汎用生物兵器1
3 聖戦
四年後。
4087年、ドリッカーは八歳となり、ローズも四歳となった。
「・・・・・じゃあローズ、いってくるから。」
「・・・・・・・・行ってらっしゃい。」
どこも見えていないように虚ろな瞳でローズは答える。まるっきり生きている感じのしない人間・・・・・・・。今のローズは、人間とはとても思えないほどに無感情だった。
ローズは生まれてから今まで、親の愛と呼ばれるものをもらったことがない。故に人間的な成長などできるはずはないし、いつも何かを儚んだように虚ろに外を見ているだけだ。
「ねえゼロ。」
「なんだ?」
ドリッカーが外で待っていたゼロに話しかける。表情があまり優れていない。
「ローズ・・・・一人にしといて大丈夫かな?」
「大丈夫だろう。今日はアイリスが休みだから、面倒は見てくれると思う。」
「そういうことじゃないんだ。ただ・・・・・。」
「ただ?」
ドリッカーの小さな呟きを、ゼロは聞き逃さなかった。
「僕たちが見ないうちに、消えていたりするような、そんな気がする・・・・・・・。」
ドリッカーの呟きは、子供のものとバカにされても仕方ないものだった。が、ドリッカーは真剣だ。
確かに、ローズには放って置いたら消えていきそうな、そんな感じがする。
ローズは今、普通の人間並みの教育を受けてはいる。だが、人間的な感情の欠落している彼女には、風のように消えていきそうな雰囲気がある。ドリッカーは、それを心配しているのだ。
今日は、とりあえずローズのことをアイリスにまかせ、軍にはいるための試験を受けにいくところだ。もちろんゼロがではない。ドリッカーが、である。
ドリッカーはそのうちに、リーバードを根こそぎ全滅させようと考えている。だからその力をつけようと考え、ゼロに戦闘の訓練をしてもらったのだ。とりあえず、それを生かすために軍に入れとゼロが進めたのだが、本人が猛反対。実戦は経験できないぞとのゼロの言葉から、しぶしぶ入ることを認めたのである。
「でも軍服ってなんかやだな。」
「何故だ?」
「動きにくいじゃない。」
ドリッカーが仏頂面でぶちぶち文句を言う。だが、ゼロは笑って聞き流すだけ。
「作戦に合わせたいろんな専用服がある。それを着れば対して変わりはないさ。」
「ホント
かなあ?」
納得すらしない。朝っぱらから完全にふくれているため、手のつけようがないのも事実だ。ドリッカーは思いこんだらすぐという正確だから、あまり周りを考えない。
「ゼロ・・・・試験って何するの?」
「紙面テストと実技テストだ。」
「紙面って・・・・実技はともかく、それは自信ないよ。」
ゼロが一つの紙切れを取り出した。
「何これ?」
「テストに出てくる問題の案内だ。」
ドリッカーがさっと目を通し、口に出して読み上げてみる。
「・・・・・・・・軍にはいるための心がけ並びに、mother2に対しての忠誠心の確認?」
「そう。単なるアンケートでしかないわけだ。適当に文面考えて書いておけ。」
「僕は別にmother2に対しての忠誠心なんかないんだけど・・・・・・・。」
ドリッカーはゼロに聞こえないように、そっぽを向いてぶちぶちいっていた。
「そう力むこたない。適当にやればいいのさ。」
ゼロは納得のいかないドリッカーを強制的に納得させたあと、ドリッカーにある兵器を出して見せた。
「それは?」
「重刃。重力を変幻自在に操る兵器だ。」
聞き覚えのない兵器は、剣の柄のようで、ちょうど持つと人差し指と中指の間が突出している。近代的な、むしろビームサーバー的な雰囲気を感じさせる。
「でもこれ・・・・・・ビームサーバーより数段軽いし・・・・・・・。ビーム口のところが全くデザイン違うんだけど。」
「あのな・・・・俺の説明を聞いてなかったのか?」
ゼロは前髪で目を隠しているため表情はわからないが、多分片側の眉をひきつり上げているだろう。
「全く聞いてなかった。」
追い打ちをかけるようにけろっとそういったドリッカーに、ゼロは口元をひきつり上げていた。
「重刃は重力を自在に操れる機械だって・・・・・・いっただろう。」
「そうなの?」
このとき、ゼロは初めてドリッカーが話をよく聞かない人間だということを理解した。
ドリッカーが初めて訪れた、全艦隊司令部。本人としては、黒幕の巣だとかなんとかぶちぶち文句を言っているので、建物をまともに見ようとしてはいない。ゼロも慰めようとするのだが、頑固者のドリッカーには馬の耳に念仏だ。
「ぶつぶつぶつぶつ・・・・・・・。」
