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『さいはての極楽』ミャンマー風物誌1

着るアート、腰巻きタイトスカート『ろんぢー』

表通りは塗装の定期塗り替えが義務づけられているため、つねに街並みはカラフル

*カラフル・ミャンマー

 色彩があふれている!、それがヤンゴンの第一印象だった。

 熱帯の直射日光のなかで、空はぬけ、南の花が色とりどりに咲き乱れる。路の両側にはパステルカラーの建物がそびえ建ち、年1回に塗り替えの手入れを受けて、こぎれいに保たれている。たとえば涼しげなペパーミントグリーンや甘い水色、おいしそうなクリーム色など。多くはイギリス植民地時代の名残りなのかビクトリア様式で建てられており、各階に小さなバルコニーを伴っているのだ。

 けれど見渡す町並みから、少しずつ視線を下げてゆき、路ゆく人に目を移せば。やはりここはアジア、しかも赤道にほど近いれっきとしたミャンマーである。人々はみな巻きスカートをはためかせて、まばゆい日向をゆっくりゆったりわたってゆく。カラフルな残像を残していった。


*男も女も巻きスカート

 だがまぶしそうに見とれているのもつかの間のこと。やや。彼らは長いタイトスカートではなく、布地を巻いているようではないか!しかも女性だけではなく、ジャニーズ系の少年から白髪のおやぢさんまでスカートをなびかせているのだ。

 そう、この国の人々は、老若男女も貧富も職業も問わず、公務員から赤ん坊までほとんどみなが一様に『ろんぢー』と呼ばれる巻きスカートを着用している。長い布(横2ラートル縦1・25ラ程度)を筒状に縫った中にずどんと体をはめて、男性ならば腹の正面でくるりと結ぶ・女性ならば脇腹あたりにうまく折りこむのだ。


酷暑の気候では、背広よりはるかに効率的 

 この『ろんぢー』、ただそのへんの布を巻きつけた腰巻きかあ、とはとてもあなどれない美しさと深さを持ちあわせており、ほとんど着るアートと化している。

*トレンディー柄

 たとえばシンプルなストライプ柄やチェック模様から始まって、螺旋8らせん)的な幾何学模様、さらに小花ちりばめモノ、薔薇や熱帯花など大輪咲き乱れモノまで様々である。花柄あたりは日本の着物の染め模様に通じるものがあるかもしれない。またペイズリーや紋章模様などどこか異国を匂わせるものもある。

 よりどりみどり色とりどりのこれらは、現在ミャンマーで人気のある柄、いわばトレンディーなスタイルだ。ではひと昔前のトレンドはというと、さかのぼること大戦前。当時の資料によれば、店頭には次のようなネーミングの生地が並んでいたという。例えば“ジャスミンの花”白く清くてかぐわしい、女性向けの清楚な布地をイメージできる。だが商品名の中には“極上の真珠”やら“最上の黄金玉座”。さらにエスカレートすれば“ビルマの威厳”これが本当に布の名なのだろうか、“大学生模様”“僕の女神”などときた!

 あまりネーミングにこだわりすぎるとオタッキーの世界になるため自粛するが、一般的にはごくシンプルなストライプが当時の若者たち(ただし今のおばあちゃんおじいちゃん) に人気だったようだ。例えば“ろうんぺ柄”・白地に茶や赤で太いすじ1本プラス細いすじ3・4本をワンセットとしたものなどだ。また戦前当時の年配たち(ただし今はもうこの世にいらっしゃらないだろう)は例えば白とうす茶の縞模様(“からめっぱうんどうすいん柄") や白数本と淡いオレンジ1本による縞模様(“んぐえばんすいん柄") などを好んでいたという。

 ストライプが多いのは、そのファッション性もさることながら、染色技術の事情にもよる。はっきり言って手間隙がかかるのだ。まず糸に色をつけるための染料を輸入ではなく国内で調達しようと思ったら、化学染料の乏しかった当時、草木に頼らなければならないのである。例えば黄色を作るためにはターメリック=カレーの着色に用いるスパイス、あれを使わなければいけない。また黒く染めたければ“めーびん”という豆の木の葉をぐつぐつ煮こむ、赤が必要ならベニノキ(だでいん・ずいー)の実をゆでる、いちいちご苦労さまなのだ。(もちろん今では化学染料を自由自在に用いるので、48色パレットさながらにあらゆる色彩の『ろんぢー』を作ることができるのだが。)

 ともかく当時はその土地その土地に生息する草木から染料を調達していたため、必然的に産地ごとに生地の色も質も異なってくる。例えばミャンマ−第2の都市・古都マンダレーでは絹の『ろんぢー』が有名だ。また裏表にそれぞれ異なる色のリバーシブル!な『ろんぢー』を発明したのは、アマラプーラ地方。さらに色が濃く普段着向きのシュエダウン・ろんぢー、格子柄で丈夫なダウエ ー・ろんぢーなども有名である。

 中でも最も高級なのが、ヤカイン地方の『ろんぢー』だ。もちろん、シルク。その手触りは柔らかなのにコシがある、伸び縮みするのに型くずれしない。布地を手にとってあちらこちらとかたむければ、光線の当たり具合によって布地は玉虫さながらに様々な色あいを示し、身につけられれば腰の曲線にそってなめらかな陰影をかもしだす。なかなか、の品だ。お値段もなかなかのもので、一着約1000チャット。下級公務員の給料が月に1000チャットであることを考えあわせると、日本の感覚でいえば一着ン万円といったところだろうか。(ただし我々外国人はご心配なく。民間レートで日本円に換算すると、1000チャットは約1000円(執筆当時・90年代半ばのレート。)

 おみやげに一着いかがでしょうか。






バックナンバー;
(『豊饒の楽土』中国東北部風物誌)
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8「快餐£華ファストフード/大連」
「北方の真珠≠ニいう名の都市の象徴・中山広場/大連」
「老虎灘という名の楽園 /大連」
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「水晶、ガラス、クリスタル/大連」
「蛇の島 〜まむし王国 /旅順」
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