ドルトムント国境付近の砦を守るバイエルン兵は、皆意気消沈していた。

「バイエルン城が占拠されたなんて、まだ信じらないよ・・・」
相変わらずの情けない声で、ヤンカーが呟いた。
「敵の方が一枚上手だったというわけか。」
壁に寄りかかったまま、何やら思案に暮れいてたリンケが言った。
「何をうだうだぬかしてやがる。リンケも敵に感心してる場合かよ。ったく、カーン王はどうなさるおつもりなんだ。」
「さあな。でもレーマー達の攻撃が陽動だったとは、迂闊だったな。」
リンケが悔しそうに舌打ちした。
「過ぎたことをいつまでも言っても始まらないだろ!!」
「そんなに興奮しないでよ、イェレミ―ス・・・」
「うるせぇ、お前は黙ってろ!!」
「な、何だよぉ、イライラするからって、僕に当たらないでよぉ。」
「お前のその喋り方がイライラさせるんだよ。」
「よお、三人衆! 仲間割れか?」
突然後ろから響いたその声に、3人は反射的に振り向いた。そしてそこにいた人物の姿に、3人は驚きを隠せなかった。
「バラック! どうしてお前がここに!」
「これからここの全権は俺が握る。お前等は俺の指示に従え。」
「な、何だと!!!」
バラックの信じられない言葉に、一同揃って声を上げた。
「ここにカーン王の親書がある。」
バラックは1枚の紙切れを取り出すと、これ見よがしに高々と掲げた。
「くっ・・・・・」
「こんな裏切り野郎に全てを任せるだなんて、一体カーン王はどういうおつもりなんだ!」
「で、でもカーン王の御命令なら従うしかないよ・・・」
不本意ながらもそうせざる得ないことは、すでに3人共分かっていた。
「さてと、それじゃぁ早速、作戦会議とでもいくか、御三家の諸君。」
悔しそうに自分を睨みつける3人を横目に、バラックは楽しげに言った。


その頃、フリングスとバウマンは、ドルトムント王国とシャルケ王国の国境付近に軍を駐屯させていた。
フリングスはシャルケ王国の動向を探るべく、自らシャルケ城の近くまで偵察に出向いていた。
ここに来て数日、小高い丘の上から望遠鏡を覗くフリングスは、城内が急に慌しくなったことに気付いた。
”さっき早馬が城に駆け込んでから何かおかしいな。一度本隊に合流して、バウマンに報告したほうが良さそうだ・・・”
望遠鏡をしまうと、馬に鞭を打って疾走した。


任務を終えてドルトムントへ戻ったハマンは、早速城の大広間でスキッペ王に謁見した。
「ご苦労であった、ハマン。」
「いえいえ、こんなことは朝飯前でございます。ところでここに戻る途中、砦を守っているバイエルン兵の動向を探って参りました・・・」
「何! それで敵はどんな様子であった?」
「バラックがバイエルン御三家に合流しておりました。」
「バラックが? これは厄介じゃな・・・あやつの力は今だ計り切れぬ・・・レーマン、この動き、どうみる?」
スキッペ王は、傍らに控えていた参謀長官に尋ねた。
「これは我々に対しての攻撃を意味するものでしょう。しかしあのバラックのこと、何の考えもなしに我等に戦いを挑むとは思えません。彼らがドルトムントに攻め入れば、バイエルンを制圧したリッケン王子が背後を突くのは、彼らとて重々承知しているはずです。」
「うむ・・・しかし何かが引っかかる・・・」
スキッペ王は憮然としない様子で、やや髭の生えた顎を撫でながら言った。
「・・・背後を突く・・・はっ、スキッペ王、バイエルン軍がシャルケと結託するということも考えられますぞ? そうなりますと、我等も背後を突かれる恐れがございます。」
「そうか! やつらの狙いはそこか!」
そこへ1人の兵士が慌しく広間に入ってきた。
「シャルケ国境を偵察しておりましたフリングス殿から早馬でございます。」
「どうやらレーマン参謀のお考えが当たっているようですな。」
そう言ったハマンの顔からは、いつもの飄々とした表情はすでに消えていた。

ドルトムント、スキッペ王の決断は早かった。バイエルンに駐屯しているリッケンと、ドルトムント・シャルケ国境を守備しているバウマン、フリングスの両名に密使が送られた。


「リッケン王子、スキッペ王は何と?」
リッケンがたった今届いたばかりの伝書を読み終えたのを見計らって、傍らに控えていたメッツェルダーが訪ねた。他に、ケール、ビアホフ、ゼヒツィヒのへスラーといった面々がリッケンの周りを取り囲んでいた。
「どうやらバイエルンがシャルケに援護を求めたようだ。シャルケは我等の宿敵。これを機にドルトムントを叩こうとでも考えているのだろう。」
リッケンは書簡を握り締めた。そして、メッツェルダーが一瞬、決まりの悪そうな顔をしたのを見逃さなかった。
「メッツェ、お前が昔シャルケに士官していたことを問う者など、もう誰も居やしないぞ。」
「しかしリッケン王子・・・」
メッツェルダーは昔、シャルケ王国に仕えていたことがあった。しかしそれはほんの短い期間で、シャルケがまだ少年だったこの若者を重用することはなかった。彼自身も士官先を探していた身であり、そんなとき偶然シャルケで士官の口を見つけただけのことであった。その後彼はシャルケ軍を辞し、紆余曲折を経てドルトムント軍に拾われた。メッツェルダーは、ドルトムントが彼を重用してくれたことに、並々ならぬ恩義を感じている。
「お前はもうれっきとしたドルトムント国の騎士隊長だ。私はお前を信頼している。」
「リッケン王子・・・感謝に堪えません・・・」
メッツェルダーは感激して、言葉少なに答えた。
「さて、そろそろ伝令の内容を教えてくれてもいいんじゃないのか?」
へスラーの言葉に、リッケンはおもむろに頷いた。


リッケン達は、出立の準備に追われていた。もはや一刻の猶予も許されない。
ゼヒツィヒの協力もあって、数時間後には全ての準備が整った。
「リッケン王子、ここの守りなら問題ない。バイエルンの残党ごとき、ゼヒツィヒが軽く蹴散らしてやるさ。」
「へスラーさん、くれぐれも油断をなさらないよう・・・」
「分かっている。」
へスラーは大きく頷くと、一刻も早く出立するようリッケン達を促した。
リッケンは大きくかぶりを取って剣を空に掲げた。
「今こそ決戦の時、バイエルンを一網打尽にしてくれよう!!」
リッケンの後ろから、兵士達の大きな雄叫びが響いた。


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