第一部 七番手 微熱くんの朗読


「ペンペン草」

取り壊された工場 裏から環八に続く細い細い道
跡地にマンションができるらしく
油が混じった水たまりと
ネジだか石だかわからない砂利道は
ようやくアスファルトでキレイに舗装された

それから春が
たぶん2つか3つ
君がいなくなったのと同じくらいだから
すぎて
やっぱり裏道だから あまり通う人もなくて
なんとなく寂れていた

今年の夏に
ぼくは引っ越しを決めて
最後に通ってみたくなった
思い出なんてまるでないんだけど
そしたら
キレイに舗装されていたはずの
アスファルトと敷石の間に
ペンペン草が
いっぱい生えていた

おまえらに
やられるもんかと
いっぱいいっぱい
生きているぞと、

叫んでいた


「復旧の見込みはありません」

駅のアナウンスは乾いた口調で告げる
駅員も疲れているのだろう
改札の方からは
酔った怒号が絶え間ない

こんな時に、


こんな時だから、だろう

寒いのか暖かいのかわからない
桜舞い散る夜のホームで
ベンチのひとつ席を離して座って
何も語らないぼくたちは
身動きさえできずにいる

ぼくがやっときりだした
別れの決意を知った
きみは部屋を飛び出して
下りの列車に飛び乗って

降ろされた場所は
もうすぐ海が見えそうな
闇の綺麗な田舎町

そして列車は動けず


車両のすみにいた
きみを見つけて
きみもぼくを見つけて
でももう
ふたり
なにも交わす言葉がなくて


「復旧の見込みはありません」

なんてアナウンスが流れて
きみは少し嗤って
ぼくも少し笑ったら
きみはすぐに
険しい表情に戻ってしまって


この駅に列車が立ち往生して
もうどれくらいの時が経っただろう
深夜も間近な列車の客らは
代行輸送のバスで片づけられていく

駅員は乾いたまま
申し訳なさそうに
ホームに残る
ぼくたちに
告げに来た

「復旧の見込みはありません」

それが何の事なのか
ふたり痺れてしまって
よくわからなくて

でも
駅員の乾いた口調は
代行輸送のバスが
もう終わりになるから
早く乗ってくださいと言う

けど
きみはじっと
動かない

きみはちいさく
ちいさく呟いた

「代わりなんて要らない」、と

時が押し詰まって
駅員は肩を落とし 諦め、去って
ぼくたちはホームに残り
ひとつ席を離していたけど
それでも春は寒いから
ぼくは
きみに寄り添った

少しばかり
静かな時がすぎ
闇の星がわずかに傾いて

乾いた駅員が
毛布を一枚持ってきた

「復旧の見込みは…」

ぼくの肩にもたれ
寝息をたてた
きみを見つけて
駅員は口を噤(つぐ)んだ

彼とぼくは目を見合わせて
何か通じた笑いを
声を出さずに上げた

駅員はそっと
ぼくたちに毛布を掛け
靴音も立てずにしずかに去り

ぼくは闇を
ちいさなぬくもりとともに
味わいながら
思い出と一緒に
5つめの流れ星を数えたあと
なんだか
決めてしまったことなど
どうでもよくなって
うとうとと眠り込んだ

乾いていた駅員が
ぼくを揺りおこした

「まもなく、上り列車が参ります」

空は群青に染まり
彼もすっかり落ち着いて
乾きは癒えたみたいだったけど

隣にいるはずの
きみは姿を消していて

「先に出た、下りの列車で…」
と申し訳なさそうに言うと、
「上りがきたら、あなたをおこしてあげてください、と…」
と付け加えて
彼は線路のむこうへ目をやった

ぬくもりが去って 肩が冷えきっている
ぼくはなんだか
重い気怠さを
むりやり噛みつぶしてみた

毛布と
とびだしたきみの
残り香を一緒にたたみ
彼に手渡す

駅員は上り列車を迎え
ぼくを敬礼で見送っている
少し、なんだか
申し訳なさそうに

始発の上りは
人もまばらで
向かい合わせになっている
空いた席に座り
窓から外を見遣ると

敬礼していたはずの彼は
にこにこと笑って手をふっていた

運行の再開が
彼の職務を続けさせていく
そんな安心から
笑顔がこぼれたのだろうか

それともどこかに
幼子でも乗っていたのだろうか

優しげな笑顔で

動き出した列車を
我が子を見守るように
送り出して
彼は職務を果たしていく

いろいろなものを
見守ってきたのだろう
そのすべてを抱きしめているような
優しげな瞳で
この列車を
見送ってくれた

列車が遠くの
海が見える場所に
さしかかった時

空は群青から
水色へとさしかかり
重そうな貨物列車を

スローモーションのように
ゆっくりと追い抜いた

ひとつひとつの貨車に
歴史があって
ぼくはそこに
思い出を重ねて
みたりしていると

朝日が景色の
角をつけて
列車のスピードみたいに
どんどん昇っていく

きみは
下り列車で
おなじ景色をみたり
おなじ気持ちで
いるのだろうか


「大阪弁らぷそでぃ」

「さむい」ってゆうから
「寒いんけ?」って聞いてみたんやんか
そんな怯えたカオせんでもええやん
関西人やし、オレ

そら、ここは東京やけど

しゃあないやん。
大阪弁
あかんのんか?
大阪弁
ビジネスでつこたらあかんのんか?
大阪弁
口説き文句でつこたらあかんのんか?
大阪弁

そら、たしかに、標準語で
「愛してるよ」ってゆわんかったら、
カッコつかへんけどもやな
「すっきやねん」やったらハズかしいんか?
大阪弁

ニュース読んだらあかんのか?
「今日の株価は大幅に下落しました」って
「なんや株さがってんで、やばいんちゃうん?実際のハナシ」ってなるけど
そんなんでニュースあかんのんか?
大阪弁

ケンカするときだけに使うんか?
大阪弁

なんでドラマの借金取りは
「金返さんかいワ〜レ〜?」っていいよん?
そんながめついか?
大阪弁

あかんけ?あかんけ?あかんのん?
だめなん?だめなん?だめやのん?
いてまう?いてまう?いてまうん?
しばくど?なかすど?吉本興業?

