無料ホームページ 第3話の言い訳話。
『ANEX』


「遅れてごめん!」

御巫 曜(みかなぎひかり)は息を切らし星史郎の前の席に座った。
場所はこの前と同じ、テーブルもまた同じだ。

「いえ、ほんの10分程です…さっきまで別の御仕事だったようですね」

「そう…依頼人と会っててね。まったくあのジジイ、こっちが小娘だと思って出し渋りして」

下手に出りゃイイ気になるんだよ…と憤慨しながら、コップの水を一気に飲み干した。

「ハイ。この前の」

ずいっと封筒を星史郎に突きつけた。

「どうも」

とだけ言い星史郎は封筒の中に目を落とす。

「それで、どうだった?」

「何がです?」

「愛しの『昴流クン』。会ったの?」

好奇の眼差しが星史郎に向けられる。

「会いましたよ」

ぽつりと、星史郎は言った。

「ほんとに?!」

曜は驚きの声をあげた。

「…と、言ったらどうしますか?」

笑みを浮かべ、星史郎は言った。

「からかわないでよ…じゃあ、会わなかったの?」

「えぇ。後姿さえ見ませんでした」

「そう、なら良かった。・・・だって、当主が貴方に会って何もせずに済む訳ないものね?きっと、掴み掛かってくると思うわけ。そうしたら……」

彼女は、どこまで知っているのだろうか。
北都ちゃんが僕にかけた『あの術』を、知っているとでもいうのだろうか?
…ふと、そんな考えが星史郎の脳裏を翳めた。

「二人とも無傷じゃ済まされないし、そんなことになったらうちの稼ぎに響くわ!」

「・・・そうですね」

――知らないのだろう。

「いやぁ〜二人共怪我無くって何より。これで心置きなく仕事が頼めるわ♪…で早速仕事の話なんだけど。長尾汎って議員知ってる?」

「えぇ…確か自身の女性問題すら手玉に取って自分を売り込む、素晴らしく商売上手な方でしたか」

「誉めてる?ソレ。…まぁとにかく、彼からの依頼です。今度の選挙で邪魔な人がいるんで、殺って下さい。だって」

「そういえば、この前衆院が解散しましたよね。僕の所にも最近それ関係の仕事が来るんですよ」

「稼ぎ時よね〜今。で、ライバル議員だか何だか知らないけど、この高橋睦男って議員を消して欲しいんだって。日時は…」

言い掛けて、曜は止めた。

「どうしました?」

「あの〜…私から見て右斜めのテーブルの眼鏡の人さ」

星史郎は相手に気取られぬ様に見る。

「あれ、高橋さんだ」

「…ひょっとして、話聞こえちゃいましたかね?」

「もしかしたら…ね」

「じゃ、ここは一発・さっさと僕が殺して…」

「ここは一発、じゃないっつぅの」

立ちあがろうとした星史郎を曜が止める。

「そりゃ、貴方は殺すだけでいいかも知れないけどさ。死体はね、はいドロンパなんて消えてくれないんだから。いつも殺した後始末、誰がしてると思ってるの」

「ひょっとして、曜ちゃんですか」

「まさか。あたしはしがない一般市民だもの。後始末は警察の人でしょ。だからね、貴方たち暗殺家は、警察の方々に感謝しなきゃならん訳よ」

「成程」

「まぁ私も、色々誤魔化したりとか、コトを伏せておく様に警察に根回ししたりとかしてるから、私にも感謝していいのよ?」

ちらりと横目で星史郎を見る。

「お手数お掛けしてます」

にっこりと星史郎は笑う。

「さてと。なんか高橋さん帰り支度始めてるし…じゃあ、こっちでなんとか都合付けておくから、そちらは予定通りの日程で片をつけて下さいな」

「どうするんですか?」

「彼の記憶をちょこっと変えるのよ。今すぐ殺っても良さそうなモンなんだけど…日時は依頼者様のご指定だから」

やれやれと肩を竦める。

「この業界も、お客様は神様ですからねぇ」

「ま、お互いこの不況を乗り切りましょ」

「そうですね」

頷くと二人は、互いのグラスで小さく乾杯した。



END


前作について『レストランなんかで相談して、他の人にきかれたらどうするんでしょう』という的確なご指摘を頂き、かいた話。
解決ですね。
事情を知った人は、星史郎さんに消されてしまうんです(笑)


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