「おい!いつまで文句いってるんだよ。早くしないと試験が始まるぞ!」
聞く耳持たない。ドリッカーはゼロにしぶしぶついていくものの、まるっきりやる気が感じられないのである。周りを歩いていくリーバード達も、数々の実績を立てた有名な特一級粛正官と、小さなものがいるだけで、異様な感じを憶えていった。
「いい加減にしてもらおうか?」
「?」
後ろから、ちょっと癖のある男性の声が聞こえてくる。が、ドリッカーには何をいっているか全くわからない。
リーバードと人間の使う言語は、ほとんど違うものだ。知らなければ全く理解できないものなのである。やはり、ほとんど接点のないリーバードと人間の悲しい結末の一つである。とりあえず話を戻す。
「そのガキに艦隊試験を受けさせるつもりか?」
「何が悪い?」
ゼロは全くそっけのない返事をしてよこす。ゼロの前に現れた長身のリーバードは、さっきから根目上げるような視線をゼロに向けている。しかし、ゼロは気がついていないのか、それとも嘲笑しているのか・・・・・・・。
「お前は・・・・そいつをどうするつもりだ?」
「この艦隊に投入する。それだけだ。」
「こんなガキを投入するつもりか?」
「だから何度いったらわかるんだよ・・・・・第一、お前は中尉だろうが。」
ゼロはあの手この手でその中尉を丸め込もうとする。が、ひく様子はない。
「ったく・・・・・大尉。お前は何もわかってはいないな。そいつは人間だぞ。」
「・・・・・・・だからなんだというんだ。」
「人間であるということは、我々に反旗を翻す存在であると・・・・・・。」
中尉がそこまでいったところで、ドリッカーを連れてゼロは会場に向かいだした。
「待て!話を聞け!!」
「中尉。お前はもう少しまっすぐ物事を見るべきだな。」
「何・・・・。」
次に何かを言おうとした中尉は、背筋に感じた寒気で口を継ぐんだ。
「俺達を作り上げたのは人間だろうが。」
それだけを言ったゼロは、見る者全てを凍らせるような視線を中尉にたたきつけた。
「っく・・・・・・。」
もう言うべきことは何もない。あと判断するのはお前だ・・・・・・・。ゼロの視線は、敢えてそのようなことを言っているかのように軽蔑を送っていた。
「ゼロ、あれは一体何を言っていたの?」
「ん?ああ・・・・・・・・別に何も言ってないよ。つまらないこと言ってきたから黙らせただけだ。」
「ならいいけど・・・・・・・・。」
ドリッカーには、どうしてもそれが自分のことを話しているようにしか思えなかった。まるで、自分を拒絶するような目で自分を見ていたからだ。
不安で仕方がない。第一、こんな所にいること自体がそもそもの間違いなのだ。自分がここにいるだけで、リーバードにとっては敵が現れているのと同じなのである。自分は邪魔なのけ者に過ぎない・・・・・・・・。ドリッカーにとって、その事実は重く自分の背中のしかかってきた。
「どうした?浮かない顔してるじゃないか。」
「うん・・・・ちょっと・・・・・・、何でもない。」
ゼロはそんな元気のないドリッカーを、慈しみのまじり言った目で見つめているだけだ。今の所ドリッカーの理解者は、この世界に二人しか存在しない・・・・・。
ゼロと、ゼロの副官のアイリスだ。
ゼロはこの四年間、ドリッカーのことを見守っていてくれているし、アイリスに関しては、リーバードにしては珍しく人間が全滅したことを嘆いているようだ。それに責任を感じて、ドリッカーやローズを守るようにしている。それに、もう一つ気になることとして、その場合に必ずゼロが出てくると言うことだ。
もしかしたら、アイリスさんはゼロのことが好きなのかも知れない。
リーバードが同じリーバードを愛する可能性は、万が一にもあり得ない。そんな無駄な感情を持たせても仕方ないのである。だとしたら、当然この考えが頭に浮かぶはずだ。
もしかして二人とも人間なのかも知れない・・・・・・・。
信じたいが、何となく信じることは許されない感じがする。これでは余りにも悲しすぎ
るのだ。
でも・・・・・・本当にそうだとしたら、自分の口から伝えて欲しい・・・・・・。
今は、そう思うしかない。そう思って生きるしかないのである。大事なのは見極めることと、それを信じて生き続けることなのだ。
「ゼロ、試験には間に合うの?」
「ああ・・・・・実はあと三十分ぐらいあってな。時間をどうやってつぶそうか迷っているんだ。」
ゼロはほとほと困り果てた様子だった。多分、子供のドリッカーを気遣っているのだろう。
「いいよ・・・・・僕は三十分ぐらいなら我慢できるし。」
