昴流くんがクラスメイトなんて、羨ましい…「皇 昴流さんのお宅でしょうか」
受話器越しでも、相手が緊張しているのがわかった。
「…はい」
短く返事する。
「わたし、鏑木、鏑木実月です」
〜overtime work〜
(東京BABYLON 第二話「DREAM」参照)
* * *
「・・・え?」
「もう、私のことなんて覚えてないわよね…」
電話の主の声は、悲しげに言った。
「…最後に会ったのは、16の時だから、もう5年くらい経つのかな」
「覚えてて、くれたのね」
電話口の向こうの声が、明るくなった。
・・・暫しの沈黙。
彼女は何かを言おうとして、それでも言いかねている感じがした。
「それで……何の用事かな?」
何か用が無ければ電話してはいけない、というモノでもないか。
ちょっと冷たい言い方だったかな、と思った。
「・・・あのね」
「うん」
「小学校の時の・・・同窓会が、あるの」
「そう」
「来月の第二土曜・・・昴流くん、来られる・・・?」
「ごめん、その日はちょっと」
――カレンダーを見る必要も無い。
別にその日に先約があったわけでは、無いと思うけれど。
姉さんが死んでから・・・あの人を追い始めてから、人との接触は減っていくばかりだ。
意識してそうしているのか、無意識にそうしているのか、それすら良くわからないけれど。
ただ、小学校の頃の思い出に・・・感慨、愛着、哀愁、そういった類のものは感じない。
もう、忘れた。
今の僕の心にあるのは、深く澱んだものばかりなのだから。
旧友に会って、『久しぶり』『元気にしてた?』だなんて、言えるわけも無い。
「…ずっと、ずっとね」
実月の声で、我に返った。
「お礼が言いたかったの…あの時、助けてくれてありがとう、って」
「…うん」
それが僕の仕事だから、なんてそこまで事務的で冷たいことは言えない。
ただ、ああした事が彼女にとって最善だったとは、今の自分には思えなかった。
自分の殻に閉じこもって、外界を遮断することを知った今は。
あの時、僕はどう思ってただろう?――確かに、最善だと思っていたかも知れない。
いや、本当に?彼女の母親に、依頼されたからじゃないか?
…胡乱だ。
「あの時、助けてもらって…本当に、感謝しているの」
「いや、僕は…」
「あの後…やっぱり、辛いことも沢山あったけど、でも…目が覚めて、生きてて良かったって、今は思ってるから。だから」
「うん」
「もっと…昴流くんは、自信を持って欲しいの、人の役に立つお仕事、してるんだから。昴流くんは、人を幸せにできるんだから」
人を幸せにする…そんな大層なことを自分が出来ているだなんて思ったことは無かったし、きっとこれからも出来ないと思う。
大事な人を、泣かせてばかりだ。
でも、必死に言葉を紡ぐ彼女の気持ちは、伝わる。
「…結婚、するの、あたし」
「え、」
「目が覚めたから…昴流くんが来てくれたから、今の幸せがあるの」
本当に、と実月の声は強調した。
「本当に…ありがとう」
心なしか、彼女は泣いている様な気がした。
「ごめんね、いきなり電話して…仕事、忙しいでしょう?――もう、この辺で」
「―・・・同窓会は、どこでやるのかな」
「…えっ・・・と、六本木で、六時半から」
「・・・六本木か。久しぶりだな」
「・・・昴流くん、来てくれるの?」
「うん、多分行けると思う」
少し心の温度が上がっている、そんな気がした。
END
昴流くんの、仕事話(というか、仕事のその後?)
他人に冷たくなりきれない、昴流くんが書きたくて・・・なんだかぬるい話になってしまいました
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