RIP
女の子は砂糖と少しのスパイスで出来ている。
そう歌う詩を読んだのは随分昔の事だが、今にしてマイケル・マイヤーズはその通りかもしれないと思うことがある。
ふわふわの乳房、きめ細かな白い肌、フルーツのように盛り上がった尻、細い柔らかな指先、全てが甘ったるくて酷く脆い。
「あうぅっ…!うっ、ううぅっ…」
乱暴な愛撫に耐えかねて少女が咽喉の奥から泣き声を漏らす。
その声に若干の艶が帯びている。
すっかり雌の体に成長しやがった。
姪を腕に抱き、マイケル・マイヤーズは胸の内で暗く笑った。
指を這わせた女性器は彼の愛撫を受けてすっかり潤っている。
薄く生えた陰毛が濡れて男の指に絡みつく。
誘っているのだ、とマイケルには分かった。
少女の開花した雌の本能が、マイケルを雄として迎えたがっている。
マスクを外してさえしまえば姪は自分を怖がらなかったし、むしろこの遊びを気に入り悦んでさえいた。
小さな手足を伸ばしてマイケルを抱きしめ、愛らしい顔を愉悦に綻ばせ、実に可愛らしく啼いては彼にもっととねだった。
しかし少女がまだ幼いうちはと児戯に甘んじていた。
お互いの敏感な部分を擦り付け合うだけの性戯。
それなりに満たされていると自分では思っていた。
そんな彼にとって、彼女に拒絶される日が来るなどとは青天の霹靂だったのだ。
全く無垢だった少女についに女の徴が現れた。
そこでやっと生理についての知識を得たらしい。
そして伯父との行為の意味についても。
セックスは結婚する男女が行う営みであり、本来はその男性器を女性器に結合させて繁殖を目的とするものである、と。
まあ初心者にかいつまんで説明するとすればこんなところだろう。
その話に元から臆病な少女はすっかり竦み上がってしまった。
更に伯父と姪の婚姻は法律で認められていない、禁忌(タブー)なのだと誰かに吹き込まれたらしい。
無自覚に男と自分がそんな関係になっていたことに少女は吃驚した。
生理が始まって最初の3日は腹痛が酷いとかで少女は寝込んでしまった。
ようやくベッドから出て来た4日目も、血が止まった5日目も、少女はマイケルの眼から見て明らかに彼を避けていた。
顔を合わせても、朝の挨拶もそこそこに逃げ出してしまう。
これには青い血が流れてるようなマイケルの心もざっくりと傷付いた。
少女の中で男はまた化物に逆戻りしてしまったらしい。
彼女を手に入れてもうすぐ5年になる。
その間、マイケルは平静を装い、狂気を潜め、出来るだけ少女を傷付けない様に努めてきた。
血が見たい衝動が抑えきれない時は、自分を傷付ける事さえあった。
全てはジェイミーの暖かな存在を失いたくないためだった。
彼女のおずおずとした微笑や、無垢な好奇心のくすぐったさに、マイケル自身がいつの間にかもたれ掛かり、その凍えた魂を慰めてきた。
5年もだぞ!
5年の間にジェイミーはすっかり手足が伸び、健やかに少女らしく成長していた。
やっと乳房もクリトリスも形がはっきりして、初潮が来た事自体遅いくらいだった。
そんな姪を見守りながら、マイケルは献身と言ってもいいほどに自分を抑えてきた。
凶暴に暴れだす欲望で彼女を破壊してしまう恐れから、少女に触れる時はいつでも手加減に心を砕いた。
柔らかな肉に全てを埋めてしまいたい欲求と戦い、毎夜少女の性器の入り口の手前で精を吐く。
やっと潤いを覚えた彼女の花芯にさえも、指で浅くなぞる事以上はできなかった。
いつかこの子が大人になる時まで待てばいい。
そう楽天的に信じていた。いや、信じようとしてきた。
少女の注いでくれる愛情がこの先もずっと変わらないことを。
自分は彼女の「マイケルおじさん」なのだから。
そしてこの5年、俺はただの間抜けだったってわけだ!