「本当か?途中で退屈だって騒ぐんじゃないだろうな。」
「そんなこと、しないよ!」
顔を真っ赤にして怒るドリッカーを、ゼロはからかうように笑っている。しかし、この光景に妙に違和感がないところが、また彼等らしいのである。
エリートの大尉が、人間を飼っているらしい
この噂は、この日を境に瞬く間に広がっていった。でも人間と同じく利己的なリーバードは、一緒に生活している、
等という表現は一切しない。飼っている、の一言で片づけてしまっている。
「さ、紙面テストからだったな・・・・・・。」
「うん。」
「行って来い。他の奴に何かされても、毅然とした態度を崩さないようにしろよ。」
「・・・・・・わかってるよ。」
リーバードの中に人間が入っていくと、虐待を受けるのが目に見えている。子供なのならなおさらだ。もちろん先にあるものは死でしかない。リーバードのに殺される人間の大半が、なぶり殺される等の惨めな死に方しかしていないのだ。
ドリッカーの父親、ライトもただ殺されたのではない。爆発により吹き飛ばされ、その死体をリーバードに囲まれるようにいたぶられたのである。遠目ながらその光景を目にしたドリッカーだったからこそ、リーバードを一生許すことのできない存在と見ているのである。
試験会場には、初々しい士官学校の生徒ばかりが集まっており、けたたましく試験問題について講義を重ねている。ドリッカーには何を言っているかはわからないが、真剣な表情で話しているので試験のことについて話
をしているのがわかる。が、どうせそんなものを耳にしても対して意味のないことは、ドリッカー本人が一番わかっているようだ。
「全く・・・・・何がそんなに面白いのかな・・・・・。」
一つ溜息をついて、倒れ込むように机に突っ伏する。同時に置いてある鉛筆が腕に刺さり、ちくりとした痛みが伝わってくる。が、気にする様子もない。
「父さん・・・・・・・。」
今は亡き父親の姿が脳裏に浮かぶ。が、次の瞬間にはその姿はゼロへと豹変していった。
「え・・・・・・?」
今はほぼ父親の変わりとなったゼロの姿は、くっきりと脳裏に焼き付いている。
「・・・・・・・ちっ。」
小さく舌打ちをしたあと、ドリッカーは身を再び起こした。試験開始を知らせるブザーがなったのである。
数十分後、ドリッカーはただ出された試験問題を、あくびまじりに書き終えた。その問題全てが意味のないものでしかない。が、ドリッカーにはそんなことはどうでもいい。
「全く・・・・・・早く戻ろう。」
と、立ち上がって歩きかけたところで、一体のリーバードと接触した。
向こうは気を悪くしたらしく、何やら盛んにまくしたててくるが、ドリッカーには聞き取りようもない。何となくめんどくさくなったので、携帯用のトランスレーターを耳にとりつける。
「・・・・・・なんだよ!わかんのかこのガキ!ぶつかって謝りもなしかよ。」
「ああ・・・・すいません。トランスレーターをつけるのが遅れてしまったようで。」
澄ました顔でそう答えるが、もちろん向こうは納得するはずもない。
「謝りゃいいってもんじゃねえんだよ!」
「でも謝れっていったのはそっちでしょ?」
もちろん、相手が逆切れしたのは言うまでもない。
しばらく論争が続いたが、実技試験に遅れる可能性もあるので、双方引き下がった。向こうはお約束の「覚えてろよ!」等と言い残していたが、ドリッカーはそんなことを気にする気もなかった。
「・・・・で?たったそれだけで論争になったってのか?」
「うん。」
ゼロは呆れて方をすくめてみせる。
「あのな、気にするなっていっただろう!」
「向こうが突っかかってきたんだよ。少なくとも、僕に非はないね。」
ドリッカーはあくまで自分の態度を壊すつもりもないらしい。元々気の強い正確であるドリッカーは、口げんかに置いても強硬な態度を崩すことはないのだ。
「・・・・・・まあいい。次は実技試験だ。がんばれよ。」
「・・・・・がんばる必要性がないんだけどね。」
「お前な・・・・まだ気にしてんのか?」
「気にするつもりはないんだけどね。」
そうは言っているものの、ドリッカーの表情がひきつっていることは容易にわかる。もちろん、それはリーバードの巣にはいることへの抵抗なのだが。
実技試験の会場は、軍でも使うような大規模な運動場だ。なんて言うかただでかいだけで使ってはいないといった雰囲気である。
第一種目は射撃。各々のバスターで目標を攻撃。全弾命中させることができれば合格となる。
