10)食料の受領

ある日、ミッシャと4〜5人の兵隊と一緒にトラックで、ビースク駅の構内に ある野菜や穀物などを受領に行ったときのことである。 われわれが受領した品物をトラックに積み込んでいるとき、すぐ近くにいたロ 助の一人が、受領した食料の麻袋の一つをサッと担いで逃げしたので、 「コラー、泥棒!」と大声で叫びながら、皆で追いかけた。 やっと追いついて、その男から麻袋を取り返して、思わず、 「イビ、トゥバイヤーマーチ、ヨゥボネブリョウチ!」と、怒鳴ってしまった。 耳学で覚えたロシア語であるから、正しい発音かどうかは別として、意味は通 じたようで、周囲からドッと笑い声が湧いたので、回りを見た。 そこには大勢のロ助が、有り様の一部始終を見ていたのである。 その言葉は、日本人の云う“馬鹿野郎 より、もっと下品に女性の性を揶揄し て、相手を汚く罵倒する意味の言葉で、ミッシャから特に女性の前では云っては いけないと教えられていた言葉だからだ。 その罵声を捕虜が、ロ助に怒鳴りつけたのだから群集は大笑いである。 一人の中年のマダムが近付いてきて、 「おまえはその言葉を何処で覚えたのだ」と言うので、 「収容所のロ助に教えられた」と云ったら、苦笑し眉をひそめて去っていった。


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