虚言症虚言症
「僕には、これ以上のことは出来ないんですから」
仕事を終えて帰宅してきた彼は、決まってこうぽつりと言う。
――いや
僕に ではなくて、昴流くんが自身に向かって、である。
「…似た様なことを、良く北都ちゃんに言われていましたね、昔」
昔の話に、何の気なしに触れられるようになったのは、ごく最近のことだ。
けれどもなるべく、彼が神経質でない時にだけ口にする様にしている。
「…もう、こうやって自分で自分に言い聞かせるしか、出来ないですからね」
そう言ったあと、昴流くんははっとしたように僕を見てから、すみませんと小さく謝った。
――何を謝る必要があるのだろうか。
きっと自分の科白が皮肉めいてしまったことに対する謝罪なのだろうが、そもそも責められるべきは僕の方なのであって、彼が謝ることは何も無い。
けれどもこの綺麗な顔をした恋人は、僕がそう言ったら余計に気を遣うのだろう。
口に出さぬ思いやりというものもあるのだ、と、僕は最近になって知ったように思う。
多くを口にしないことで物事を円滑に進める、という方法は勿論ずっと前から知っていたし、使ってはいたけれど。
僕の感情は、彼との生活によってかなり多彩になった様に感じるのだ。
「言葉というものには全て…少なからず、呪縛する力がありますから」
「その効果を、狙ってるんですか?」
「ええ、まぁ――…」
昴流くんは言いながら自分の髪を一撫でして、
「でも、初めから効果を狙って言っていたのでは、無理かもしれませんね」
と笑ってこう結んだ。
END
昴流くんに影響されている星史郎さん、という図が書きたくなって突発的に書き上げました。
でも、星史郎さん目線で書くと、まるで星史郎さんが多弁になったみたいで何だか変な感じになってしまいました。
←戻ル。