『ANNEX』
「遅れてごめん!」
御巫 曜(みかなぎひかり)は息を切らし星史郎の前の席に座った。
場所はこの前と同じ、テーブルもまた同じだ。
「いえ、ほんの10分程です…さっきまで別の御仕事だったようですね」
「そう…依頼人と会っててね。まったくあのジジイ、こっちが小娘だと思って出し渋りして」
下手に出りゃイイ気になるんだよ…と憤慨しながら、コップの水を一気に飲み干した。
「ハイ。この前の」
ずいっと封筒を星史郎に突きつけた。
「どうも」
とだけ言い星史郎は封筒の中に目を落とす。
「それで、どうだった?」
「何がです?」
「愛しの『昴流クン』。会ったの?」
好奇の眼差しが星史郎に向けられる。
「会いましたよ」
ぽつりと、星史郎は言った。
「ほんとに?!」
曜は驚きの声をあげた。
「…と、言ったらどうしますか?」
笑みを浮かべ、星史郎は言った。
「からかわないでよ…じゃあ、会わなかったの?」
「えぇ。後姿さえ見ませんでした」
「そう、なら良かった。・・・だって、当主が貴方に会って何もせずに済む訳ないものね?きっと、掴み掛かってくると思うわけ。そうしたら……」
彼女は、どこまで知っているのだろうか。
北都ちゃんが僕にかけた『あの術』を、知っているとでもいうのだろうか?
…ふと、そんな考えが星史郎の脳裏を翳めた。
「二人とも無傷じゃ済まされないし、そんなことになったらうちの稼ぎに響くわ!」
「・・・そうですね」
――知らないのだろう。
「いやぁ〜二人共怪我無くって何より。これで心置きなく仕事が頼めるわ♪…で早速仕事の話なんだけど。長尾汎って議員知ってる?」
「えぇ…確か自身の女性問題すら手玉に取って自分を売り込む、素晴らしく商売上手な方でしたか」
「誉めてる?ソレ。…まぁとにかく、彼からの依頼です。今度の選挙で邪魔な人がいるんで、殺って下さい。だって」
「そういえば、この前衆院が解散しましたよね。僕の所にも最近それ関係の仕事が来るんですよ」
「稼ぎ時よね〜今。で、ライバル議員だか何だか知らないけど、この高橋睦男って議員を消して欲しいんだって。日時は…」
言い掛けて、曜は止めた。
「どうしました?」
「あの〜…私から見て右斜めのテーブルの眼鏡の人さ」
星史郎は相手に気取られぬ様に見る。
「あれ、高橋さんだ」
「…ひょっとして、話聞こえちゃいましたかね?」
「もしかしたら…ね」
「じゃ、ここは一発・さっさと僕が殺して…」
「ここは一発、じゃないっつぅの」
立ちあがろうとした星史郎を曜が止める。
「そりゃ、貴方は殺すだけでいいかも知れないけどさ。死体はね、はいドロンパなんて消えてくれないんだから。いつも殺した後始末、誰がしてると思ってるの」
「ひょっとして、曜ちゃんですか」
「まさか。あたしはしがない一般市民だもの。後始末は警察の人でしょ。だからね、貴方たち暗殺家は、警察の方々に感謝しなきゃならん訳よ」
「成程」
「まぁ私も、色々誤魔化したりとか、コトを伏せておく様に警察に根回ししたりとかしてるから、私にも感謝していいのよ?」
ちらりと横目で星史郎を見る。
「お手数お掛けしてます」
にっこりと星史郎は笑う。
「さてと。なんか高橋さん帰り支度始めてるし…じゃあ、こっちでなんとか都合付けておくから、そちらは予定通りの日程で片をつけて下さいな」
「どうするんですか?」
「彼の記憶をちょこっと変えるのよ。今すぐ殺っても良さそうなモンなんだけど…日時は依頼者様のご指定だから」
やれやれと肩を竦める。
「この業界も、お客様は神様ですからねぇ」
「ま、お互いこの不況を乗り切りましょ」
「そうですね」
頷くと二人は、互いのグラスで小さく乾杯した。
END
前作について『レストランなんかで相談して、他の人にきかれたらどうするんでしょう』という的確なご指摘を頂き、かいた話。
解決ですね。
事情を知った人は、星史郎さんに消されてしまうんです(笑)
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