死刑囚オスバルド・トレス、「無実の罪で死にたくない」
     「もしこれが自分の運命だとしたら、そこまでなのだろう・・・。しかし、そうでないとしたら、生き続けられる。しかし、いずれにしても今僕は落ち着いている」とメキシコ、ヌエボ・レオン州出身の米国で死刑を宣告されたオスバルド・トレス・アギレラは語る。「1年前から自分の命は神の手に委ねている」と述べる。

     しかし、自分の家族のことを考えると辛いと告白する。「この刑務所内にいた11年間で最も辛かったのは、母にも父にも触れられなかったことだ。キスすることもできなかった。いつもガラスの窓越しに会えるだけだった。今日何がしたいかと聞かれたら、両親や兄弟を抱きしめ、キスしたい、そして彼らに、“だいじょうぶだよ”と言ってあげたい、と答えるだろう」とオスバルドは続けた。

     現在オスバルドはオクラハマ州マックアレスター刑務所に収容され、死刑執行の日を待つ日々を送っている。罪状は、1993年7月12日、フランシスコ・モラレス、マリア・ジャネス夫妻を殺害したジョージ・オチョア容疑者といっしょにいたことである。某新聞社との電話でのインタビューに答えたオスバルドは、自分の家族に自分のこんな姿を見せなければならなかったことが一番辛いと語った。

     「刑務所に入れられてから僕はずっと孤独だった。それはとても辛いことだった。ここで唯一できることと言えば、いくらかの言葉を発することだけ。でも、それはちっとも辛さを和らげてくれない。」

     多くの死刑囚は、死刑判決を終身刑に減刑してもらえるように懇願するが、オスバルドはそうしようとは思わない。彼は無罪を主張し、もう一度裁判がやり直されることを熱望しているからだ。

     5月8日にはオクラホマ州恩赦会の開催が予定されているが、その席で州知事に対し、赦免の申し出を行うことができる。オスバルドは「死にたくない。しかし一生を刑務所で暮らすのも嫌だ。恩赦会では全てがうまく行くように慎重に事を運ばなくてはいけない。僕が再び故郷へ戻り、家族といっしょにいられるようになるために。」と語る。

     オスバルドは、二重殺人を犯したジョージ・オチョアの友人であったことを後悔している。なぜなら、彼のせいで、オスバルドは今2週間の命となっているからである。

*1時間の自由時間*

     毎日1時間だけ4×3mの狭い独房の外に出られる時間がある。この1時間は特に時間が決まっているわけではなく、看守の都合で、午前中であったり、午後であったりする。

     この1時間の自由時間には中庭に出ることが許される。そこには、バスケットボール場やゲーム用のテーブルがおいてあり、囚人同士でカードゲームに興じることができる。中庭はコンクリートの壁で四方を囲われており、まるで「セメントの箱」のようだと描写する。その囲いにも何箇所か隙間があるが、そこはガラス張りになっていて、看守がそこから監視できるようになっている。

     この1時間だけが、オスバルドが一日のうちで唯一外の空気を感じられる一瞬である。そこでは、少しではあるが、空や太陽、雲が見られるときもある。そして、この時だけ空気と日の光を受けることができるのである。しかし、そこは四方を全て囲われた、8u四方の“箱”の中である。

     独房の中には、ベッドの他に、ラジオもある。ラジオでは夜と朝周波数がうまく合って「ラ・ランチェラ・モンテレイ」という番組を聞いたり、CBS局で放送しているドラマも楽しみの一つだ。

     「ここでは、好きな時に起きる。1日のうち23時間を独房の中で過ごし、1時間ごとに看守が見回りに来る。独房の中では何をやってもかまわない。」

     現在オスバルドは死刑囚だけを収容した場所で生活しているが、自分は他の死刑囚とは違うと主張する。オスバルドによると、昨晩一人の死刑囚がナイフで他の死刑囚を刺すという出来事があったといい、このようなことはかなり頻繁に起こっていると語る。「僕は他の死刑囚がやったようなことはしていない。僕は彼らとは違う人間なんだ」と述べる。

