7)狙 撃

  私も狙撃されたことがあった。 それはそろそろ作業隊が帰ってくる吹雪の吹き荒れる夕方のことである。 ワーシカ中尉が当直の日で、 「髭を剃るので宿舎へ行って剃刀を取ってきてくれ」と云うので、歩哨に私が外 出することを話しておくように頼んでおいて収容所を出たが、物凄く寒かったの でシューバー(防寒外套)の襟を立てて走り出した。 その日は積雪が30cm位あって、シベリア特有の薄暗い吹雪のため、視界が 20〜30mしか効かず、収容所を出てしばらくしたら、吹雪の音に混じって、 かすかに誰かの声が聞こえたような気がしたが、よく分からなかったので、その まま収容所の柵に沿った道を走った。 その途端、マンドリン(自動小銃)の狙撃を受けたのである。 瞬間、本能的に雪の上に突つ伏した。 耳の横を、“プチュン! プチュン! と音を立てて、雪にパッパッと弾が突 き刺さる、もう必死だった。 「オ−イ、ピーセルだ、村井だ、撃つな!」 恥も外聞もなく何度も大声で叫ぶうちにやっと撃ち止んだ、今度ははっきりと 、「ストイ!(止まれ)。クトー!(誰だ)」と歩哨の声。再度、 「ピーセルだ」と大声で怒鳴ると、どうやら分かったようで、 「オ−、ピ−セル」の声にホッとすると同時に、恐怖のため膝ががくがくと震え てなかなか止まらなかった。 間もなく銃声を聞き、駆けつけて来たワーシカ中尉から 「済まなかった」と、何度も謝まられたが、結局歩哨への連絡を忘れていたため で、もし1発でも当たっていたらバラビリャンカの白樺の丘にある無縁墓地に、 亡き戦友たちと一緒に葬られていたわけで、それを思うと謝られて済むものでは ないと、落ち着くほどに腹が立った。


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