汎用生物兵器1
 12 爆破
 
 3年後
 結局、三年前のあの事件はタイムリミットまでになんとか艦隊と司政官を説得(暴力による)で片づけたものの、あの時以来ドリッカーはmother 2を目の敵にしている。・・・のだがあれ以来mother 2にあうような事件は一切起きていない。
 ドリッカーの怒りも次第に和らぎ、今では大体発作的に憤慨することはなくなっている。
 三年もの間戦いから離れていたが、何の事件も起こらない上に艦隊、司政官ともに全く動かず、何の進展もない。
 ゼロも、そしてドリッカーも、力を使わなくなっていった。ローズもここ一年くらいは発明に没頭することはなくなり、エックスも人間の姿で毎日を楽しんでいる。アイリスにいたっては、最近ゼロと一緒にいることが少なくなっている。彼女は自室にこもって毎日ぼーっとしているだけだ。
 戦いのころの記憶が、だんだんと薄れていくこと。それにより自分たちが一切任務を果たせないことを、ゼロは内心歯がみしていた、いい加減に動き出さなければ、ライトの立てた計画は本当に崩壊してしまう。自分たちの精神と共に・・・・・。
 体内のナノマシンは、その任務が出来なくなったと判断した個体を瞬時に跡形もないように消す。存在しているということが認められなくなるのだ。
 誰もそれを知らない。知ってはいけない。ライトの願いを叶えるのは、あくまで彼等の意思次第なのだ。使命・・・・を負わせるというより、任務遂行を促す・・・。ライトはあくまでそのようなやり方にこだわりたかった。命令、強制、義務、使命などの言葉を、彼は生涯嫌悪し続けた。本人の意思に反していることは、なるべくやらせたくはない。しかし、それは彼等が自らの信念、正義を持ってからの話だ。
 結局、自分としての方針がなければ、自由にやらされてもわけがわからなくなる。優柔不断になりがちになり、結局つまらない結果だけが待っている。
 正義を持つために親が子を育てる。だんだんと育ち、自らの正義を持ち、それが親と噛み合わなくなっていく。それが世に言う反抗期だ。
 完全に自らの正義を持った子は親から独立していく。それが一人立ちだ。人間はそのサイクルを、延々と繰り返す。繰り返す必要がある。
 正義を持たないこどもは、他人から押しつけられなければ行動できない。何でもかんでも指示を受けたがる。考えることを知らない、そんな人間になる・・・。
 そんな人間には、絶対になってはいけない。なって欲しくないのではない。なってはいけないのだ。それが決定的な違いとなる。結局、願いなどというものも優柔不断なものだ。願う・・だけ、望むだけで、決定的な意志力を欠いている。
 ライトは、その手の話に妙に律儀な男であった。
 そして、自らの子供達に持たせる正義がけして法に縛られるものではないことを願って・・・・・。
 願うことしかできない、自分すら嫌悪し、そしてあくまで願いにしかならないその願いを、彼等が叶えることを信じるしかない。それはとても無責任なことだ。無責任すぎて泣きたくなるぐらいだ。若い頃、学友達に対し自分は絶対に無責任な行動をしない!といった自分の姿を思い出し、ライトは生まれて初めて自分を軽蔑するようになった。嫌悪が軽蔑に、ただ嫌いなのではなく、小さな自分を見下すような・・・・・・。
 そしてその正義を掴みかねているのが、ドリッカーなのだ。正義を持つまでの課程で他人のあらゆる正義を否定し、自らの正義が正義ではない形で生まれてくるのを恐れている。恐れることは自らを腐らせ、ダメにしていく。
 これでは計画の中心人物にはなれない。SYSTEM ERRORだ。
 それになってしまえば、完全にエキストラとして生きていくことになる。
 すでにゼロ、ジュノもエキストラと化している。しかし、彼等はそれでもいいと思った。自分たちにはそれを成すべき環境がなく、器を作り出す能力を自らが養うことが出来なかっただけなのだ。何も恥じることはない。責任者は誰もいない・・・・・。
 
 「兄さん。」
「んー?」
 のろのろと振り向くドリッカーに、ローズは呆れてしまった。なんてていたらくだろう。この三年で思いっきりだらけてしまったようだ。