     彼の弁護のための法的手段は全て使い尽くしてしまったことは、オスバルド自身よく認識している。なぜなら、すでに全ての法廷は終わってしまったのだから。また、もはや誰も彼の事例を担当しようとする者もいない。しかし、オスバルドは、まだもう一度裁判がやり直されることを信じている。すでに法律は彼に手を差し伸べてはくれないことは知っているので、オクラホマ州知事ブラッド・ヘンリー氏に彼の裁判のやり直しを申し立てたいと切望している。

     しかしながら、オスバルドは不安があることも否めないと語る。裁判で使用された書類や持っていた書籍などを処分しながら、できるだけ平静を保とうとしている。今では、家族や友人の写真など最低限必要なものだけを手元に残すようにしている。

     一度は自分の身に起こったこと全てに怒りを覚えていた時期もあったという。しかし、「すべては過去のことにしたよ。もう全部許した」と話し、彼に起こった全てのことは忘れた、と語る。今は神の助けを待つばかりで、精神的には安定していると述べる。

     また、2度目の公判でオスバルドの弁護を務めたシャーロン・フォー弁護士のことも許していると話した。フォー弁護士が無罪を勝ち取れなかったために、今オスバルドが死刑執行を待つ身になっているということもすべて許したというのだ。

     オスバルドはこれから米国に行こうとしているメキシコ人に対して警告を発する。彼のように、米国の法律とシステムに囚われてしまわないように気をつけなければならないと語る。友達といっしょにいたとき、その友達が何か罪を犯してしまうと、たとえ自分が何もしていなかったとしても、同様に罪を問われてしまうからである。オスバルドは自由の身になることを望んでいる。裁判でも述べられたように、決して社会に対して危険な人物ではないと主張する。

     赦免措置が決定される日が近づいているが、オスバルドはなるべくそのことについて考えないようにしている。「できるだけそれについて考えないようにしているんだ。もし、赦免が認められれば、それは喜ぶべきことであるし、もし認められなければ、それはその時にまたどうするか考えるだけ」と話す。

     神を信じているので、死ぬのは怖くないと語る。しかし、「自分がしていないことのために死にたくない」と強調する。

     今は家族のことを考えるのが一番辛いことだと語る。初めからずっと彼を信じていっしょにいてくれた家族に感謝するとともに、彼らのためにも死にたくない、と述べる。

     家族にはすべてがうまく行く、と言ってあげたい。独房から唯一できることはいくらかの言葉をかけてあげることだけだが、それだけでは十分でない。

     「母も父も言葉以上のものを求めている。しかし、これ以上何もしてあげられない」と話す。

     5月18日に予定されている死刑執行の日が近づいている今、家族が僕といてくれたことを神に感謝をしているという。「家族が僕といっしょにいてくれなければ、僕はどうしていいか分からなかった」と家族の大切さを再認識している。

     死刑執行までわずかの日が残されているが、今彼の死刑執行を止める可能性があるのは、ビセンテ・フォックスメキシコ大統領の助けにより、オクラホマ州知事へ減免の依頼が行われることである。「今は心穏やかに過ごすだけだ。すべては神の手にゆだねてある。」とオスバルドは語る。





*今日のスペイン語*

    pase lo que pase  : たとえ何が起ころうと、いずれにせよ

    pena capital  : 死刑

    conmutar  : 減刑する

    cadena perpetua  : 終身刑

    aspirar  : 熱望する、切望する

    visperas  : 前日、前夜

    audiencia  : 法廷

    conceder  : 与える、認める

    celador  : 看守

    sintonizar  : 周波数を合わせる

    serenidad  : 平静、冷静、落ち着き

    indultar  : 減免する




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