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 第5章 夏の日差しT
 
 1週間がたった。
 夏というのは、1日過ぎるのが速い気がする。この暑さのせいかもしれないけど。
 あれから、トールとは会っていない。なぜ?と聞かれれば、会う用がない、と答えるだろう。何か、きっかけがあれば会いに行くのに、わたしは、そのきっかけを見つけることができないでいた。
 
 「明日、プールに行かないか?」
 昨日の夜、電話でトールが言った。
 「他に誰かいるの?」
 ふたりで行きたい。
 「いや、いないけど。ヤか?」
 「ううん」
 電話なのに、首を横に振るわたしがいる。
 「じゃ、昼ごろ、お前ん家に行くから」
 「うん、待ってる」
 受話器を置く。トールとの会話を思い出して、以外にわたしって、素直だなぁ、と勝手に思ったりする。
 
 ベッドの上に水着を置いてみる。上下お揃いの黄色い、ひまわりの模様がプリントされてある。今年初めて、ビキニを買った。似合う似合わないは別にして、この水着を見せる相手がトールになるとは思わなかった。
 
 約束通り、わたしはお昼過ぎに、玄関の外で待っている。ここはまだ、太陽の光が当たらないから、涼しいけど、日なたの所はきっと熱いんだろうなぁ。暑いじゃなくて、熱い。
 トール、歩いてこないかなぁって思ったりする。そうすれば、わたしの自転車でふたり乗りで行くことができるでしょ?後ろに座って、トールの腰に腕を回してね・・・、そう、あの日みたいに。
 その期待は、あっさりと崩れてしまう。何も考えていないトールの顔を見て、
 「バカ」
 と思わず言ってしまった。自転車に乗っているトールがちょっと怒ったけど、すぐにいつもの笑顔に戻っていった。
 
 そう言えば、去年はお兄ちゃんと一緒にこうやって、自転車をこいでたっけ。
 お兄ちゃん、楽しく過ごしているのかなあ。会いたいけど、まだ会えない。
 「どっちの道だっけ?」
 「え?知らないよ」
 30分あれば到着する距離なのだが、夏しか行かないから、わたしもトールも道があいまいなのだ。
 「こっちじゃない?」
 わたしが言うと、
 「じゃ、こっち行こう」
 とトールが、わたしが言った道とは逆の方向に走り出す。なんなのよ。
 「ちょっと待ってよ!」
 
 それから30分。ようやくわたし達は市民プールについた。結局、家から倍の1時間もかかっていた。
 「やっぱり、わたしが言った道でよかったんじゃないの?」
 「そうかもしれない」
 「もう」
 本当に、もう!、だった。
 
 入場料300円を払って中に入る。入るとすぐ、左が男、右が女と更衣室が分かれている。
 「ほら、早く着替えてこい!俺、そこで待ってるから」
 「トールは?」
 「俺はシャツを脱ぐだけだから」
 「・・・わかった」
 わたしは更衣室に入って行く。
 
 トールの裸を想像して、急に恥ずかしくなった自分がいた。なんでだろう。今まで、そんなこと、一度もなかったのに。
 ロッカーにバッグと着替えを突っ込む。実は、わたしも服の下に水着を着ていたのだ。ズボンを脱いで、ロッカーに突っ込む。わたしは水着の上にシャツという姿になる。ちょっと、色っぽいかな。
 
 ロッカーにカギをして、更衣室を出る。やっぱり、そこにトールがいた。
 「おまたせ!」
 「おっ、早いな」
 持っていたタオルと財布をトールにわたす。
 「腹、へってねーか?」
 「うん、へってる」
 昼過ぎに家を出たので、わたしもトールも昼食を食べていなかった。
 「あっ!」
 「ん?どうした?」
 黙ってしまったわたしをトールが覗き込む。
 「リオ?」
 「ううん。なんでもない」
 「ラーメンにしよっか?」
 「うん」
 ごめんね、トール。お弁当作ってあげればよかった。ごめんね。
 
 プールや海で食べると、なぜかとってもおいしく感じるラーメンをトールと一緒に食べて、早速、プールに入ろうとプールサイドにトールのバッグを置く。ここなら、隣にプールを見てるおばあちゃんがいるから、盗まれることはないだろう。
 
