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アジア風物誌29 内モンゴル編6
「酒 〜モンゴルウォッカに馬乳酒」

 カルピスの源、馬乳酒

*強烈ウォッカ

 草原の民の集落に踏みいるとき、旅人は入境儀礼の洗礼を受けなければならない。

 出迎えるのは、民族衣装に身を包んだ少女、慈悲にも似た笑顔を浮かべている。うすぎぬの上に掲げた銀の器には、モンゴルウォッカが満たされていた。それを授かった旅人は、約束のように薬指をさしだし、酒に浸してみる。一度は天にの神に、一度は地の神にと、清らなしずくを散らしたのち、額にもうひと滴。その酒を飲みほせば、あなたはこの地へ踏みいることができる。それにしても、このアルコール度の高さ! 口の中を焼きあげるほどであった。

 この地の酒はほとんどが40度以上の強力なものだ。白酒など7類20種ものバリエーションがあるという。(ご参考までに、有名なブランドとしては、蒙古王のほか、赤峰陳曲、◇(さんずい+エ+鳥)茅酒、河套王酒、万山利口果酒などがあるという。「ハイラル」ビールもある。)外モンゴルでは宴の席でこうした酒を勧められたとき、前述の入境儀礼のように、浸した指を天地と額に弾いたのち、一気に飲みほさなければならないという。

 そのようなペースなのだから、ひとたび宴の席が開かれれば、ゆるやかな日本酒に慣れた我々など、あっというまに頬が上気してしまう。一気飲みの繰り返しに浮かれて手を叩き、笑いあい−−包(パオ)のもとでの一体感をかみしめる。

*馬乳酒という必需品

 言い伝えによれば、かつて王が宴の席で功労ある臣下たちに金の杯で馬乳酒をふるまったところ、有名な武将が酔ってすっかり無礼講となってしまった。場が興ざめしそうになったところ、別の臣下が「(飲酒は)ごゆっくりごゆっくり! この馬乳酒は消化を助けてくれるんですよ。そのうち彼をゆったりと眠らせてしまいます」とフォローを入れた。それ以来、馬乳酒の評判が高まったという。

 そんな馬乳酒、馬の乳を発酵させたもので、チェグェ(または外モンゴルではアイラグ)と呼ばれている。そう言われても見当もつかないかもしれないが、カルピスの原型、あの飲料を酸味を強く濃密に、アルコールまで加えたものと言えば良いだろうか。実際にカルピスの創業者がモンゴルをおとずれたさいに、この馬乳酒に出会ったことから、カルピスが生まれたそうだ。

 馬乳酒はいつでも入手できるわけでない。乳絞りが可能な時期が限られているのだ。毎年夏に集中して馬乳をとる。この原乳をなんと3000〜4000回も攪拌し、冷やしたのちに発酵させる。ヨーグルトをアルコール発酵させたものと思えばいい。アルコール度は2〜3パーセント。さっぱりとした飲みくちである。(余談ながら、これを蒸留、40パーセントまで高めたものがモンゴルウォッカ「アルヒ」だ。)

 馬乳酒は酒というより乳性飲料という感覚なのかもしれない。ある報告によれば、一日の摂取量は0.5〜1.5リットル。なかには一人一日平均4リットルも飲むという者もあるとか。野菜の代わりにビタミンやミネラルを補うという効能があるのだ。  この馬乳酒、13世紀のモンゴル軍世界制覇のさいにも貴重な糧となったと、マルコ・ポーロの『東方見聞録』にも記録が残されている。戦時に馬は交通手段でもあるため、牛より身近な存在なのかもしれない。

 日本進出、といってもこちらは現代の話。日本の相撲界で最高峰に輝いた、横綱・朝青龍も、これを愛飲しているという。

※馬乳酒の効能;血液の粘度を下げて血液循環を改善し、コレステロールを下げ、動脈硬化や血栓の予防効果があると言われている。また高血圧、神経性頭痛、水腫、リュウマチ、慢性胃炎、肺結核病などの患者によいとされている。

               (つづく)

              (06/09)

※参考文献;「World wide episodes 」/「Mei さんのメモ帳」/「突厥が好きっっ!」/「金魚園」


                                


バックナンバー;
(内モンゴル風物誌)
5「乳製品 〜白い食べ物、神聖なもの」
4「羊 〜全国から広く世界まで」
3「羊肉料理 〜日本進出の味」
2「蒙古馬 〜大草原のトレッキング」
1「草原 〜天の神さま、地の神さま」
(ミャンマー風物誌)
14「八曜式占星術の世界にようこそ」
13「誕生曜日と八方位の相関」
12「曜日に司られた人生」
11「境内はアミューズメント・スポット」
10「癒し&ヒーリング」
9「お供えグッズ」
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