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『さいはての極楽』ミャンマー風物誌13

八曜式占星術の世界にようこそ

 誕生曜日にわりあてられた聖獣のひとつ・蛇「ながー」


*誕生曜日と八方位の相関

 ミャンマーの八曜日占星術は、我々が慣れ親しんでいる西洋の占星術とはどう異なるのだろうか。西洋式では・天球を12の部屋に分けた宮と、10の惑星さらに誕生日に対応する12星座が用いられており、それぞれの要素がどのような位置関係にあるかという動的な組合せで、運勢がわりだされている。

 これに対してミャンマー式占星術では、天球ではなく大地を、東西南北など8の方位に分けたものと、8の惑星や天体(日・月・火星・水星・木星・金星・土星プラス日食や月食の原因となる架空の星“らふー”)さらに・誕生日に対応する8曜日(通常の曜日のうち水曜日を午前(=“ぼっだう") と午後(=“やふー")に分割したもの)が用いられている。ただそれぞれの動的な組合せ如何というよりも、誕生曜日に方位が固定的にわりあてられている点や、さらに誕生曜日が対応する守護動物や花、数字、イニシャルなどを有している点がユニークだ。

 まずこの説明を御覧のあなたは、何曜日生まれだろうか。生年月日に発行された新聞の縮刷版などを図書館で捜せばすぐにわかるだろう。八曜式占星術によれば、何曜日に生まれたかでその人の基本的な“性質”が決定されるという。例えば、

日曜生まれ         貪欲
月曜生まれ         嫉妬深い
火曜生まれ         正直
水曜午前(=“ぼっだう") 生まれ  短気だがすぐに落ちつく
水曜午後(=“やふー")生まれ   冷静
木曜生まれ         温厚
金曜生まれ         話好き
土曜生まれ         喧嘩っ早くカッとなりやすい

なんだか手厳しいお告げが多い気もするが、まあいい。願わくば正直者の火曜日に生まれたかったものだが、私は嫉妬深い月曜生まれの女の子であった。

 なぜ八曜日ごときが性格まで宣告してしまうのか。実は各曜日がそれぞれに対応する守護動物を定められていることに関係している。南伝仏教においては仏陀のもとに生きとし生けるものがすべて集まったすえ、十二支ならぬ8種類の動物が代表とされた。すなわち伝説上のイキモノ『がろん』をはじめとして、虎・獅子・おとなしい象・激しい象(?) ・ねずみ・もぐら・龍である。そのため各動物の性質が反映してそのもとに生まれた者にも影響を与えてしまうのだ。

 さらに人同士の相性までも定められるという。例えば獅子&象や、虎&龍は互いに強烈すぎてそりがあわないため、獅子を守護とする火曜生まれと象を守護とする水曜生まれも相性が良くない。反対になぜか水曜生まれ&金曜生まれはナイスカップルと言われており、たとえ彼らが狂人でも生涯飢えに苦しむことがないほどうまくいくと信じられている。

 八曜占星術にハマりまくった人ともなれば、曜日の相性に基づいてすべての行動を決定する。恋人選びばかりでなく友人や事業・取引相手、さらには軍隊内部の編成においても考慮するという。万が一結婚したい相手との相性が悪ければ、大騒ぎだ。占い師に相談するわ御布施をはずむは特別な木の葉で祈祷するわ、あげくのはてには引き離されることもある。ただしひと昔前の話だが。

 その他“今月のラッキーデーは○日です”というノリで、ラッキー曜日なるものも定められている。「ヘアカットするのに幸運な曜日★」「シャンプーするのに幸運な曜日a」はたまた「出家のため剃髪する際に避けるべきアンラッキーデー/月・金・誕生曜日」などミャンマーならではのほほえましいものまであった。