なんでちょっとギャグ言うたら
「吉本興業の芸人さん?」とかいわれんのん?
大阪弁
「えらいすんまへん」ってお礼ゆうたら
なんですっとんで逃げてくのん?
大阪弁
なんで営業行って「買って下さいよ」ってゆうたら
『関西人なら「こーてーなー」って言わなくちゃだめじゃん?』、
って横浜弁でねだられるのん?
大阪弁
そんなオモチャみたいにおもろいか?
大阪弁
山手線の中で関西人同士で大阪の話してたら
「きゃ〜なんか漫才してる〜」って女子高生にいわれるん?
大阪弁

東京来て何年?
「10年ですねん」ってゆうたら
「大阪弁って抜けないんだぁ〜」って
蔑んだ目でみるのん?
大阪弁
大阪弁でしゃべってたら
「あ、阪神ファンでしょ?今年は残念だったね〜」
とか言われるん?
大阪弁
なんでアホってゆうたら
そんな怒るん?
バカの方がエライんかい?
郷に入れば郷に従えって
同じ日本や あかんのんかい
大阪弁

あかんけ?あかんけ?あかんのん?
だめなん?だめなん?だめやのん?
いてまう?いてまう?いてまうん?
するんけ?やるんけ?しばくんけ?

(はぁはぁはぁ)

ほんで、なんやったっけ?
寒いんやったっけ?

オレぜんぜん寒ないけどな?
ゆうか暑いくらいやねんけど

まあ、ええわ

タコ焼きでも
食いにいく?

アツアツの

東京のたこ焼きって美味しくないけど
まあ、君となら
少しは美味しいかなって思うんだ。

あかんやんオレ、

大阪弁ぬけてんやん
決める時はあかんのんかい
大阪弁

やっぱ、めちゃめちゃ
無理あんなあ…
大阪弁

阪神が優勝せーへんのも
関西空港が沈むんも
横山ノックがセクハラなんも
USJで不祥事あるのも

みーんなみーんな
大阪弁がわるいんやあああああああああああああ
だめなんやああああああああああああああああ
あかんのんやああああああああああああああ

あかんわ
大阪弁。




「短い髪」

お前が髪を切ったから
もうなんもゆわんでもわかってる
長いんか短いんかわからんかったけど
一つわかってるんは
明日の朝には
お前がここにはおらんゆうこと  

俺いまから
パチしばいてくるから
今日はたぶんもどらへんで  

いつもの様に
でてきて梅田まで行く
何やってもおもろないから
サウナ行って暇つぶす

おばちゃん垢スリ
ちゃんと力入れてやりいな
人間て2年くらいで
全部いれかわりよんのやてな  

俺の体のなかの
垢全部おとしたら
明日の朝には
別の人間なっとるかな  

明日の朝に
別の人間なっとったら
ほんでもお前
おらへんのかな  

全部ぜんぶ
垢落として
おれもぜんぶ
かわったらええのにな  

そしたらお前と
もういっぺん
出会えんのにな

そしたら俺も
もういっぺんくらい
お前の事
好きやゆえるかな


「切った髪の理由」

ウチが髪を切ったんは
あんたは言葉で言うてもわからへんから
でもホンマはそうやのうて
もっとちゃう理由があんねん  

あんたが渋い顔して
パチ行くゆうたから
たぶんもう今日は
かえってきいひんのわかってる  

たぶん今ごろ
そない勝ちもしいひんで
サウナあたりで
バツ悪そうにしてんの
ウチはなんとのうわかんねん

髪切って戻ってから
なんもゆわんで黙ってたんは
あんたがそれで
ちょっとは反省したらエエおもたから  

あんな
あんたに変わってもらわなあかんねん  

ちょっとでエエねん  

ウチはあんたのこと
全部ってゆっても
エエほどわかってるつもりやねんで
もう何年の付き合いやねんな  

あんたはウチのこと
全然ってゆっても
エエほどわかってへんねんな
もう何年つきあってんのん  

あんな
明日の朝
あんたが気まずそうにかえってきたらな  

あんたにいわなあかんことあんねんで  

あんたにな
ゆわなあかんこと  

だいじなことあんねんで

髪切ったわけ
ゆわなあかんねん  

いまな
あんたの好きな
鯖の味噌煮たいてんねん
生姜と葱がぎょうさん刻んであんのはな
鼻につんときたゆうて
あんたが言い分けしやすいようにや  

あんたにな
だいじなことゆわなあかんねん

長い髪はなぁ
ちっちゃい手が
おもちゃやっておもてな
ひっぱりやすいから  

せやから切ったんやって
あんたにゆわなあかんねん  

はよかえっといで
まってんで