気まぐれな少女の愛情に縋りつくなど、どうかしていたのだ。
全くもって自分らしくない、何という愚かさだとマイケルは自分を罵った。
病院の医師達も、小さな世界に閉じこもった他の患者も、普段自分を畏れ崇める狂信者も、その誰もが自分を笑っているような気がした。
ジェイミーさえいなければ相手の首を捻り、頭蓋を砕いていた事だろう。
ジェイミーさえ見ていなければ、マイケルはいつでも悪魔に戻る事が出来るのだ。
ジェイミーが彼の良心の代理であり、彼の鎖の本質であり、仮面を脱いだ後も彼を守る全てだった。
だが、今度は彼女の前でその偽りの皮を剥ぐ事になりそうだった。
「おじさん、もうこんな事止めましょう。とってもいけないことなのよ」
お休みのキスをぎこちなく交わした後、ジェイミーの体を弄ろうとするマイケルの手を止めたのは初潮が済んで2日目の夜だった。
寝台に腰掛けマイケルの手を握り締め、正面から向き合うとジェイミーはそう言った。
明るい電気を嫌うマイケルのために、夜はいつも蝋燭を灯してある。
明滅して踊る金色の光が少女の顔を照らした。
一方、影になった男の方は闇の中から少女を見つめていた。
白い肌が紅く輝くのに対し、少女の瞳は暗く沈んでいる。
悲しいのだ。
この子も俺との交わりを望んでいるはずだから当然だ。
マイケルは言葉で返す代わりに首を傾げた。
求め合っているのに、何を理由に諦めなければならないのか。
俺は抱きたい、お前を抱きしめたい、化物でなく一人の男として。
怖いのなら幾らでも優しく出来る、お前だって知ってるじゃないか。
だがジェイミーは頭を横に振った。
「こんなこと、神様がお許しにならないわ」
手の中の男の太い指に白く細い指を絡める。
「私、あなたを守りたいの。あなたに幸せでいて欲しいの」
ジェイミーは俯いた。その結果マイケルの顔に現れた変化を見逃すことになった。
無表情な静かな顔に、その虚ろな瞳に、突然怒気の炎が吹き上げたのを。
勝手な事を!
マイケルにとってジェイミーとの全てが彼の幸せだった。
生きていて初めて手に入れた平和な安らぎ。
自分を醜いと罵る必要がない安心感。
それなのにそのジェイミーは自分を置き去りにしてどこかへ行こうとしている。
自分を捨てようとしている。
彼女の母であるあの妹のように。
その事実が怒り狂っていたマイケルに冷や水をかけた。
この子はあの妹の血を受けている。
この子もあいつと同じことを俺にする。
自分を忘れて、自分の手の届かないところに行ってしまう。
過去にあったのと全く同じ事が自分の目と鼻の先で起ころうとしている。
マイケルは心底慄いた。
「マイケル?どうしたの?」
手に込められた力から彼の緊張を察してジェイミーは伯父の顔を覗き込んだ。
逆光な上に長い髪に隠れて影になりその表情はよく見えない。
代わりに微かに彼の体が震えているのに気付く。
段々息が荒くなっていく。
前にもこんなことがあった。
彼が何かに動揺しているサインだ。
不味い。
「マイケルおじさん、落ち着いて、私の声が聞こえる?」
だがその声はマイケルにはもはや届いていなかった。
ジェイミーがいなくなってしまう。
ジェイミーが俺を捨ててしまう。
ジェイミーが俺を忘れてしまう。
ジェイミーの愛情を失えば、マイケルは今度こそ本当に天涯孤独だ。
復讐心も憎悪も矛先を失って、最後に残ったマイケル自身を滅ぼすことになる。
ジェイミー、ジェイミー、ジェイミー、ジェイミー…
5年もの歳月が、その間に育んだ少女の愛情が、彼の冷たい心に忍び込み、すっかり虜にしていた。
それを再び失えば、もう二度と代わりのものなど見つけられないのだ。
「おじさん、おじさん!」
焦点の合わない目が声のする方に向けられた。
その真っ暗な闇を覗き込んでジェイミーは思わず怯む。
底なしの穴が二つ、目があるはずの場所に穿たれている。
思わず尻込みした体が後ずさった。
そこに素早く男の体が飛び掛ってきた。
逃げ出す腕を捕まえ、強く引っ張ると袖が肩口から破れた。
そのまま横へ転がす。
ばすんと音を立て、ジェイミーは寝台の上に仰向けになった。
長い髪が大きく広がって波打つ。
「ふっ…!」
思わず息が詰まった。
息を整える間も無く、男の薄い唇が重ねられる。
「むんっ…、うううう、うーっ!」
もがけども咥内に侵入してくる舌から逃れる事はできない。
さらに身体を上から押さえ込まれる。
力いっぱい暴れるが、覆い被さった男の体はビクともしなかった。
逆に脚を広げられ、その間に彼の体が割り入って来る。
よく慣れた匂いが、肌の熱が、ジェイミーをすっぽり包んでしまう。
駄目、こんなこともう駄目!