「兄さん・・・・・もう少しちゃんとしたら?」
「とはいってもな・・・・結局今の所あの野郎も動いてないし、いつだったか俺に突っかかってきた司政官も全く音沙汰なしだ。大体この状況で緩むなって方がおかしいんだよ。」
 ぶーたれた子供のようにドリッカーが呟く。全く十七にもなって・・・・とローズが内心毒づくのは納得できることだ。しかし、ドリッカーの言い分も一理あるような気がしないでもない。毎日が刺激なく、ただ生きているだけのような生活だ。
 しかし、このような状況だからこそ緩んでいては意表を突かれるのではないだろうか?少なくともmother 2ならば、また「力を与えるため」の試練と称してとんでもないことを嗾けるだろう。
 ここは一発、鬼畜にならなければと、ローズは思い直した。
「いつ突拍子のない事件が起こるかわからないのよ!相手があの女だったとしたら、緩んでる今を逃さない手はないじゃないの!」
「・・・・・・確かにそうかも知れないが、結局今はそんなことを気にしていても何にもなりはしないさ。緩んでいようがいるまいが、状況の変化に対応できないような人間は所詮戦闘員としての功績を残せるわけがない。緩んでおけるときに、緩んでおくってのも戦いの知恵だぜ。」
「屁理屈をこねない!ゼロと模擬戦くらいやってきなさい!!」
 そう突き放したものの、ドリッカーがかなり成長していることが今の会話から見て取れた。がむしゃらに突き進むだけではなく、待ちながら相手の出方をうかがうということを覚え始めている。どうやら、歳相応に落ち着いてきてはいるようだ。
 もっとも、その気配を全く見せないところがドリッカーのドリッカーらしいところだ。こうやって相手を煙に巻けるようになれば、彼の性格も損ではなかったというところだろう。
 
 ローズにたたき出されたドリッカーは溜息をつきながらもゼロを模擬戦に誘うことにした。そういえば、最近重刃もバスターも埃をかぶったように全くと言っていいほど使ってはいない。よくよく考えれば、あれからすでに三年という月日がたっているのだ。たった三年という月日の考え方は、それがとても多忙だったものに適用される。しかし、無駄とも言える毎日に月日を投じてきたこの3年間は、はっきりいってくそ長いのだ。
 ゼロが出てくるまでに、バスターを一発撃ってみることにした。
 自分特有の黒い光が、バスターの中で蠢いているのが見て取れる。本当にみれるのではない。感覚的にそんな気がするのだ。現に、発射される瞬間は明らかに黒としか思えない光が彼の目に届く。しかし、黒い光などは存在しないはずだ。
 程々にチャージされたバスターが、人類が存在していた頃の名残を見せるビル群に向かって飛んでいく。飛んでいくという表現は少しおかしい。撃った瞬間には着弾して大爆発を起こしているからだ。
 久々にその威力に目を見張り、次に重刃を強く握る。
 周りに現れる黒い空間・・・・・この中では自分は重力を自由に制御できる。化学では理解不能な、最新鋭の兵器・・・・。
 その球体を先程吹き飛ばしたビルの残骸に飛び込ませ、その中央へと重力を加えていく。瞬く間に残骸はぐしゃぐしゃに固まり、自分の方へと高速で飛んでくる。
 グラビティブラストがそれを襲い、歪み、ひしゃげた後、爆発、四散した。
「・・・・勘は落ちてないみたいだな。」
「そうかな?俺にはかなり反応が遅れているように思えるぞ。」
 そしてとどめとも言わんばかりの赤き光が、ドリッカーのすぐ横を通り抜けて残ったビル群を瞬時に吹き飛ばした。さらに振り返ったドリッカー本人にも赤き炎が襲いかかってくる。
 ゼロだ。
 彼の使う兵器の名を、炎刃と言う。
 無論のこと、炎をベースに戦う兵器だ。その戦法はほとんど不明なのだが、それゼロ自身が炎刃を使う必要がないほどに強いからだ。
 突進してくるゼロが、微動だにしない動きでドリッカーの方へと突き詰める。
「チィッ!」
 何とか側転でそれをかわし、バスターを向けた場所にはすでにゼロはいなかった。
「なっ・・・!?」
「甘い!!」
