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アジア風物誌26 内モンゴル編3
「羊肉料理 〜日本進出の味」

 これが噂の火鍋

*羊肉しゃぶしゃぶ

 ゆでたての羊肉は、箸の先でつまみあげたそばから、ほどけてゆくほど薄切りのせいだろうか。臭みというほどの匂いはなく、香りづけ程度に、土っぽい薫りが残るのみだった。この国で「火鍋」と呼ばれる鍋料理。なかでもしゃぶしゃぶは発音がシャーシャー鍋(◇(サンズイ+刷)◇鍋)と言われるもので、最近では羊肉のものが流行しているという。

 スープにはクコの実や龍眼が入っているあたり、薬膳を思わせる。これにお好みで、豆腐やキノコ、野菜類を合わせてもいい。タレは焼き肉のように濃いゴマだれを用いることもあれば、シンプルに酢だけで、肉の味をぞんぶんに楽しむこともあるという。

 肉はただの肉にとどまらないところが、臓物を使いつくす中華料理のお国がら。たとえば「羊心」なる心臓は。レバーを思わせる濃厚さで、この器官を中心に、肉体がいとなまれてきたことが想像される。役割を終えた心臓は、熱湯のなかで縮みこみ、もはや原形をとどめていなかった。それでは「羊尾」なる尾っぽは。主成分が脂肪であるせいか、舌の上で甘くとろけてしまう。この甘みを感じるセンスを開いて食べるのがコツだろう。たんなるあぶらみで済まされないおいしさであった。

 かの羊肉しゃぶしゃぶ、日本進出を試みているという。チェーン系の大手「内蒙古・小肥羊餐飲」が、日本との合弁で「(株)小肥羊ジャパン」を2006年に設立した。あの美味を日本でも味わえるようになるとは!

*塩ゆで、串焼、あえものまで

 モンゴル語の表現では、肉を食べることを、時に「肉を飲む」と言い表すという。まるでがぶがぶと呑むように食らいつくというわけなのか。羊肉のほうは、「羊汁」「汁もの」と表現されることもある。

 そんな羊肉料理のなかでも、最もオーソドックスな家庭料理は、「塩ゆで」だ。シンプルな塩味。そもそも羊の持つ、生々しい、どこか大地を思わせる香りをおびた、ダイナミックな逸品。その名も「手◇(才+八)肉」。手でさいて食うという感覚なのだろうか。実際には手どころではかなわずに、鋭利なナイフで骨があらわになるまで、筋一本に至るまで、切りわけてゆくのだが。

 塩だけでなく、もう少し……と欲張りをすれば。ジンギスカン? いやこれは日本人が開発した焼肉料理で、現地ではメジャーではない。おすすめなのは、串焼「羊肉串(ヤンロウチュ)」。塩コショウ味ながら、肉そのものがジューシーなのだ。さらには炭火をじっくり吸いこみ、早く焼けないかなあという人々の期待までもこもっているように思われた。しかもそれが露店では、1本を1元(約15円)程度で売られているのだから嬉しい。少々、手のこんだ料理としては、羊のもつあえがある。香草のかぐわしさで、もつの臭みを相殺してしまう。そこに酢と塩、コショウのあっさりとした味つけが加わることで、食べやすくなるのだ。

 それにしても、今朝、さばいたばかりの羊肉を、夕食に食べるとは。実際に旅のなかで、まだ屠殺の風景が脳裏に焼きついたままの状態で、「さあどうぞ」と塩ゆでを山盛りで出されたことがあった。なんとなく……食前の祈りを捧げたくなるような……食欲がなくなるというような−−そんななまやさしいことを言っている場合ではない。「そういうもの」なのだ。そのような世界なのだと、納得するばかりであった。

              (つづく)

              (06/09)

※参考文献;「フフホト大作戦!」/「中国情報局」2006.7/「内蒙古 砂漠の旅、羊と酒と人々と」/「中国 内蒙古」


                                


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