ドリッカーの前のリーバードが、間抜けな格好でバスターを放った。が、目標の動く的にかすることすらしない。これは間抜けである。
「もういい。戻りたまえ。」
それだけをいわれて、ドリッカーの前のリーバードはとぼとぼと去っていった。
「次!ロックマン=ドリッカー候補生!」
「はい。」
ドリッカーはすたすたすたと歩み寄り、バスターを用意する。
「用意、始め!」
次の瞬間、ものすごい速さで的が移動していくのだが、ドリッカーはそれを造作もなく撃ち抜いていく。それは一つもはずすことなく、的を全て射抜いていた。
「合格!」
周りから歓声がわき起こる。これをクリアできるリーバードは千体に一体。それをこのような小型のものがクリアしたのだ。歓声が起こるのも無理はない。
次は体力試験。ただ走り回るだけである(ただし10000メートルだが)。
ドリッカーはこれすらも造作なくしてクリア。リーバードはが途中でエネルギーを供給することが出来ないため(光のない状況でどれくらい動けるかが課題)、合格者は少ない。つまり、いかにエネルギーを消費しないように走りきるかがこれの問題である・・・・・が、ドリッカーは二位に三百メートル差を付けてぶっちぎりの一位。もちろんばてることすらしてはいない。
次。剣技。
まあ勝ち上がった者を合格させるというだけの、テレビ番組でやりそうな企画(?)である。
ドリッカーはどれもこれも瞬時に薙倒した。他の者をよせつけることなく快勝。これもドリッカーに対しては全く意味をもたらさないものとなってしまった。
次。兵器運用における技術的審査。
壊滅
次。的確な指示。
白星
次。指示を聞いてからの的確な行動力。
撲滅
これ以上の掲載は無駄だろう。とりあえず、ほぼ完璧にクリアしたことだけは確かである。
ドリッカーは今日一日で、ほぼ完璧に種目をこなした。明日の試験をやる必要もなく、完全な合格である。
家に戻ったドリッカーとゼロを迎えたのは、意外にもローズであった。
「お帰りなさい。」
それだけをいうと、ローズは自室の中に消えていった。何をしているのかはドリッカーも、ゼロも全く知らない。彼女だけの秘密である。
しばらくしてアイリスが帰ってきたのだが、どこへ行っていたのかは言ってはくれなかった。
「・・・・・・それで、どうでした?ドリッカー君の試験・・・・・。」
「ああ。」
ゼロはドリッカーとローズが寝てしまった深夜に、煙草に火をつけた。
「あいつは完全なまでに満点だ。ミスすらない。」
「そうですか・・・・・・。・・・・・・・でもよかった。」
「え?」
「ドリッカー君が、怪我しなかったから。」
ゼロはその言葉を返すように、煙草をふかした。アイリスはそんなゼロを、慈しむような目で見守っているだけ・・・・・・・・。どことなく暖かい風景は、ゼロやアイリスの暖かさを描写しているようだった。
「あの・・・・・大尉。」
「大尉はやめてくれよ。そういう呼び方はあまり好きじゃないんだ。」
「じゃあ・・・・・・ゼロ。」
改まったように話しかけてくるアイリスは、ただゼロを見つめているようだった。
「これにだけは答えて欲しいんです。」
「?」
「あなたは・・・・・人間なんですか?」
虚を突かれたようにいきなりそんなことを言ってくる。ゼロは気にしていないような素振りを取りながらも、少し動いた眉が驚いたのを表しているようだ。
「・・・・・・だったとしたら?」
「同じですね。私と・・・・・・・・。」
・・・・・・・。
今度は完全に驚愕の表情をしているゼロが、アイリスの目に入った。
「私は・・・・・人間です。」
「どうして・・・・・・。」
ゼロは詰め寄るようにアイリスへと近づいていく。
「どうして黙っていたんだ・・・・・・・。」
「あなたは・・・・・どうなんですか?」
「・・・・・。」
「人間なんですか?」
そう詰め寄ってくるアイリスに困り果てたゼロは、事実を認める心の隙間はないが、やはりこれは嬉しいこと以外の何者でもなかった。
「・・・・・・ああ。」
その答えを聞いた途端、アイリスは涙とともにゼロに抱きついた。声を押し殺して泣く姿は、今までの寂しさを象徴しているようだった。
ゼロは自分が涙を流していることが理解していなかった。そんな自分を認めたくなかったというのが本音かも知れない。しかし、きっと彼はこう思っていたはずである。
自分には仲間がいたのかも知れない・・・・・・と。
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