 瞬時にゼロが後頭部に向けてはなった回し蹴りが、ドリッカーを2、3メートル吹き飛ばした。うめく間さえ与えない攻撃だ。
「弱すぎるぞ。」
 ケリを入れられたイライラから、勢いをつけて飛び上がると、ゼロはすでにドリッカーの顔面にバスターを突きつけていた。
「チェックメイトだ。」
「・・・・・だからって後頭部蹴るんじゃねえよ・・・・・。」
 頭をさすりながら愚痴を叩くドリッカーに、ゼロは口元を少しだけほころばせる。
「俺に一当てくらいは入れられるようになれよ。そんな実力じゃ、ジュノには勝てない。」
「あのやろうに勝っても別に嬉しくも何ともないがね。」
 今の一言は少し頭に来たらしい。ドリッカーから放たれているものが、イライラから殺気へと変わっていく。いつまでたっても激しい感情表現しかできない奴だ。素直すぎる人間もかなり問題ありだな・・・・・。などと考えてみた。
 ほころんだゼロの口元が、さらに緩んでいく。ついには珍しく声を立てて笑ってしまった。
「な、なんだよ・・・一体。」
 ドリッカーは状況を把握できないだけに、呆けていることしかできない。しかし、ゼロにとってはこの素直すぎる鈍ちんがなかなかに面白かった。計画に巻き込むには、なかなかに惜しい人材だった。
「済まなかったな。こうも笑ったのは久しぶりだよ。」
「だから何で笑ったんだよ!」
「ちょっと・・・・な。」
 ゼロが声をあげて笑うってことは相当おかしいことがあったんだな・・・・・。と内心ドリッカーは毒づいた。自分がゼロの最もおかしい題材にされているのだ。一体何がおかしいのだろう?自分は別にそんなことをしたつもりはないのだが・・・。
 ときどきだけ見せるゼロの変な表情に違和感を抱きながらも、ドリッカーは何となく自分もおかしくなってしまった。屈託のない、乾いた笑いが荒野に響く。
 この荒野が、生物の住める草原と変わってくれるのだろうか?彼等は一体自らの使命をいつ果たす気になるのだろうか?
 今や残骸にしかならない三角ビルの屋上から、黒い衣服に身を包んだmother 2は思った。彼等に動く気がないのならば、自分がそれを促す必要がある。だが・・・・・。(意志に反した押しつけをするってのは・・・・・ちょっとね・・・・)
 いや、そもそも促すのだから別に強制するわけではないのではないか?
 彼女はこんな手段を望んでいるわけではない。だが、このまま放っておけば彼等が動くとは到底思えない。
「動いてみよっか・・・・・・。」
 あまり気は進まないが仕方はないだろう。少し可愛そうだが、これで彼等がもっと問題に真剣になってくれるのならば・・・・。
 心を鬼にして計画を実行するのが、真の優しさなのではないだろうか?いつまでも放っておけばそれは単なる甘やかしでしかない。
 この計画に甘えは許されないのだ。
「よし。動いちゃおう。いくら何でもゼロが歳を取りすぎるのはね・・・・。」
 動くと言うことは、つまりこの壮大なるプロジェクトの始動にあった。
 エックスは部屋で休ませてあるし、アイリスはゼロとドリッカーが出撃して以来、部屋に閉じこもりがちだ。理由を聞いても曖昧な返事しかしてくれない。見当はついているが、まあどうでもいいだろう。
 問題は、自分が何故一人でこうしてぼーっとしてなくてはいけないかだ。
 部屋の中で思いきり大きな溜息をつき、ローズは寝転がった。
「これって一言で言うと退屈って奴なのよねえ・・・・・。」
 言ってて虚しくなる。
「退屈が解消されるようなことはないのかな?」
 そう言ったところで、自分の部屋につながる階段を登ってくる音が聞こえる。この足音は、ゼロの存在感のない音でも、ドリッカーのありすぎる音でもない。何となく力強いが、それでありながら不思議な自然さがある。
 どちらにしろ、珍しいお客様であった。だが、ローズにはその予想はすでに付いている。天才エンジニアは、こんなことにも優れていなきゃいけないのかな・・・・。なんて思った。
 足音は自分の部屋の前で躊躇したように止まった。あの人物がこんな所で躊躇するなんて・・・・・と少しローズはそれに失望した。
「どーぞ。」