 そこまで曜日にこだわるか?という気もしないでもないが、日本の女のコたちが雑誌を買うたびに必ず巻末の占いコーナーを開いて、乙女座蠍座牡羊座などチェックを入れていることを思えば、わからないことはない。また曜日に関わるのはミャンマーに限った話ではなく、ヒンディー世界にも広くみられる。ただしインドでは八曜日ではなく九曜日であり、それぞれに九種類の天体が対応しているのだが。(ミャンマーのように水曜日を二分するのではなく、日曜〜土曜プラス蝕星(曜)・彗星(曜)が加わる。ミャンマー式で水曜の午後(“やふー") 生まれを司る“らふ”星とは、実はヒンディー式では蝕星のことである。)このような九曜九星(“ナヴァグラハ”)はインドの寺院にしばしばまつられている。さらに中国に九曜として伝わり、暦算や占星技術とともに日本にも伝播しているそうだ。インドからミャンマーに伝わった際には、仏教の八支や、さらにパゴダの平面図・八角形に基づく八方位などという概念と融合してミャンマー風にアレンジされたものと思われる。

 ともかくミャンマーでは自分の誕生曜日を知らない者はいない。我々外部者でも八曜の世界を理解したうえでパゴダを訪れれば、さらに充実したお参りライフを体験できる。というのもほとんどの仏塔は、その周囲八方位にそれぞれ対応する曜日専用の碑を設置している。(ミャンマー式占星術はヒンデイー世界起源であるのにもかかわらず!仏教の寛容さゆえに仏塔と曜日の碑が共存しているのだ。)例えば土曜生まれのためには、土曜日の方角・仏塔の“南西”側に祠が置かれ、中では守護動物・龍(また蛇・『なーが』)の像がとぐろをまいている。そこで土曜日生まれの人々は、入った門からてくてくと時計回りにパゴダのまわりをたどり、龍の祠にたどり着いたらとぐろの前でぬかづき、お供えものや祈りを捧げるのだ。

 さらに誕生曜日は数字をも支配するため、対応する数字の数だけ線香やろうそくをあげるとさらによろしい。(日曜=1を筆頭に土曜=7、プラス水曜の午後=8まで。1本で済む日曜生まれがうらやましい。)

 通常はそれでいい。だがさらに強力に願をかけたい場合は、目的に応じて別の曜日の碑を拝むことになる。例えば恋愛成就を祈願したければ、自分の曜日の碑から時計回りに数えて7つ目・“永遠”を意味するポジションの碑に向かって祈るのだ。他にも長寿祈願なら2つ目の碑、など様々なニーズに応えるポジションが、次のように定められている。

一番目(自分の誕生曜日の碑)=名誉や地位への吉角:昇進を祈願するときはここでどうぞ。
二番目(時計回りで自分の碑の隣にあたる)=長寿への吉角:病を治したい人やご老人方におすすめ。
三番目=領域への吉角:新居や新しい仕事・グループを持つ人の幸運を祈って。または新婚生活のスタートにあたってもここで祈っておきたい。
四番目=不吉の角:避けてとおること。
五番目=富への吉角:ひと財産儲けたい人又は赤字気味の人向け。
六番目=権力と栄光への吉角:競争の渦中にある人や昇進を希望する人向け。
七番目=永遠への吉角:恋愛や結婚が幸せのなかで成就し、永遠に続きますように。他に引っ越しや新築にもOK。
八番目=壮麗・優美への吉角:社会生活の成功や家庭生活の幸福を祈る。
 もちろんこれらは自分の誕生曜日から数えたものなので、人によって対象となる碑は異なっている。 (おまけ・日曜日生まれの人が病に苦しんでいたら、長寿への吉角・東の碑に祈るだけでなく、おまじないを加えると良いとも言われている。家の南の方角に向かって、なぜかぼろ布と古い靴を「ほーい!」と投げるのだ、あーしたてんきになーあれっ、的に!?)

                                (つづく)


バックナンバー;

12「曜日に司られた人生」
11「境内はアミューズメント・スポット」
10「癒し&ヒーリング」
9「お供えグッズ」
8「功徳システム」
7「出家の日々」
6「ぼうさまワールド」
5「東南アジアの巻きスカート」
4「男性向け『ろんぢー』再び」
3「女性向け定番ファッション」
2「熱帯アジアの着物」
1「着るアート、腰巻きタイトスカート『ろんぢー』」

(『豊饒の楽土』中国東北部風物誌)
9「瓜の実るころ /東北部」
8「快餐£華ファストフード/大連」
「北方の真珠≠ニいう名の都市の象徴・中山広場/大連」
「老虎灘という名の楽園 /大連」
「大連賓館、歳月(とき)を超えて /大連」
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「蛇の島 〜まむし王国 /旅順」
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