そう頭では理性が叫ぶのに、舌先で歯列を弄られ、舌を吸われ、唇を甘く噛まれると体が反応してしまうのを止める事ができない。
「ふぁっ、あっ、…ああああっ!?」
啄ばんでいた唇を離すと、伯父は今度は夜着の破れ目から腋に吸い付いた。
「やぁ、め、そんなとこ、あんっ…!」
幼い時にはくすぐったいばかりだった場所だが、今はすっかり甘い疼きを与えてくれる。
薄く生えた毛を分けるようにざらざらした舌でべろりと舐め上げられて、ジェイミーは小さく身震いする。
そうする間に伯父の右手が掴んでいた腕を放し、今度はジェイミーの体を抱きしめるように背中へと回った。
「…ふっ!」
服の上から硬い指先が微かに背中の中央をなぞって下へと伸びる。
ゆっくりと曲線を描いて臀部の双丘に辿り着くと、その谷間を往復した。
「ふぁあんっ、やあ、あ…っ!」
滑らかな臀部を掌で包み撫で上げる。
少女の揺れる腰が回された逞しい腕に切なげに擦り寄る。
それを振りほどくようにして今度は少女をころりとうつ伏せにすると、長い髪を掻き分け、白いうなじに舌を這わせた。
「ひっ…!」
耳の孔にまで舌を捻じ込まれてジェイミーは小さく悲鳴を上げた。
だが、恐ろしいのと同様に快感が少女を包み込んでいく。
耳朶に軽く歯を立てる伯父の呼気が熱っぽく吹きかかる。
駄目、駄目、駄目!
熔かされて行く理性が声を張り上げる。
だがベッドに押し付けられた腕は男の愛撫を振り払う事ができず、押さえ込まれた脚は逃げ出すことも叶わない。
何より、理性とは裏腹にジェイミーの心がこの行為を悦んでいた。
もっと触って、もっと気持ちよくして、もっともっとおじさんを感じさせて。
ジェイミーは幼い時から伯父が構ってくれるこの「遊び」が好きだった。
普段は恐ろしいほど全く無口なマイケルと心で繋がれる気がした。
孤独な日々の中、積もっていく寂しさを忘れる事ができた。
そして一緒に遊ぶ時の伯父は、限りなく優しく自分に応えてくれた。
自分たちがしているのが「エッチな事」と言う認識は何となくあったが、はっきりと意味が理解できない伯父が寄せてくる情熱に戸惑いながらも、それを心地良く受け入れるだけの心の準備はこの5年の間に出来ていた。
だからその関係が禁忌であると知って、酷く悲しかった。
ジェイミーは普段良い子だったからこそ、間違いだと指摘されてうろたえた。
こうしていて楽しいと思うことが悪いことだなんて知らなかったんだもの…
一生知らなければ良かったのに。
お母さんになる準備なんて来ないで、ずっと子供のままで、この不思議な伯父と一緒にずっといられたら良かったのに。
それはもう叶わない。
自分の体が変化していくのを止める事はできない。
同時に、ジェイミーは自分の心が変化している事に気がついた。
あの恐ろしいばかりだった伯父に、こんなに心を寄せるようになっていた自分に。
母を失い、義姉を奪われ、外の世界から切り離され、5年もの間この閉鎖病棟に閉じ込められてるのは、本をただせばこの男のせいで、憎むべき仇のはずなのに。
…私、この人が嫌いになれない。
それこそがジェイミーの天性の力に他ならなかった。
人を想う優しさが芽生えさせたほのかな恋心。
その羽毛のような暖かさを剥ぎ取られて、ジェイミーは寂しさに震えた。
零れる涙が氷のように頬を伝った。
続く
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