 
 夏の日差しU
 
  いきなり、トールがシャツを脱ぐ。当たり前だけど、トールの裸が目の前にある。学校のプールの授業で見たことはあるけれど、その時のわたしの気持ちと、今のわたしの気持ちは、全然違う。
 筋肉がうっすらと見えて、無駄な肉がない体。
 わたしは、ドキッとした。
 「リオ、入ろうぜ」
 「うん」
 シャツを着たままは入ろうかと思ったけど、替えのシャツを持ってきていなかったから、結局脱いだ。
 私が今着ている水着は、黄色い、ひまわりの模様がプリントされているビキニ。トールが、どんな反応するか、知りたいような、知りたくないような。
 「リオ・・・」
 言わないで、でも、言って。わたしはずっとうつむいたままだ。
 「やっぱり、小さいなぁ」
 うつむいたまま、自分の胸を見る。やっと、膨らんできた胸を見る。別に、大きくても小さくても、どっちでもいいや。でも、
 “バチィィン”
 と同時に、トールの叫び声がする。わたしは思いっきり背中にビンタをしたのだ。
 「エッチィ!」
 「だって、ホントのことじゃないかよぉ」
 「なに?まだ言うか!」
 わたしは右手を大きく振り上げる。
 「トールの背中、一足早く、秋のもみじだらけにしてあげようか?」
 「わー、ごめんなさい」
 トールが走り出す。
 「待てー!」
 わたしもトールを追いかけて走る。
 “ピピッ”
 トールが止まって、わたしも止まる。
 「プールサイドは走らない!」
 監視係のお兄さんが怒鳴った。
 「ごめんなさい」
 トールの声と重なってしまい、お兄さんが少し笑った。さっきのおばあちゃんも笑っていた。
 「あれ?松下君にリオ?」
 その声を向くと、ユカとカオルがいた。
 「なんで?」
 なんで、ユカとカオルにここで会うの?
 「なんで?じゃないわよ。今日、リオを誘いにカオルと一緒に家に行ったのよ」
 「それ、いつ?」
 「んん、9時半ぐらいかな?」
 ああ、その時間はもう両親は仕事でいなかったし、わたしも寝てた時間だ。だって、ドキドキして、なかなか眠れなかったんだもん。
 「で?」
 「で?って?」
 「ああ、もう。松下君に聞く」
 カオルも興味があるような顔をしている。
 「リオと付き合ってるの?」
 「ああ、うーん」
 どっちなのよ、トール。
 「わかんない」
 え?そうなの?
 「え?そうなの?でもこれって、付き合ってるって言わない?」
 ユカはどうしても、そう言わせたいのだろうか?
 「行くよ、ユカ」
 黙ってしまったわたし達を感じたカオルが言う。
 「ジャマしちゃ悪いでしょ、ほら」
 ユカが何か言い足りなそうだったけど、カオルの言う通りにした。
 「じゃあね、また今度、リオの家に行くね」
 「うん」
 「じゃあね、松下君」
 「おう、じゃ」
 
 ユカとカオル姿が見えなくなるまで、わたしとトールは黙ったままだ。そして、先に口を開いたのはわたしだった。
 「ごめんね、トール・・・」
 トールの背中をさすって言う。
 「いや、俺の方こそ悪かったな」
 首を振る。トールから見えないけど、首を振った。
 「それに」
 それに?そう思ったら、トールが振り向いた。
 「似合ってるんじゃないかな?その水着」
 ・・・・・。
 バカ。バカ、バカ・・・。
 トールをクルッと回して背中を押して、プールに突き落とす。またお兄さんに怒鳴られたけど、そんなの、おかまいなしだ。
 「バーカ」
 トールが笑っている。わたしも笑う。ゆっくりとプールに入る。
 「俺達、ゆっくりで、いいよな?」
 「うん」
 
 それから、閉館時間まで泳いだ。いっぱい話して、いっぱい笑って、いっぱいケンカして。トールの言った通り、ゆっくりでいいんだ。わたし達は、まだたっぷり時間があるんだから。だから、焦る必要はない。ゆっくりと、ゆっくりとね。
 
 「キレイ・・・」
 「だろ?」
 トールが隣にいて、ふたりで夜空を見上げている。
 ヒュー・・・。ドーン。
 うおお、と周りの人達が声をあげてパチパチと手を叩いている。ドーンと響きわたるたびに体の奥に伝わってくる。
 「キレイ・・・」
 もう一回言った。何回言ってもいいだろう。少しだけトールに近づく。去年はユカとカオルもいたけど今年はトールとふたりきり。なんか不思議な感じがした。
 「今日、ふたりとも呼ばなかったのか?」
 「ううん、ちゃんと呼んだよ。カオルは夏期講習で、ユカのほうは田舎に帰ってるんだって。カオルが言ってた」
 「ふーん・・・」
 ヒュー・・・。ドーン。
 「わたしだけじゃ、ダメ?」
 花火を見ながら言ってみた。
 ヒューヒューヒュー・・・。ドーンドドーン。
 「んなわけ、ないだろ」
 トールも花火を見ながら言う。今、わたし達は同じ光を見ている。
 「もうちょっと、寄っていい?」
 「え?」
 「ちょっと、寒くなってきちゃった・・・」
 本当の理由は、それだけじゃないんだよ、トール。
 
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