冬の標 (文春文庫)



冬の標 (文春文庫)
冬の標 (文春文庫)

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ゆっくり流れる時間の中に引き込まれる

絵を描くことに生きがいを覚える少女が、上士の娘であるが故に思い通りにならない十代二十代を過ごす。

作品の序盤は、その思い通りにならなかった22年間がスピーディな筆の運びで語られ、
本編では、主人公・明世のその後の生き方がゆっくりと描かれる。
夢中になれるものは見つけたが、いつも誰かに見張られ、こそこそ生きてきた、そんな女の話である。

夫が死に義父が死に、残された一人息子と姑を支えて零落した婚家を切り盛りしながら、
ようやく訪れた自分の時間を大切に過ごす明世。
幼なじみでもある画塾仲間との再会と交流、14歳になり当主として出仕する息子の成長ぶりが見どころ。

この小説には章の区切りがなく、ところどころ空行があるだけなので少々読みづらいが、
時間に流されず絵に対する主人公の思いが連綿と続いていることを表しているものか。
幕末の慌ただしい時代の話だが、時間をゆっくり流しながら読者を引き込んで行く。
やはり乙川作品は長編に限る。
丁寧に生きるという事

「丁寧に生きる」
この小説に出てくる言葉だ。乙川作品のほとんど全てに描かれているのは、この精神だと思う。著者は、どんな境遇に於いても丁寧に生きようとする人を讃える。また、仕事に関して、それが芸術に近い物であれ、単純作業に近い物であれ、精緻な描写を行って読者を引き込み、人にとって仕事とは何かを無意識に考えさせる。著者が意図しているか否かは別として、そう思えてならない。表紙の絵は雪の中の2羽の烏。読み始める前には意味が解らなかったが、読後にもう一度見ると、思わず見入ってしまった。烏の視線までも気になった。



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