーラがにじみ出ている。私は思わず膝をつき、一、二、三度、ひたいをついて祈りを捧げずにはいられなかった。
*「五塔寺」の千仏塔
もうひとつ、フフホトには名刹がある。その名も「五塔寺」−−ただしこれは漢民族の意訳であり、もともとはタベンスプリシャ(塔奔斯普日嗄)と呼ばれているという。
まるで城壁を思わせる須弥壇のいただきには、天守閣さながらに、5重の塔が四隅に四体と、中央には7層の塔がしつらえられている。その高さは16.5メートル。何よりも目をひくのは、各層上部の黄金仏像だ。さらにこの地の宗教的状況を象徴するかのように、第1層にはモンゴル語のほか、チベット語とサンリット語の3文字で金剛経が刻まれているという。しかもこれらの建造物には、すべて壁面にくまなく仏像の厨子のレリーフが彫りこまれており、その数、1563枚。祈りの権化、集大成とでも言えようか。合間を黄・緑・赤の屋根瓦が彩るのだ。このあでやかさ。この塔はまたの名を「千仏塔」という。
しかもこのありがたい御塔に、我々異邦人も上ることができるという。ふもとの入口をくぐり抜け、薄暗い階段を、わずかにさしこむ一条の光を頼りに上りつめていったすえに、突如として視界が開けた。極楽か?
我にかえれば、塔の上からは見渡すかぎり、俗世が広がっていた。地方都市の風景、埃まじりの路地裏が、朽ちかけた壁の合間に折り重なる。所々と紅い飾り「対連」が彩りを添えている。もしも極楽から、みほとけが我々を見おろしているのであれば、このような視界なのかもしれない、と思った。
※参考文献;「フフホト大作戦!」/「Ara China.com 」
バックナンバー;
(内モンゴル風物誌)
14「昭君墓 〜おしどり夫婦は和平シンボル」
13「フフホト(呼和浩特) 〜北のはての青い街」
12「ナーダム 〜男子三技、民族の祭典」
11「相撲 〜死人すら出た無制限自由型」
10「寝台列車 〜眠りの密集」
9「砂漠 〜4A級の砂丘、45度」
8「ラクダ 〜キャメル毛布どころか砂漠の舟」
7「馬頭琴 〜草原のチェロは亡き愛馬」
6「酒〜モンゴルウォッカに馬乳酒」
5「乳製品 〜白い食べ物、神聖なもの」
4「羊 〜全国から広く世界まで」
3「羊肉料理 〜日本進出の味」
2「蒙古馬 〜大草原のトレッキング」
1「草原 〜天の神さま、地の神さま」
(ミャンマー風物誌)
14「八曜式占星術の世界にようこそ」
13「誕生曜日と八方位の相関」
12「曜日に司られた人生」
11「境内はアミューズメント・スポット」
10「癒し&ヒーリング」
9「お供えグッズ」
8「功徳システム」
7「出家の日々」
6「ぼうさまワールド」
5「東南アジアの巻きスカート」
4「男性向け『ろんぢー』再び」
3「女性向け定番ファッション」
2「熱帯アジアの着物」
1「着るアート、腰巻きタイトスカート『ろんぢー』」
(『豊饒の楽土』中国東北部風物誌)
9「瓜の実るころ /東北部」
8「快餐£華ファストフード/大連」
7「北方の真珠≠ニいう名の都市の象徴・中山広場/大連」
6「老虎灘という名の楽園 /大連」
5「大連賓館、歳月(とき)を超えて
/大連」
4「東北部の窓口・大連客船ターミナル /大連」
3「水晶、ガラス、クリスタル/大連」
2「蛇の島 〜まむし王国 /旅順」
1 「戦跡 〜あれから100年 /旅順」
![PageTop]()
|