 そう促すように言ってみると、その人物が入ってきた。
 入ってきた人物は、戸口で固まったようにこちらを見ている。なにせ、ローズは全く驚いた様子を見せてはいないのだ。
「そんなとこにいないで、座ったら?」
 とローズはその人物に対し、おいてあるもう一つの椅子の方を指さした。
「驚かないのね。」
「ま、予想済みだったからね・・・・。こんな所にわざわざ来るなんて、何か理由がおありなんでしょ?mother 2さん。」
 腰掛けた彼女は、ローズの挑発するような口調に苦笑した。
「あまりその名前は使われたくないけどね。」
「じゃあなんて呼んで欲しい?」
「・・・・・今は・・・・アリア。そう呼んで頂戴。」
 アリアか、結構しゃれた名前じゃない。とローズは感心した。
「用件だけ手短に言うわ。」
「どーぞ。」
「言いにくいんだけど・・・・・計画に協力して欲しいの。」
「うんうん。」
 聞き流す・・・・というより、そんな素振りを見せているだけね。とmother 2はローズを測った。かなりの策略家だった。無関心な風を装い、大事なところだけはしっかりと聞いている・・・・・やはり惜しい人材だ。
「死んで欲しいの。」
「ふーん。」
「嫌じゃない?」
「どーして?」
 平然と聞き返されたことで、彼女は逆に黙ってしまった。
「まあまあ。理由ぐらい言ってからってことよ。」
 きわめて相手を煙に巻くのが得意なようだ・・・・・というより、性格が悪いだけなのかも知れない・・・・と彼女は苦笑した。
「今から計画の全容を話すから・・・・。あなたはそれに従ってくれればいい。」
「いいわよ。どーぞ。」
 彼女は、ローズを恐れ始めていた。ローズが自分を見る目が、恐ろしいくらいに落ち着いていたからだ。装っているのではない。
 彼女はローズに計画を話すときに、いきなり殺されはしないかと少しだけ危惧を抱いた。
 「動きが大きい!」
 重刃から造られた刃が、空を切ることで、ドリッカーの体勢がいきなり崩れる。動きが大きすぎて次の連携に回すことが出来ない。
 さっきからゼロには一発の攻撃も入らない。連発するバスターも、回し蹴りも、重刃の空間でさえゼロを包むことは出来なかった。ゼロが攻撃を全くしていないところがドリッカーの判断力をさらに低下されている。
 無駄な動きの多すぎるその攻撃は、ゼロのコンパクトで力を受け流す攻撃とは全く異なる。単にドリッカーの技量が低いだけなのだが、それでもその攻撃法はゼロとは異質なのだ。
「おおおおっ!!」
 雄叫びと共にゼロの懐へと飛び込み、突き上げるような正拳を叩き込もうとする。だが、ゼロはそれを瞬時に横になって手で受け流し、さらに軽快なステップでドリッカーの腹に正拳を叩き込む。
「ぐはっ!」
 ドリッカーに倒れ込む間すら与えず、ゼロはその後方に回ってドリッカーを羽交い締めにした。
「闇雲に突っ込んでくればいいってわけじゃあない。逆に自殺行為だ。」
 まるで機械のような無駄のない動きと、流麗な動作で繰り出された連続技が、相手を即座にレッドゾーンへと引き込む。
 彼の前では、ドリッカーはまるで子供のようだ。
「連続技には連続技なりのやり方ってものがあってな。ただ技を早めに繰り出せばいいってのは絶対にない。自分の身体の動きにあわせた一番だしやすい攻撃を、状況判断で打ち込んでいくしかない。そこら辺はよく理解しておけよ。」
 ドリッカーが汗だくなのに対し、ゼロは汗一つかく気配すらない。ドリッカーは無駄だらけだ(それはゼロがずば抜けて強すぎるからであって、けしてドリッカーが弱いわけではない。常人から見ればドリッカーでもくそ強いのだ)。
「お前がくそ強いだけじゃないか。」
「この期に及んで何をいっているんだか・・・・・。まあいい。今日はこれでやめておこう。いくら何でもお前が可愛そうだからな。」
 でもこれで終わりなのではない・・・・・ゼロの口元はそういいたげだった。
 こんな実力では、計画を実行するわけには行かないな。とゼロは溜息をついた。
 
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