3、再び吉林

  吉林に着いたが、駅は人でごったかえしており、到着する列車はどれも、ソ満国 境地区からの避難民が鈴なりで、客車は勿論のこと、その屋根の上にも、機関車に もおよそ人が乗れると思われるような場所すべて人でぎっしりと埋まっていた。 それらの人達は皆、手に全財産であろうトランク、風呂敷包み、木箱などを大事 そうに抱えており、その殆どが日本人である。 われわれはそんな騒然としている駅の構内に止めてある貨車の中で生活をした。 そのうち、あちらこちらから入る情報で完全に日本軍の敗戦を知った。 そして異国の地でのこれからの行く末について、貨車の中で考え込んだ。 何を考えているのか自分でも判らない内に涙が込み上げてきた。 隣で野村一等兵も泣いている。 「本当に日本は負けたのですね」と、しゃくりあげている。 だが、いつまでも泣いてはいられなかった。 私と将田候補生(群馬県出身)は、伝令として大鉄指令部へ出された。 初めて駅を離れ、敗戦後の町へ出た。 満人が持っているプラカードには日本の敗戦とソ連との友好が書いてあり、われ われに見せびらかすように町を練り歩いていたが、ただ見ているだけだった。 街角で、満人が餅粟の上に白い餡が乗っている菓子を砂ぼこりの中でのんびりと 売っている様子は、今の自分たちが置かれている立場とは余りにもかけ離れた別世 界の様に見えた。 大鉄指令部の中も騒然として、人の出入りが激しく、慌ただしい中に不穏な空気 が漂っていた。 私と将田候補生は、他中隊から同じく伝令で来ていた島崎候補生と用務のないま ま、今後の身の振り方について、逃亡か、捕虜になるか真剣に話し合った。 その結果、機会を見て逃亡することに決まった。


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