<ソ連抑留記>



  まえがき
 昭和15年から今日まで書き続けてきた日記帳に、昭和19年10月 から昭和22年11月まで、3年と2ケ月の空白がある。
 当時は“滅私奉公” の名の下に、戦争への批判もできずに役場から届 けられた一枚の紙切れで、それぞれの運命が決定されるとともに、国の ために、何もかも犠牲にしてきた時代であった。
  だが、今、静かにその頃を振り返って見るとき、それが耐えられない 程の悲しい思い出であっても、また生死を彷うような恐ろしい出来事で あっても、それは私だけに与えられた貴重な“青春の足跡(そくせき)” であり、 “若き日の日記” だと思っている。
  あれから既に半世紀の歳月が経っており、些か記憶も薄れてきたので、 今のうちに書き残しておきたいと思い、若干、時間のずれや思い違いが あるかもしれないが、もう一度あの頃の自分に返り、あの抑留当時の環 境の中へ舞い戻って、その折々に感じた自分の体験と行動を中心に、復 員時のメモと記憶を辿りながら、出来るだけ忠実に、当時の空白を埋め てみたいと思っている。
 それは私にとって、永久に“現存する過去 ”である。


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